コロナ禍が長引き、今年も夏祭りの中止が相次いでいます。せめて「浴衣」を着て、夏の気分を味わおうという人も多いことでしょう。夏の外出着として定番化した感のある浴衣ですが、もともとは湯上がりに着るものです。どのようにして、外出着になっていったのでしょうか。浴衣の歴史や望ましい着方について、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

着丈合わせて、身だしなみしっかり

Q.そもそも、浴衣とはどういうものなのでしょうか。

齊木さん「浴衣は平安時代、貴族が蒸し風呂に入るときに水蒸気でやけどをしないように着用した『湯帷子(ゆかたびら)』が原形といわれています。この時代は複数の人と入浴することが多かったため、裸を隠すことと汗取りの目的で使われていました」

Q.浴用の服だった浴衣がなぜ、外出着になっていったのでしょうか。

齊木さん「江戸時代に入ると銭湯が普及し、裸で入浴するようになりました。湯上がり後は現代のバスローブのように浴衣で肌の水分をとり、涼みました。銭湯の涼み場は社交場のような役割があり、浴衣を着てくつろいでいたようです。

そこで、短気な江戸っ子が、通気性もよいことから、涼み場で着ていた浴衣をそのまま外出着として使うようになりました。これが外出着となったきっかけと言われています。また、歌舞伎役者が舞台で着た衣装(浴衣)を庶民がまねるなどしたこともあり、浴衣文化が江戸で花開いたともいわれます。

もう一つ、江戸時代に広まった要因として、ぜいたくを禁じた『天保の改革』が挙げられます。天保の改革で『町人は絹を着てはならない』という決まりが出されてからは、木綿の浴衣がますます発展しました。その後、着やすさや通気性のよさから、盆踊りや花見などにおそろいの浴衣で出掛けることが流行し、華やかな文化が生まれました」

Q.浴用、もしくは湯上がり用の浴衣と外出用の浴衣はどんな点が違うのでしょうか。

齊木さん「そもそも、浴衣は最も簡略化された着物ですので、湯上がりの浴衣と外出用の浴衣には、実際には明確な決まり事はありません。しかし、それぞれの用途に適する2つのポイントがあります。

一つは浴衣の柄です。湯上がり用は基本的に自宅で着用しますので、柄の細かい模様など比較的地味なものが多いです。また、帯もへこ帯を使い、ちょう結びなど簡単に締められるものを使います。一方で、外出用は『中形(ちゅうがた)』といい、やや柄の大きめのものや鮮やかな色の浴衣を選ぶとよいでしょう。帯も主に半幅(はんはば)帯で結びます。外出着として人さまの前に出ても恥ずかしくない絵柄のもの、多少の配慮が感じられるものというのが基準です。

もう一つは浴衣の素材です。平安時代など昔は麻の素材が主流でした。江戸時代に入ると綿の栽培が広まり、木綿の浴衣が広く用いられるようになりました。このような天然素材のものは肌触りがよく、吸湿性に優れており、湯上がり用と外出用どちらにも向いています。外出用としては『有松絞』『鳴海絞』で知られる面絞りや『絹紅梅(きぬこうばい)』などの高級浴衣もあります。

一方で、昭和にかけて、化学繊維の発達により、ポリエステルなどの化学繊維でできた浴衣も誕生しました。これは洗濯をしてもよれにくく、手入れがしやすいのが特徴です。こちらも外出用として気兼ねなく使えるのではないでしょうか」

Q.外出着としての浴衣の正しい着方、着る際の注意点、正しい所作を教えてください。

齊木さん「まず、大切なのが着丈の合った浴衣を選ぶことです。女性は(腰の辺りへたくし上げた)おはしょりをつくるため、身長プラスマイナス5センチの着丈の浴衣を選びます。男性は身長より28~30センチ短い着丈の浴衣を選びましょう。

浴衣は男女ともに、くるぶしの高い位置で着ると粋とされており、また、共通していえることとして、左側が上に来るように着用します。浴衣を着て出掛けるときは、肌じゅばんと裾よけを着けた後に浴衣を着用しましょう。特に『綿絽(めんろ)』や『綿紅梅(めんこうばい)』などの透け感のある素材、あるいは白地の浴衣はきちんと肌着をつけることが大切です。

女性の場合、腰ひもを使って、腰骨の上の部分でおはしょりをつくり、その上に胸ひも、だて締めをし、帯を巻いていきます。浴衣の帯結びはさまざまなバリエーションがあるのが特徴ですので、浴衣の雰囲気に合わせて、お好みの帯結びをしましょう。男性は肌着にステテコを着用し、浴衣を着ます。帯は『貝の口』という帯結びが一般的です。

女性の場合は、一足半で歩き、やや内側に寄せるように一直線上を歩きます。また、電車でつり革を持つ場合、手を伸ばす際には逆の手で袂(たもと)を押さえましょう。これは袂の中が丸見えになるのを防ぐためです。全体的に脇、腕、足、指先を“閉じる”を意識すると美しい所作になります」

Q.湯上がり用から外出用へと変わる中で、柄も変わっていったのでしょうか。

齊木さん「江戸時代から受け継ぐ浴衣は藍地に白色、白地に藍色の色柄が定番で、秋草や朝顔、トンボ、水流しなどが染められ、昔から、昼間は目にすがすがしい濃い地の浴衣を着用し、夜は闇の中でさわやかに見える白地がよいと言われてきました。しかし、そうした習慣も薄れつつあります。

近年では、伝統柄以外の現代風の色柄がたくさん登場し、洋服の花柄や幾何学文様を生かしたものなど多種多様となり、浴衣選びも自由なものとなりました」

Q.「浴衣は外出着じゃない」という声もあるようです。

齊木さん「『浴衣は外出着じゃない』といわれるのはやはり、湯上がり用の浴衣や寝間着としての印象が根付いているからではないでしょうか。特に気を付けたいのは、内側が透けないよう、身だしなみを整えること、カジュアルな装いであることを意識して行動することです。肌じゅばんを持っていない人は内側が透けないよう、首元が大きく開いたTシャツを代用することもできます。

いまや、浴衣は夏の風物詩として見直されています。身だしなみに気を付けて、マスクなどもアレンジして、夏の浴衣を楽しんでみてはいかがでしょうか」

オトナンサー編集部

浴衣の正しい着方とは?