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自分を牛と思い込んでしまう精神疾患「ボアンソロピー」
 自分を人間ではなく他の動物だと思い込んでしまう。これは非常に稀な精神疾患で「獣化妄想」と呼ばれており、臨床報告されたのは56例(1850~2012年)だが、報告されていないケースもいくつかあるだろう。

 中でも自分を牛だと思い込んでしまう獣化妄想は「ボアンソロピー(Boanthropy)」と呼ばれている。

 人間なのに、四つん這いで歩き、草やウシのエサを食べ、会話もせずにモーと鳴き、牧草地でウシの群れに合流したりといった具合に、まるでウシのような生活をしようとする奇妙な症状を示す。

【新バビロニア王国の王はボアンソロピーだった?】

 牛だと思い込んでしまう獣化妄想「ボアンソロピー」の症状を示したとして知られる最も有名な歴史上の人物は、新バビロニア王国の2代目の王、ネブカドネザル2世である。

 旧約聖書の中で「彼は人間の社会から追放され、牛のように草を食らい」(ダニエル書4章30節)と書かれている。

 ネブカドネザル2世は、紀元前605年から562年まで新バビロニア帝国の王だった。聖書によると、彼はユダとエルサレムを征服して、ユダヤ人を追放し、バビロンの空中庭園を作ったとも言われている。

 ダニエル書によると、神からその冷酷な権力支配と功績自慢を戒められたネブカドネザル2世は、正気を失って7年間動物のように暮らしたという。その後、正気を取り戻した彼は神を称賛し、敬意を表したという。
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獣化妄想の原因

 獣化妄想であるボアンソロピーに陥ると、自分は牛だと信じ、牛のような振る舞いをする。四つん這いで歩き、モゥーッと鳴き、気づかずに草を噛んだりする。

 牛のような行動をとっても、本人はそれに気がついていないようで、専門家はこのような奇妙な精神疾患は、夢か催眠術によって引き起こされたものと信じた。

 獣化妄想の原因はいまだによくわかっていない。信仰と関係があるという人もいれば、妖術や黒魔術が絡んでいると考える人もいる。

 臨床的にみられる獣化妄想は、自分が動物に変身している、あるいは変身したと思い込む、珍しい変身妄想の一種である。

 こうした現象は、カプグラ症候群(親しい関係にある他者が、その人によく似た替え玉に置き換えられているという妄想)、フレゴリ症候群(見知らぬ他人をよく知った人物と取り違える現象)、二重記憶錯誤(reduplicative paramnesia)などと並んで、妄想性誤認症候群の一種であると考えられる。

 統合失調症スペクトラム障害や、重度の精神病うつ病の患者によく見られ、サイコセラピーや精神薬理学治療がよく施される。

 また、梅毒が引き起こすポルフィリン症や、全身麻痺、麻痺性痴呆なども考えられる。

 ポルフェリン症は、珍しい遺伝性血液疾患の一種で、この障害をもつ人は、体内でヘムと呼ばれる物質を作ることができない。ヘムとは、鉄と結びつくポルフィリンという体内化学物質でできていて、赤血球の中で酸素を運ぶタンパク質であるヘモグロビンの構成成分。幻覚、うつ、不安、パラノイアなどの神経的合併症や、皮膚のトラブル、あるいはその両方が現われることがある。
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photo by Pixabay

ボアンソロピーが出てくる作品

 15世紀にイランで活躍した詩人のジャーミーは、自分を牛だと思い込む妄想癖をもつうつ病の男のことを、作品『七つの王座』の中で書いている。
人のいい王子がふさぎこむようになって、やたら叫び続けていた。「町には私より太った牛はほとんどいない。料理人が私の肉でハリッサ(グラーシュ)を作ったら、彼のポケットはたちまち銀の宝に変わるだろう。さあ、早く私の喉をかっさばき、屠殺場へ連れていけ」と。

朝から晩までこんな状態で、王子の友人たちの間では、この話題でもちきりだった。さらに、王子は昼も夜も、牛のようにモーモー鳴いてばかり。「ナイフかナタで、私を殺してくれ。さもないとどんどん体重が減ってしまうから」

ついに、王子は食事や治療を受けつけようとしなくなってしまった。誰も王子のこの状態を改善することができなかったので、ペルシャの医学者イブン・スィーナーの助けを求めた。

すると、イブン・スィーナーは「明日の朝、肉屋がナイフを持ってあなたを殺しにくると王子に伝えなさい」と指示した。

これを聞いた王子は喜んで小躍りした。翌朝、イブン・スィーナーは王子の家を訪れ叫んだ。「牛はどこだ?」 王子が出て来て、庭の真ん中に寝転がり言った。「私が牛です。さあ、どうぞ殺してください」

イブン・スィーナーは王子の手足をしっかり縛り、ナイフを研いで腰を下ろした。そして、肉屋が動物のサイズを測るように、王子の体を調べその脇腹や背中を撫でた。

それから、イブン・スィーナーは言った。「この牛は、まだ栄養不良だ。今日、これを殺すのは賢明ではない。もっとエサを与え、決して飢えさせないように。十分に太ってから殺しても遅くはない」

そして、王子の手足のいましめを解き、目の前に食べ物を置いた。王子は与えられる食べ物をすべて食べ、薬も飲んだため、体重が増えていったが、ついには自分が牛だという妄想も消えた

イブン・スィーナーは実在する人物で、イスラム世界でもっとも偉大な哲学者・医者・科学者とされている。

 およそ450冊もの本を書き、もっとも影響力のある医学書のひとつ『医学典範』や『治癒の書』は、医学書の基準として17世紀までずっと使われた。
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イスラム世界が生み出した最高の知識人と言われるイブン・スィーナー image by:Adam Jones / WIKI commons

獣化妄想に関するあれこれ

 獣化妄想として知られる臨床上の最も古いケースは、ロバード・ベイフィールド1630~1690年)が出版した『Treatise de morborum capitis』(ロンドン版「頭部の疾患」は1663年刊行)の中で報告されていて、動物に変身する状況が包括的に記されている。

 リカントロピー(Lycanthropy)はいわゆる狼化妄想のこと。夜になると墓場や野原で吠えたり、遠吠えしたり、日中はほとんど姿を見せずに隠れ、まるで自分をオオカミのような野生動物だと思い込んでしまう症状だ。

 サイナンスロピー(cynanthropy)は、古代ギリシャ時代にさかのぼり、人間と犬の姿を交互に繰り返す変身能力のある者のことを示した。

 セリアスロープ(therianthrope)は、獣人ともいい、人間と動物の両方を兼ね備えた存在のこと。ギリシャ語で野生動物を意味するtherionと、人間を意味するanthroposを組み合わせた言葉である。

 もっともよく知られたセリアスロープは、古代エジプトの動物の頭をもつ神々だろう。古代エジプトの神や女神のほとんどは、猫の頭をもつ女神バステトや、ジャッカルの頭をもつアヌビスなど、人間の体と動物の頭をもつ姿で描かれている。
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『死者の書』に描かれたアヌビス / image credit:public domain/wikimedia
References:Boanthropy — One of the weirdest disorders you've never heard of | by Amber Blaize | Our Weird & Wonderful World | Medium / written by hiroching / edited by parumo

 
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