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成長しつつも課題が残る

text:AUTOCAR UK編集部
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)

クラシックカーの電動化は、かつては趣味の世界と考えられており、ガレージでワンオフの改造車を作るのと同じような感覚で行われていた。

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しかし今日では、パワートレインを自ら開発したり、高度にチューニングしたりする新しい企業が次々と登場し、大きな話題となっている。愛好家の間では賛否両論あるようだが、それでも数億円規模のビジネスになりつつある。最近では、デビッド・ベッカムが英国を拠点とする新興企業ルナズ(Lunaz)の株主になるなど、注目を集めている。

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近年、クラシックカーの電動化レストモッドが数多く発表されている。その多くは比較的小さな企業によるものだ。

一方で、規制や基準、安全性、そしてコストの問題など、多くの不確実性に囲まれた業界でもある。多くのクラシックカーは古すぎてMOT(英国の法定点検)を必要としないため、何ができるのか、また安全性にどのような影響があるのか、適切なルールがないのが現状だ。

そんな状況を変えようと、複数の企業が行動を起こしている。

ゼロEV社は、英ウェールズにある最大手のエレクトリック・クラシックカー社をはじめ、多くのクラシックカー改造会社に製品を供給している。ゼロEV社の創業者であるクリス・ヘイゼルは、業界標準の導入に向けてさまざまな取り組みを行っている。

というのも、同社はEV改造業者として初めて、英国のフランチャイズ・ディーラー協会(NDFDA)の会員になったからだ。協会と協力して基準を作成しようとしているほか、自動車メーカーが使用しているようなオンライン・データベースのプラットフォーム構築も目指す。

ノスタルジックな新ジャンル

スウィンドン・パワートレイン社のディレクターであるジェリー・ヒューズは、規格の導入をぜひとも支持したいと話している。同社は、多くのクラシックカー改造会社に電気系統の部品を販売するほか、英国ツーリングカー選手権にエンジンを供給している。

認証やホモロゲーションの取得は自動車メーカー各社が地域レベルで行っているが、ヒューズによると、非常に複雑な問題であるという。

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ドライブトレインを換装するクラシックカーたち

ヒューズは、「ある市場にとって良いことが、他の市場でも許されるとは限りません」と語る。改造に関しては、英国は他の市場よりも受け入れやすいという。

ヒューズは、安全な作業方法の実施のため、技術者に高電圧部品の作業に関するワークショップに毎年参加することを推奨している。

自動車メーカーでもクラシックカーのEV化が検討されているが、量産にはまだ至っていない。ジャガークラシックはEタイプをバッテリー駆動のEVに改造し、アストン マーティンクラシック・ワークスは、ガソリンエンジンと電気を切り替えられるリバーシブル・カセットシステムを搭載するEVのDB6を製作した。しかし、いずれも現段階ではこれ以上の開発は進んでいない。

そのため、今のところは独立系の企業に任されているわけだ。

アストン・ワークショップのデイブ・カミングスは、スウィンドン・パワートレイン社と協力して、2台のアストン マーティンをEVに改造している。彼は、ボンネットの中身よりもクルマを運転できるかどうかが重要であり、特に環境負荷の少ない選択肢にかかっていると考えている。

しかし、多くの人は、クラシックカーは走行距離が少ないため環境への影響が限定的で、法律で罰せられるべきではないと考えている。本当にEVに改造する必要があるのだろうか?そう尋ねると、カミングスは次のように答えた。

「大まかに言うと、信頼性、使いやすさ、環境への責任、地理的な背景、技術的なオリジナリティなどさまざまな理由があります。時間の経過とともに新しい技術への評価が高まり、保存と改良に興味を持ってもらえると期待しています」

今後10年間で新たな基準が設けられ、法律も作られる可能性がある。その頃には、数百万から数千万円にもなる改造費用はさらに高くなっていると思われる。この業界はまだ始まったばかりで、すべての人が賛成しているわけではないが、ノスタルジックな新しいジャンルを生み出しているのは確かだ。

電動化で価値は上がる?下がる?

クラシックカーを電動化することに価値はあるのか。

少なくとも今のところ、短期的には「ノー」だ。1990年代フェラーリ・テスタロッサからエンジンを取り外し、事故で損傷したテスラの中古バッテリーと交換した場合(これは多くの改造で行われている)、完成したクルマは「フェラーリのスーツを着たテスラ」と感じる人が多いのではないだろうか。

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改造に使用されるEV用バッテリー

また、ヒストリックカーやビンテージカーとして認定されているモデルでも、電動化によりその認定を取り消すことになる。欧州のヒストリックカー協会であるFIVA(国際クラシックカー連盟)の会長、ラース・ゲニルドは、この点について断固とした態度で臨んだ。

「FIVAにとってヒストリックカーとは、楽をするためのものではなく、文化遺産を守り、保存し、普及させるためのものなのです。ヒストリックカーのドライブトレイン全体を変更すると、その車両はトリノ憲章(Charter of Turin)とテクニカルコードに適合せず、ヒストリックカーとしてのステータスを失うことになります」

FIVAは、将来の所有者がクルマを元の状態に戻すことができるように、改造が可逆的であることが重要であるとしている。

HAGI(ヒストリック・オートモービル・グループ・インターナショナル)のディートリッヒ・ハトラパ会長は、次のように述べている。

「一般的に言って、EVへの改造は、大掛かりな工事の痕跡がなく、すべてのオリジナルパーツが残っている状態でオリジナルに戻すことができなければ、価値はやや下がります。クラシックなオリジナルとは全く異なるものです」

一方で、オークションハウスRMサザビーズの欧州部門の責任者であるピーター・ヘインズは、次のように話している。

「現在、電動化されたクラシックカーの中古市場は未知の領域であり、価値や需要を判断できるようなデータはありません。クラシックカーの電動化は、ニッチな市場に対する価値あるものですが、この市場の専門家が新たに改造したクルマを生産していることから、需要があるように思えます」

アストン・ワークショップのカミングスは、電動化されたクラシックカーの希少性は、コレクターにとって価値のあるものになるはずだと語っている。

しかし、改造されたクラシックカーが売りに出されたり、オークションに登場したりするまでは、価値に実際にどのような影響があるのか、また改造にかかる高額な費用が適切だったかどうかを判断することは困難だ。


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