夏の甲子園がコロナ禍で大激震に見舞われている。第103回全国高等学校野球選手権の大会本部は出場校の宮崎商(宮崎)と東北学院(宮城)がチーム内での新型コロナウイルス感染が判明したことを受け、出場を辞退したと発表。両校ともに不戦敗扱いとされ、大会期間中の辞退は史上初めてのケースとなったことから衝撃が広がっている。

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 両校の球児たちの無念を考えると胸が詰まる思いだ。しかし、その一方で両校の「辞退」については釈然としない点がいくつかある。

大会本部は宮崎商の「出場辞退」申し入れを待っていたのではないか

 宮崎商は選手らの陽性者数が13人にまで広がり、濃厚接触者も8人となった。大会本部側は感染対策ガイドラインに基づき、宮崎商の症例については「集団感染」と判断している。

 ちなみに大会の感染対策ガイドラインでは代表校の選手らから感染者が出た場合、保健所などの判断を踏まえながら「集団感染」か「個別感染」かを見分けることを重要視して対応を協議すると定められている。

「個別感染」の事案と判断した際には当該選手の入れ替え等で対応し、チームとしての出場は差し止められず容認される。「集団感染」と判断される場合にはチームは出場できなくなり、代表校の差し替えも行わない。大会本部が会見で発表した内容からも、宮崎商は後者と判断されたことが明らかになっている。

 だが冷静に考えてみると、どこかおかしい。どうして集団感染と判断された宮崎商は「辞退」だったのだろうか。

 大会本部側の説明では17日朝に宮崎商の学校長から辞退の申し入れがあったという。前日16日の時点で大会本部側は話し合いの場を持ち、同校の症例について集団感染と判断を下しているはずだ。念を押すが、これらの経緯に関しても大会本部は17日の会見で明らかにしている。

 感染対策ガイドラインに則って宮崎商の出場差し止めを通達することができたにもかかわらず、集団感染と判断してから翌朝まで持ち越す流れがまったく理解できない。誰も責任を取りたくないから、あらかじめ宮崎商側から辞退申し入れが来ることを予期し、待っていたのではないか――と邪推されても仕方がないだろう。実際に高校球界関係者からは「いや、もしかすると周囲の有力者から学校側に『後々のことを考えたら辞退を申し入れておくほうが懸命かもしれない』と“圧力”がかけられたのでは」との疑念まで向けられている。

 確かに辞退であれば、大会本部側はイメージダウンにつながらないし「球児たちが可哀そうじゃないか」「あまりにも非情過ぎる判断だ」などとバッシングも浴びにくい。キズもつかず、一応のメンツも保たれるだろう。しかしながら一体何のために日本高校野球連盟や大会本部側は「感染対策ガイドライン」とやらを設け、ここまで参加校に周知徹底させてきたのか。これでは何の実効性も持たない「絵に描いた餅」だ。やはり宮崎商に関して言えば、決められたルールのもとで大会本部が「集団感染=出場差し止め」を通達し、最終決定とすることが運営側の責務であるように思う。

コロナ感染は責められることなのか

 そして、もう1校の東北学院だ。同校は選手1人が陽性判定を受け、濃厚接触者は4人。大会本部側はくだんの感染対策ガイドラインで同校の症例を「個人感染」と判断して当初、出場を容認する方向を示していた。ところが学校側から「試合に出場することによって当事者が特定される恐れがあり、生徒の将来に影響を及ぼす可能性がある」との理由で辞退の申し入れがあり、これを大会本部側も受理。宮崎商の辞退発表会見終了から僅か4時間後、大会本部は同じ17日の夜に再び2度目の緊急会見を行うという“ドタバタ劇”を強いられた。

 この東北学院の辞退にも疑問がある。学校側は出場の道を選ぶことが「生徒の将来に影響を及ぼす可能性がある」としているが、それはむしろ逆ではあるまいか。その陽性判定を受けた選手のショックは今、計り知れないはず。かえって心の奥底に気の毒な「出場辞退」の重い十字架を背負わせてしまうような気がしてならない。

 学校側が説明する「試合に出場することによって当事者が特定される恐れがある」という流れも無論否定しない。しかし試合に出なくても、当事者の選手が部周辺や学校内で特定される可能性は残念ながらどうしても残ってしまう。学校側はおそらくSNSやネットによる情報拡散も懸念しているのだろうが、それは程度の差こそあれ、試合に出ようが出まいがどちらにしても“リスク”は完全に消えることはないはずだ。いろいろな意見があるのは百も承知しているが、その当該選手が望むのであれば個人的に東北学院は「出場」の選択をしても良かったのではないかと考えている。

 そもそも、なぜコロナ罹患者が責められなければならないのか。これを“リスク”ととらえ、大人たちがあれやこれやと詮索し過ぎるがあまり、何とも悲しい決断に至っている現状がとても嘆かわしい。出場辞退となった東北学院の主将が「監督から『感染した人のことはみんなで守ってあげよう』という話があった。悔しい思いもあると思うし、絶対気にするとは思うが、それを自分たちみんなでカバーして受け入れていきたい」と努めて気丈に振る舞っていたのは、せめてもの救いである。

悪天候にも翻弄され・・・

 今大会は真夏とは思えぬ異例の悪天候続きで大会本部は日程調整の面でも厳しい運営を強いられている。17日には雨中で強行された第1試合・大阪桐蔭(大阪)対東海大菅生(西東京)の試合は終盤豪雨になりながらもプレーが続行され、8回表で降雨コールド決着。東海大菅生が追い上げムードのところで試合終了となり、大阪桐蔭に軍配が上がった。運営する大会本部側の立場として1試合でも多く消化したい気持ちは理解できるが、いくらなんでも豪雨の中でゲームを続行させたのは正気の沙汰ではない。コールド成立にしたタイミングも最悪だった。

 コロナと悪天候。コントロール不可能なダブルパンチにさいなまれ、今夏の高校野球は未だ迷走状態が続いている。旧態依然とした運営面も、いよいよ本格的な見直しを迫られることになりそうな気配だ。

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