コロナ禍で出てきた多くの労働トラブル。こんなときこそ、労働組合の力が求められる。しかし、ネットを眺めてみると、労働組合に抵抗感のある人も少なくない。

たとえば、労働組合がおこなう平和運動。どうして労組と戦争反対が結びつくのだろうか。労働者をほったらかしにして、特定イデオロギーに基づいた政治活動ばかりしているのではないか――。

世間に渦巻くこうした「アレルギー」を当人たちはどう考えているのだろうか。日本最大のナショナルセンター・連合の山根木晴久氏(総合運動推進局長)に、ネットの疑問をぶつけてみた。(編集部・園田昌也)

●「700万人」の組織だからこそ…

――連合が平和運動をしているのはなぜですか?

「もともと組合は、弱い立場の労働者が集まって、貧困や差別などに立ち向かおうという性質があるので、平和には敏感です。

すべての営みは平和であることが大前提です。また、労組は憲法で団結する権利を守られた存在ですから、憲法が謳う平和や社会正義に取り組むのは当然だと考えています。

平和って市民運動の力に依るところが大きいんです。連合は700万人の組織ですから、大きな市民パワーを持っている。社会的役割を果たす責務があります」

――「平和」と言っても、人によって色々な捉え方があるのでは?

「たとえば、日本は唯一の原爆被爆国です。核兵器の廃絶は世界共通の大きなテーマであり連合全体で取り組んでいます。

また、連合が平和運動で重視してきた場所の一つが沖縄です。沖縄の米軍基地には必要という声もあります。連合もゼロとは言っていなくて、整理縮小を主張しています。

我々は日米安保の役割は評価し今後も継続することを確認しつつ、日本にある米軍基地のあり方を見直し、過度に沖縄に偏った基地負担は解消すべきだとの考えで意思統一しています。日米地位協定の抜本的見直しも同様です。

もうひとつは、北方領土返還の問題です。このテーマは単に領土返還だけを求めるのではなく、隣国の軍事大国ロシアとの平和条約締結を目的とすることで組織内の意思統一を図っています。

組織内で意見が食い違うことはあります。イデオロギー的な立場を排し、普遍的で誰からも納得、共感を得られるよう議論を尽くして最大公約数的な考え方を広げ、主張をその範囲内に絞り込むという民主的なプロセスを大事にしています。

ただし、その分、外からはアピール内容が分かりづらくなっているという側面はあるかもしれません」

●本当に労働者のために動いている?

――ネットなどで見られる労働組合への忌避感をどう捉えていますか?

労働組合も組織によってさまざまですが、1つには、どうしても過激な運動が目立ちやすく、労働組合ってこういうものだ、というイメージ、先入観が固定化されているのかなと思います」

――批判の中には、「労働者のための活動といっても、正社員だけじゃないか」など、いわゆる「正社員クラブ」批判もあります。

「これは我々も反省点として捉えています。確かに連合の組合員は正社員が多いのは事実なので『正社員の代弁者』のように見えても仕方がないかも知れません。

でも、最低賃金の引き上げや、コロナ禍における雇用調整助成金の特例措置の継続への取り組みなど、パート・有期・派遣など、いわゆる非正規雇用や中小・地場で働く労働者のための政策に全力を挙げているんです。

また、連合は労働組合の外にいる労働者の組合員化に力を入れています。いわゆる非正規雇用の組合員は120万人に上り、年々増えています。2020年の組合員数は全体で700万人を超えました。ナショナルセンターで組合員数が増えているのは連合だけです」

――コロナ禍では、その非正規労働者が弱い立場になっています。

「たとえば、従業員の休業手当を国が肩代わりする『雇用調整助成金』があります。特に非正規雇用の方で、支給されないどころか解雇されるケースが問題になっています。

労働組合がある職場では、休業手当の支給はもちろんのこと、交渉して100%もらえているところも少なくありません。職場に組合がない人などに向けては、HPやSNSでの発信を通じて周知に努めています。

また、連合の労働相談を通じて困っている方々にアドバイスしていますし、全国の都道府県に設置している地域ユニオンでは相談者に寄り添い、共に交渉しています。そこで得られた社会課題は政府や政党にもしっかり伝えています」

――そうした実績や流れはあまり表に出ていないように見えます。

「実は、コロナ禍の働く現場の様子を記者さんから頻繁に聞かれますが、我々がそうした相談に対応し、解決に向けて取り組んでいることまでは、なかなか報道してくれません。名前が出なくて、『労働組合によると』といった書き方になるんです」

●政治との距離、野党との距離

――どうして組合の活動が報じられづらいと考えていますか?

マスコミ報道もあってか、連合が労働組合というよりも、立憲民主党国民民主党の支持母体としての捉えられ方が強調されていることがあると思います。連合の名前を出すと、どうしても政治文脈になってしまう。

『700万』という数があり、過去には政権交代も実現できた。我々も政治的な影響力を行使しうる側の一角にあるとは思っていますが、偏った捉え方に対しては忸怩たる思いもあります」

――野党の支持母体だと、やはり与党には批判的なのでしょうか。たとえば安倍政権下では、残業の上限時間ができました。労働者を保護する仕組みと言えますが、野党側からは上限が過労死ラインぎりぎりであることや、高度プロフェッショナル制度の導入への反対運動もありました。

「是々非々で考えています。労働基準法70年の歴史で、初めて上限ができたことには大きな意義があります。与党と合意した連合に『けしからん』との声もありましたが、実際に労働時間の短縮につなげる運動の下支えになっていると認識しています。

2020年スタートした同一労働同一賃金も重要です。格差の是正に向けて、組合として取り組みを推進していかなくてはなりません。

連合の方針は『左右の全体主義を排する』なので、共産党以外には私たちの考えを伝えていく。労働者のための政策を実現しようとすれば、政治からは逃げられません。その意味では、政治活動もやはり重要ではあるんです。

連合は、民主政治を実現するためには政権交代が可能な緊張感ある政治体制が求められると考えています。そのようなスタンスから選挙で応援する政党はありますが、政党と一体ではありません。

私たちは労働組合ナショナルセンターの立場から、自民党公明党、官邸に出向くこともあります。与党側と会えば、メディアは政局に絡めたがりますが、それに振り回されず、組合員、労働者のためにやっていかなくてはいけない」

――安倍政権下では、「官製春闘」によるベースアップや全国平均1000円に向けた最低賃金の上昇などもありました。

「どうしても、『果実』を持っていかれてしまいますが、総理大臣が何かを言ったからって、話が自動で進むわけではありません。会社と交渉するのは現場の労働組合ですから。

労働政策は基本的に『公労使』の三者協議で進みます。たとえば、最低賃金だって、連合は『労』の代表として、使用者代表側と喧々諤々議論をしながら引き上げに取り組んでいます。

この辺りは外からだと見えづらく、これまで以上に、やっていることや取り組みを発信していく必要も感じています」

●「デモ」への忌避感、組合活動のあり方

――その「発信」を今後どうしていきますか。連合が今年4月に発表したアンケート結果では、社会運動に関心のある市民が多い一方で、デモなどには「主張の押し付け」や「怖い」などネガティブな意見が強いという結果が出ていました。

「デモでこちらは一生懸命伝えているのに、伝わらないどころか忌避されているのであれば、それはただの自己満足と言わざるを得ません。

私自身もアンケート結果を見ていて、『ゆるい運動で良いのか』という気持ちがないわけではないのですが、運動主体と市民の受け止めとの間に相当な温度差がある以上、やり方を工夫する必要があります。

ただ、デモが過去のものかというと違う。たとえばの話ですが、『消費税50%になる』なんて状況が起これば、みんなデモに参加するんじゃないでしょうか。私は2004年プロ野球選手会のストライキにかかわったことがあります。あのときは、世論が選手のほうを支持してくれました。

大事なのは声を出せば、行動すれば、社会が変わるという手応えを広げること。テーマとそれに合ったアプローチ、結果の共有など運動の仕方を模索して、共感を広めていかねばなりません。そのための発信を強化していく必要を感じています」

なぜ労組アレルギーが生まれる? 平和運動の意義は? 連合に聞いてみた