腸内細菌は様々な病気との関連性が明らかになっており、健康な人の腸内細菌が含まれた便を移植(便微生物移植 )をする治療が注目を集めている。
これまで、アルコール依存症や自閉症スペクトラム、新型コロナの治療などで研究が行われていたが、今回、マウスを使った実験で、若いマウスの腸内細菌を移植すると、脳と免疫機能が若返ることが明らかになったそうだ。
1895年、免疫研究の先駆者であるフランスの生物学者、イリヤ・メチニコフ氏は、50歳になって老いが気になり始めた。そこで免疫学から新しい学問に鞍替えをすることにした。彼はその学問を「老年学」と呼んだ。
そして腸内の細菌が健康や病気と関係しているらしいことに気がつく。東欧には住人が長生きする地域があったが、どうやらその秘訣は乳酸菌をたっぷり含む発酵食品を食べていることらしかったのだ。
現在では腸内細菌が健康に関係していることはよく知られている。
たとえばアイルランド国立大学コーク校の研究グループが、脳の老化という文脈からメチニコフの説を再検証している。その結果、老化にともなう腸内細菌の変化が、認知機能の衰えや不安と関係していることが明らかになった。
さらに同グループは、腸内細菌を増やす食事を摂ることで、中年のマウスの認知機能の衰えを抑えられるらしいことも突き止めている。
若いマウスの便を移植すると脳と免疫機能が若返ることが判明
『Nature Aging』(8月9日付)に掲載された彼らの最新の研究では、若いマウスの腸内細菌を糞便移植で高齢のマウスに移植している。すると学習力や記憶力、さらには免疫機能までが若返ることが確認されたという。
研究の中心人物であるジョン・クライアン氏の解説によると、老化は全身で生じる炎症の増加と関係しているのだという。
そして脳の場合、こうした免疫反応に重要な役割を果たしているのは、「ミクログリア(小膠細胞)」という免疫細胞だ。
じつはミクログリアはメチニコフが顕微鏡で観察したもので(ただし脳のものではない)、今日ではその活動が腸内細菌叢によってコントロールされていることも知られている。
そこでクライアン氏らが今回調べたのは、若いマウスの糞を年老いたマウスに移植することで、老化で衰えた免疫の働きや脳が若返るかどうかということだ。
そして実際に炎症は少なくなった。さらに、それによって脳の学習と記憶を司る「海馬」に含まれる化学物質が、若いマウスのものに似始めたことも確認されたという。
つまり健康な腸内細菌は、老化したマウスが健康な脳を維持するために重要であるということだ。
腸内細菌が老化を制する可能性
ただしあくまでもこの実験はマウスを対象としたものだ。人間が動揺に健康な若者から糞便移植を受けることで、脳が若返るかどうかは今回の実験ではわからない。将来的な研究では、腸内細菌を育てる食事や、腸内細菌を利用した治療に役立つ可能性があるという。
なおクライアン氏は、冒頭に出た、メチニコフ氏が発見したことは概ね正しいようだと述べている。すなわち若さを維持する秘訣は、腸内細菌を守ることにあるようだ。それが脳の若さを保つことにもつながるというのだ。
もちろん老化を完全に止めることは今のところできない。それでも脳の劣化を防ぐ治療は開発できるだろうし、健康な腸内細菌を育むことで今までよりもずっと元気で過ごせるようになるかもしれないとのことだ。
References:Gut bacteria rewind ageing brain in mice / written by hiroching / edited by parumo
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