vol.5 エルミタージュ美術館も参入。NFTは市場をどう変える?

第5回の今回は、最近よく耳にするNFTについての話題について、書いてみます。

ダ・ヴィンチゴッホの名画をNFTに。エルミタージュ美術館NFTプロジェクトが目指すものとは?
https://bijutsutecho.com/magazine/news/market/24376

世界三大美術館のひとつと称される、ロシアサンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館が先日NFTのプロジェクトを発表しました。その内容は、美術館の所有するゴッホダ・ヴィンチ、モネなど、ド級の名画のNFTを各々2つずつ生成し、ひとつは美術館の所有に、もうひとつを取引所を通じて売りに出す、というものです。一度、美術館に収蔵された作品がマーケットに出ることは稀で、おそらく作品本体がオークション等にかけられることは未来永劫ないと想定されるものの、こういったかたちで「作品のクローン」が世に出ていくことは新鮮です。ここでの売上は美術館の運営費用に当てられるとのこと、新しいファンディング手法として定着するのか、楽しみです。

このエルミタージュ美術館のケースもそうですが、NFTのモチーフの大元が、不動の価値をもつコンテンツの場合、その意味付けはどこかネーミングライツ的なものにも近いと考えられます。それを購入する目的は名前の宣伝というより、名誉であり、ある意味の自慢になるのかもしれませんが。Twitterの創業者のジャック・ドーシーの最初のツイートNFTオークションにかけられて、3億円超で落札されていたニュースもまだ記憶に新しいですが、これも近しいケースと考えられます。

ルーブル美術館も作品のデジタルデータ化には古くから取り組んでおり、エルミタージュより先にこういった取り組みを行うのではと個人的には思っていたのですが、ロシアの威信なのか、エルミタージュが先に始めています。

NFTの「機能性」がどこにあるか、ということを考えたときに、その所有者の履歴を辿れることで真贋を判定することができる、というのがまず最初にあがることが多いです。そしてなぜ真贋が判定できるということがどういうことかと考えると、デジタルデータにおいても発行元がオフィシャルに出したものだという証明ができるからというのがポイントです。

写真がアート作品として認められるようになってからも久しいですが、フィルムであれデジタルデータであれ、プリントしてエディションを付けることで、本物の証明を行ってきました。エディションが付かずとも、スポーツ選手のトレカトレーディングカード)や古くはビックリマンシールなどは、その印刷の仕様でオリジナルということの証明を果たしてきた歴史があります。

NFTはそのオリジナルの証明の代替になりうるものでもあり、同じクオリティのものがいとも簡単に複製可能なデジタルデータにおいても、その機能を果たすことができるようになった点が革新的で、ここにきてまずはアート業界においても一気に普及が進んでいる一因だと言えます。

現状ですとダミアン・ハーストやトム・サックスなどの著名アーティストの作品や、またこういうユニーク性の高いアナログないしはデジタル上のコンテンツのNFTに高額の値段がつくケースがまだまだ多いものの、写真においてもプリントではなくデジタルデータ自体がNFT化されアート作品として取引される時代がくるのもそう遠くないでしょう。

また、アメリカではNBAのプレー動画をデジタル上でNFTトレカにした「NBA Top Shot」のカードですでに200億円以上の取引が行われていたりと成功例が出始めていますが、今後はこれまでオープンエディションに近いかたちでそこそこの数が発行されてきたコレクタブルなものもNFT化され、流動性の高いコレクターズアイテムの世界がデジタル上に移行される流れが日本でも起こってくるのでは、と思われます。

僕はまだ静観している部分もあるのですが、アートを所有する愉しみとはまた別物として、勉強のためになにかひとつはとりあえず買ってみてもいいのかな、とも思っているところです。

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