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山形の田んぼの中に突然現れる41階建てタワーマンション(写真:住民提供)

コロナ禍によってリモートワークが導入されるなど、大きく変化した働き方。山村の自然に囲まれた一軒家で、土いじりをしながらゆったりと暮らす――。そんな地方への移住を想像したことがある人も多いのではないだろうか?

そうした田舎暮らしのイメージと逆行するのが、山形県上山市の田んぼの中にそびえたつタワーマンション「スカイタワー41」だ。珍しい光景が話題となり“日本一安いタワーマンション”と呼ばれ、ネット上でしばしば話題になっている。

千葉県佐倉市の「ユーカリが丘」開発で知られる不動産デベロッパー・山万の関連会社、山万アーバンフロント(’14年に破産)が開発し、’99年に完成したこのタワマン。41階建て全389戸の分譲マンションで、高さは東北一の134メートル、最寄り駅の山形新幹線かみのやま温泉駅までは徒歩30分ほどだ。物件はすべてファミリー向け(70~110平方メートル)で、完成当初は2~4,000万円で売り出したという。住宅情報サイトに掲載されている、直近10年の参考価格は750~1,250万円ほど。現在のところ、インターネット上で売りに出ている部屋はない。

しかし、同地区では同じだけの金額を出せば中古の一軒家を買うこともできる。なぜわざわざ田舎でタワマンに住むのだろうか……? そこで、スカイタワー41の上層階の住民に話をきいてみた。

■マンションに住むことで“あるもの”の節約に

「いや~、山形にこんなバカげたマンションはもう建たないだろうと思って買ったんです」

80代の住民Aさんは明るく語り出した。元サラリーマンAさんは、定年退職直前の’00年に2,500万円で3LDKの一室を購入。その際は、スカイタワー41の全389戸のうち40戸しか売れていなかったという。

「もともとは山形市内に住んでいたのですが、老後は静かで景色のいい場所で過ごそうと思い、ローンを組んで購入しました。それでも他の部屋がまったく売れなくて、1年たたないうちに値下げされ750万~1,000万円に。高く買った私としては、頭にきましたね……。でも、ここに住んで21年ですが年寄りには快適です。すべてバリアフリーだし、24時間2名の管理人がいるから安心。何をするにも便利だし」

田んぼの中にぽつりと建っているように見えるが、便利とはどういうことか?

「買い物は車で5分も走れば『ヨークベニマル』など3軒のスーパーマーケットもあって、地元の新鮮な野菜が手に入ります。それに、マンションから100メートルも歩けばセブンイレブンやクリーニング屋もある。駐車場も広いし、もう1台必要なら月3,000円で2台借りられますよ」

また、断熱効果の高いマンションは一軒家に比べ光熱費が抑えられるのも魅力だ。

「このあたりは盆地だから、夏は暑いし、冬は猛烈に寒い。けれど、高層階なら夏の盛りでも窓を開ければ、山からの涼しい風が吹き抜けます。クーラーをつかうのは年に数回程度です。冬は、市内の気温が氷点下だとしても、室温はつねに15~16度。一軒家に住んでいたときは一冬に灯油を150リットル以上使っていました。けれど、今は小さなストーブと18リットルの灯油ポリタンク1つで冬を越せます」

雪国の一戸建では避けられない、毎冬の重労働「雪かき」や「雪下ろし」から解放されたことも大きいという。

■高層階から楽しめる、美しき山々の眺望

そして、眺望の美しさは都心のタワマンに劣らない。

「きれいな夜景があるわけではありませんが、遠くの山々、田園風景などがよく見渡せる。とくに夕方になると、全体が黄金色に輝きます。そんな絶景を見ながらすごすのは最高の時間です。それに温泉街だから週に2~3回は温泉に入っています。車で2、3分のところには共同浴場があって、150円ほどで温泉が楽しめますよ」

さらに最近は子どもを持つ若い世帯も増えているという。

高速道路のインターがすぐ近くにあって山形市内までは車で20分ぐらいなので、十分に通勤圏内。小・中学校や、保育園も近くにあるからファミリー層には人気があるようです。冬になれば、車で30分も走ればスキー場につきますし、夏は近くの山でキャンプやハイキングなどを楽しんでいる家族も多いです。ただエレベーターが4台しかないから、朝はちょっとしたラッシュになりますけどね。まあ、あまり交流がないので、よくわかりません」

田舎暮らしにありがちな濃厚な人付き合いも、このマンションでは無縁ということか――。

都会のタワマンが富や憧れの象徴としての価値をアピールするのに対し、田園のタワマンは田舎暮らしにつきまとう“不便の解消”が売りのようだ。リモートワークを機に、自然のそばで暮らしてみたいけれど、面倒なことが多そう……。そう諦めていた人は、田舎のマンション暮らしを検討してみてはどうだろう。