現在全世界で47.2億回の新型コロナウイルスワクチン接種が行われた(2021年8月14日現在 Our World in Data 調べ)。日本では1億991万1890回接種され、うち2回接種が完了したのは4723万1796人となっている(2021年8月146日、現在チャートで見る日本の接種状況調べ)
それらの接種からわかったことは、ワクチン接種には発症予防効果、重症予防効果があるということ、副反応があるということ、そして注射が嫌いな人は躊躇してしまうということだ。
だが近い将来に登場するかもしれない植物から作られたワクチンなら、注射を打たないですむかもしれない。それどころかコーンフレークのように、サクサクと美味しく食べられるかもしれないというのだ。
現在のワクチンは、主にニワトリの卵や培養した動物細胞の中で作られる。これに対して、植物の中でワクチンを作る方法を「分子ファーミング」という。
新しく医薬品を開発するには長い年月がかかる。しかし『Science』(8月13日付)に掲載された研究によると、分子ファーミング自体は、1986年に提唱されたもので、それほど新しいわけではないのだという。
それどころか、2012年にはニンジンの細胞で培養されたゴーシェ病の治療薬がアメリカで認可され、さらに2019年には植物から作られたインフルエンザ・ワクチンが第III相試験(人間の患者で行われる大規模な治験)で有望な結果を残している。
HIVやエボラ出血熱のワクチン開発も行われているし、今年の3月には植物ベースの新型コロナウイルス用ワクチンの治験が開始されている。
植物細胞を培養したワクチンのメリット
植物細胞を利用する分子ファーミングには、従来のワクチン生産法にはないいくつものメリットがあるという。まずコストが低いことだ。植物は日光と水と土があれば育ってくれるし、グリーンハウスを用意したとしても、動物細胞を培養する設備に比べれば安価だ。必要に応じて生産規模を拡大したり、反対に縮小することも容易である。
そして速い。新しいワクチン候補をたった3週間のうちに用意できる。これは新しい感染症が登場したときには非常に大きな利点となる。
また、普通の作物を作るのと同じなので、環境にも優しい。
従来のやり方に比べれば、生産に費やされるリソースはずっと少なく、それでいて大量にワクチンを作り出すことができる。
また予防効果の点でも従来のワクチンを上回るのだという。
植物はさまざまな糖鎖(さまざまな糖が結合した化合物)を発現させるので、そのために動物由来のワクチンよりも強い免疫反応を生じさせることができる。
さらに植物の細胞内では、予防効果を強化する分子まで自然に作られる。だから従来のように、わざわざ免疫補助剤を追加してやる必要もないという。
将来的には打つワクチンから食べるワクチンへ
今のところ、植物で作られたワクチンの多くは注射によって投与されるが、穀物、トマト、トウモロコシ、お米といった作物から作った食べるワクチンの開発が進められているという。これが実現すれば注射による不快な経験は過去のものになる。
また従来のワクチンは精製処理が必要だが、食べるワクチンならばそうした処理は最小限ですむ。これが生産コストと時間の節約につながる。
ついでに乾燥させてしまえば、室温で保存することだって可能になる。このことは、現在のように世界的に大流行してしまった感染症に対応するには特に重要なことだ。
ワクチンは打ちたいけど、注射がどうしても苦手と言う人にとって、食べられるワクチンは魅力的だろう。
ただし有効性に関しては更なる研究開発が必要
だが、食べるワクチンにもまだクリアしなければならない課題がある。現時点で有効性が完全に証明されたものがないからだ。2000年頃にいくつもの候補が試されたが、従来のワクチンに匹敵する予防効果が得られるものはなかったそうだ。
そこで現在、数多くの植物ベースワクチンが開発されている。その中には、経口(口から摂取)でありながら、きちんとした免疫反応を示す将来的に有望なものがあるそうだ。
そんなわけで今すぐ注射いらずの食べるワクチンが手に入るわけではないが、それでもコーンフレークを食べる感覚で、ワクチンを食べるという日は、そう遠い未来のことでもなさそうだ。
Top image:iStock / References:Plant-made vaccines and therapeutics | Science / written by hiroching / edited by parumo
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