yonawoセカンドフルアルバム『遙かいま』が、ファーストフルアルバム『明日は当然来ないでしょ』から約9カ月という短いスパンで届けられた。メロウでビタースウィートなサウンドを届ける新世代バンドの旗手として支持を集めるyonawoだが、歌の存在感やバンド感がぐっと増えた。亀田誠治冨田ラボプロデュースによるシングル2曲の存在感も強く、より歌と言葉が際立ったアルバムだ。

【写真を見る】スタッフ含めてメンバーみんな仲良しで笑いが絶えなかった撮影

荒谷翔大「僕の曲のストックをメンバーに聞かせて、それで20曲くらいの候補から収録曲を選ぶところからアルバム作りが始まりました。それに加えて、アルバムに収録するためのシングルを2曲書き下ろして」

田中慧「前作と違って、アレンジが打ち込みっぽいのは今回少なめになってますね」

荒谷「確かに前作は打ち込みシンセが多かったんですけど、セッションで作った曲だったり、生感っていうのも今回の一つの基準でした」

加えて歌謡曲というのも一つのキーワードだったという。

荒谷「冨田さんにプロデュースしてもらったシングル曲の『哀してる』は、元々中島みゆきさんの『化粧』を意識して作ったんです。僕は洋楽とかいろんなものから影響を受けてますけど、山下達郎さんとか井上陽水さんとかユーミンさんも好きで。

それで、yonawoをもっと広げていきたいと思ったときに、自分の好きなものの中にある大衆的な要素は歌謡曲だと思ったんです。その要素が今までは後ろにぼんやりある感じだったのが、曲単位で絞ってみたらどうなるんだろうなって思ったんです。他の曲でも、歌謡曲テイストが出てたりもして。プロデュースの亀田さんや冨田さんが、曲のメロディーを際立たせてくれたところもあると思います」

野元喬文「最近荒ちゃん(荒谷)が美空ひばりさんのジャズの名曲のカバーアルバムを聞かせてくれて、めちゃくちゃいいなって思って。僕も昔から歌謡曲は好きではあって。お姉ちゃんがピアノ習っていて、井上陽水さんを弾いててそれに合わせて歌ったりしてました」

歌が際立ったことで、荒谷の詩人としての魅力もより味わえる。

田中「今までの歌詞は、割とアンサンブルの中でのリズムや響きを重視しているのかなって思ってたんですけど、今回はメッセージ性が強いのかなと思いました」

荒谷「あ、僕もそういうことがやれたらいいなと思ったので、慧が言った通りですね。これまでは言葉としての響きを優先させていたんですけど。今回詞を先に書いて、その後できるだけ詞を変えずにメロディーを乗せた曲が多かったんです。さすが(笑)」

田中「荒ちゃんのファンなんで(笑)」

荒谷「(笑)それまで詞を先に書くなんて無理じゃね?っていう気持ちもあったんですけど(笑)、いろいろ新しいことをやりたいっていうこともあってやってみたら、詞に引っ張られるからこそオリジナル感が増す曲になるなって思ってハマっちゃって。

これまでは音が詞を導いてくれたけど、詞が音を導いてくれる感覚を味わって、とても素敵だなと思いました。『哀してる』は『化粧』をイメージしたから『あんた』っていう言い回しを使ってみたり。

あと『美しい人』だったら対話形式で書いてみたり。そういうアプローチも初めてやりましたね」

斉藤雄哉「僕、『美しい人』の詞がめっちゃ好きで。対話になっているのもすごく面白いと思ったし、最初の一文で『あなたはとても美しい人です。』って言い切っちゃうのがすげえなと思って。

それに、対話してたのが最後は『結局誰と喋ってたの?』みたいになる感じが荒ちゃんぽいなって」

「美しい人」は弾き語り調の楽曲で、この曲がアルバムの最後に収められることで一つ一つの命が肯定されているような印象も受ける。

荒谷「確かに、この曲では結構肯定してますよね。でも自分としては肯定しようって思ったわけじゃなくて、本来僕たちはいつか消えてなくなるぐらい自然なものとして存在しているんじゃないかって感覚があって。

元々人間は自然から生まれて最後はそこに帰っていくわけだけど、人間という存在自体が粒になって消えていくような感覚を対話形式で表したかったんです。

『美しく煌めく暗がり』って歌詞があって、『どういうこと?』って思うかもしれないですけど、『闇燦々』の歌詞もそういうイメージを持ちながら書いていったんです」

そう話すように、対極的な言葉や描写を混在させる荒谷の作詞スタイルがアルバムを通して突き詰められている。

荒谷「絶望と希望だったり、同時に存在しないだろうっていうものが共存しているのが僕としてはしっくりくるんですよね。だから、その感覚を歌詞で表現したいというのはずっとあります。対極にあるものがすーっと重なった瞬間がとても穏やかで美しい時間だと思っているので」

日本を代表するプロデューサー二人との制作は、とても大きな財産となったという。

斉藤「僕はこれまで割とひらめき重視で音を入れていたんですけど、冨田さんも亀田さんも、一つ一つ入れている音にちゃんと意味があって。すごくロジカルなアプローチをやられているところを目の当たりにして、すごく勉強になりましたね」

野元「僕はまず、リハーサルスタジオの広さに驚きました(笑)。あと、エンジニアの方もいろいろとすごくて。

ドラムのハイハットの上に薄いティッシュを乗せたりとか、スポンジを置いてみたりとか。楽器の周りに防音マットとかじゃなくて、柄物の布みたいなのを何枚か吊るしていたり。

そうやって、僕がこれまで見たことがないような音を良くするための仕掛けがたくさんあって。それに、気を紛らわせるためにお尻からシャボン玉が出るキャラクター人形とか、子供心をくすぐるようなものが置いてあるんです。

大御所の方ってもっとお堅い感じでやっているのかと勝手に思ってたんですけど、気持ちを柔らかくするための工夫がさまざまなところに詰まっていて。すごく良いマッサージチェアがあったり(笑)」

荒谷「のもっちゃん(野元)、マッサージチェアによく座っとったもんな(笑)」

最後に、本作を作ったことで生まれた今後のビジョンを訊いた。

田中「次は、温度感のある生音と電子楽器の打ち込みが混ざり合った音を突き詰めたいなっていうのが個人的にはあります。

質感的には相反するものですけど、荒ちゃんの言う希望と絶望が共存しているようなイメージが音でも作れると説得力が増すんじゃないかって思っています。あとやっぱり荒ちゃんはとても素敵な歌や曲を作るので、よりポップなものにしてもっと聴いてもらいたいと思っていますね」

取材・文=小松香里

写真左から斉藤雄哉(Gt)、田中慧(Ba)、荒谷翔大(Vo)、野元喬文(Dr)/撮影=平岩享