現在東京・帝国劇場にて上演中のミュージカル王家の紋章』。開幕2日目の昼に行われたゲネプロを鑑賞した。

脚本・作詞・演出を荻田浩一、作曲・編曲をシルヴェスターリーヴァイが手がける本作は、細川智栄子あんど芙~みんの漫画『王家の紋章』(秋田書店)を原作とするミュージカル2016年に初演、翌17年に再演され、今回が3度目の上演となる。劇中では、古代エジプトタイムスリップしてしまったアメリカ人の少女・キャロルと、古代エジプトの少年王・メンフィスロマンスをはじめ、二人を取り巻く人間模様が描かれる。

“暴君”ともいえる傲岸不遜なメンフィスを演じるのは、初演と再演で同役を務めた浦井健治と、今回の上演版で新しく起用された海宝直人。キャロル役は、いずれも新キャストとなる神田沙也加と木下晴香が務める。取材日は“海宝メンフィス”と“木下キャロル”の組み合わせだった。

海宝直人(手前左) 木下晴香(手前右)

当世のエジプト考古学を学ぶキャロルは、メンフィスが眠るピラミッドの発掘に参加したことで彼の異母姉・アイシス朝夏まなと / 新妻聖子:Wキャスト)の怒りを買い、彼女の呪術によって古代エジプトへ弾き飛ばされる。金髪碧眼で現代人としてのモラルや知恵を持つキャロルの言動は古代エジプト人の注目を集め、いつしか「ナイルの娘」「黄金の姫」と崇められるように。メンフィスから求愛を受け、反発しながらも心惹かれるようになったキャロルのもとに、隣国ヒッタイトの王子・イズミル(平方元基 / 大貫勇輔:Wキャスト)が現れてーー。

奴隷扱いしていたキャロルを「愛(う)いやつ」呼ばわりするなど“ドS”のツンデレキャラとして知られるメンフィスを、海宝は誇り高い人物として造形。伸びやかな高音が力強くも甘く響く歌声はファラオ(王)でありながらも高貴なプリンス然としており、品のあるメンフィス像を印象づける。特に、2幕中盤でキャロルを救うために戦いへ赴く決意を高らかに歌い上げる「Wavering Mind」のラストは必聴だ。

木下晴香(左) 海宝直人(右)

考古学を愛するがゆえに、タイムスリップ先でも旺盛な好奇心で周囲を翻弄していくキャロル。演じる木下は、天真爛漫で“陽キャ”な彼女の魅力を振り撒くだけに留まらない。「I’m not Your Slave」でメンフィスの傍若無人な振る舞いに強く憤ってみせたり、メンフィスと愛を確かめ合う「Love to Give」で恋人と生きる時代を異にする境遇に一瞬ためらったり、観客が劇世界へ没入・共感しやすいフックを設けていた。

木下晴香(中央)

出色だったのは、このゲネプロアイシス役を務めていた朝夏による「Unrequited Love」だ。兄弟姉妹間での結婚が当たり前だった古代エジプトにおいて、異母弟と結ばれることだけを念頭に下エジプトを治めてきたアイシスは、キャロルを選んだメンフィスから強く拒絶される。絶望の淵で歌い上げる同ナンバーでは、それでもメンフィスを愛し続ける一途な痛ましさを落ち着いた低音に滲ませた。

左から アイシス役:朝香まなと メンフィス役:海宝直人

この日、隣国ヒッタイトの王子イズミルに扮していた大貫は、メンフィスの好敵手として妖しい色気を振りまく。特にキャロルの叡智と美しさに惚れ込み、巧みな話術で自国へ連れ去ろうとする艶っぽい表情はオペラグラス持参でチェックされたし。持ち前の高い身体能力を活かしたメンフィスとの決闘シーンや、激情をほとばしらせる歌唱ナンバーなど見どころも多い。

左から キャロル役:木下晴香 イズミル役:大貫勇輔
イズミル役:大貫勇輔

キャストの健闘によって、さらにパワーアップしたミュージカル王家の紋章』。こうなると浦井メンフィス・平方イズミルをはじめとする続投キャストや、キャロルからアイシスへ役替わりした新妻のパフォーマンスも気になってくる。4年ぶりの復活に、初演・再演を見届けた“王族”(作品ファンの総称)も新たな楽しみ方が加わったのではないだろうか。上演時間は約180分(休憩含む2幕)。

取材・文:岡山朋代

ミュージカル『王家の紋章』ゲネプロより、左から メンフィス役:海宝直人、キャロル役:木下晴香