『横道世之介』(13)の沖田修一監督が、数々の漫画賞を受賞した田島列島の同名コミックを実写映画化した『子供はわかってあげない』(公開中)。本作で、沖田監督と原作者である田島との対談が実現した。主人公である水泳部の美波役に、ドラマ「3年A組―今から皆さんは、人質です―」や「いだてん〜東京オリムピック噺〜」でも見事な泳ぎを披露していた上白石萌歌、美波と惹かれ合うもじくん役を、『町田くんの世界』(19)や「ドラゴン桜」で注目された細田佳央太が務めた。田島は、映画について「絶妙なキャスティングでした」と太鼓判を押す。

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高校2年の夏、水泳部の朔田美波はある日、書道部のもじくんこと門司昭平が学校の屋上で絵を描いているのを目撃し、そこからお互いにアニメ好きということで意気投合する。ある日、美波はもじくんの家を訪ねたことがきっかけで、彼の兄で探偵の明大(千葉雄大)に、幼いころに別れた父親の居所を探してもらうことに。その後、父親が新興宗教の元教祖だったことが判明。その居場所を突き止めてもらった美波は、母たちに内緒で父、友充(豊川悦司)と再会し、数日間一緒に過ごしていく。

■「漫画を読んだ時におもしろいと思って、映画化してみたいシーンがたくさんありました」(沖田)

――沖田監督はもともと原作がお好きだったそうですが、実写映画のオファーが入った時、どんな感想を持ちましたか?

沖田「原作がとてもおもしろかったのを覚えていたので、光栄だなと思いました。漫画を読んだ時におもしろいと思って、映画化してみたいと思ったシーンがたくさんあるなかで、特に美波ともじくんの掛け合いなどを見てみたいと思っていました」

――田島さんも、沖田監督の『南極料理人』(09)がとてもおもしろかったと、以前のインタビューでおっしゃられていましたから、今回の実写化については、相思相愛な感じでしたね。

田島「そうなんです。だから最初にお聞きした時は、嘘みたい!と思いました」

――主演の2人は、これ以上にないキャスティングだと思いましたが、沖田監督はどんなことを意識して演出しましたか?

沖田「僕がもう44歳なので、若い子たちがわいわいした映画なんて撮れるだろうか?と思っていました。でも、準備する時間がけっこうあったので、クランクイン前に何回か2人と会っていきました。みんなで遊びながら本を読んだり、書道をやったり、萌歌ちゃんは水泳の練習をしたりして、リラックスするための時間を設けられたのが良かったです」

――上白石さんの泳ぎっぷりが実にまぶしかったです。

沖田「実は背泳ぎが初めてだと聞いて、大丈夫かな?と思ったのですが、すごく良かったです。萌歌ちゃんは『3年A組~』や『いだてん』だけじゃなく、内村光良さんの監督作『金メダル男』でも水泳選手の役をされていて、別にねらったわけじゃなかったのですが、本当に水泳をする役が多いんです」

田島「確かにそうですね。私も『3年A組~』や『いだてん』を観ていましたが、すごく泳がせるんだなと思っていました」

――美波が笑いながら泳ぐというのは漫画でも描かれていましたが、上白石さんが演じるととてもみずみずしかったです。

田島「映画で観て、『ああ、なんかいいなあ』と思いました。私は実写化を想定して漫画を描いたわけではなかったのですが、“なんだかおかしいやつ”という感じも出ていて、すごく良かったです」

――緊張するとゲラゲラ笑ってしまう美波ですが、実際にモデルにした人はいるのですか?

田島「私自身も緊張すると笑っちゃうというか、ついヘラヘラしちゃいます(笑)。肝心な時に笑っちゃうと、相手に真剣だと思ってもらえないので、そういう人生の悲しさみたいなものを出そうと思いました」

沖田「でもきっと、みんなはなんとなくそういうある種の照れみたいなものはあるように思います」

■「上白石萌歌さんと細田佳央太くんがあまりに美しく感動しました」(田島)

――美波ともじくんのやりとりでは、特に屋上で想いをぶつけ合うシーンに胸がときめきました。

田島「おばさんみたいな年齢に差し掛かった私から見ると、2人があまりにも美しくて感動しました。やはり生身の人間に演じてもらうってすごいことだなと」

沖田「撮っていても感動的でした。実際に本人たちもすごく感情が高ぶりながら演じているなあと感じたので、あのシーンはあまりたくさんテストをしないようにしました」

――2人がきちんと正座して、一生懸命お互いと向き合おうとする姿からは、人柄がにじみでていて、胸キュンでした。

沖田「そこは原作にもありましたが、田島先生の心意気を感じました」

田島「美波が笑いながら座り込んでしまったので、もじくんも美波の目線に合わせて座らせたら、ああなっちゃいました(笑)」

――もじくん役の細田さんも上白石さん同様に、すごく役にハマっていましたが。

沖田「細田くん自身も、もじくん同様に器用ではなかったと思います。あるシーンでどうしても思ったようにいかなくて、『よくわからない』と一人で頭を抱えて煮詰まっていたこともありました。一生懸命だからこそ、そうなってしまうのかと思います」

――役柄同様の不器用さを持ち合わせていたんですね。

沖田「そうです。ただ、撮影した当初の細田くんは17歳でしたが、その年齢にしては、変な肝の据わりをしていて、大人びた感じもありました」

田島「私もそういう印象です。仕事場だからか、まだ17歳なのにちゃんとしてる感じを受けました。また、改めて完成した映画を観た時、男性の監督さんに撮ってもらったからか、もじくん自体に“生身の男感”があってすごく良かったです(笑)」

沖田「やっぱり男の目線が入ったんですかね?」

■「豊川悦司さんは本来すごくカッコいい人なのに、すごくおもしろいおじさんに映っていました(笑)」(田島)

――キャスティングの妙と言えば、美波の父親、藁谷友充役の豊川悦司さんも原作とは違う独特の存在感を発揮されていました。本作は沖田監督とふじきみつ彦さんとの共同脚本ですが、豊川さんにあて書きしたシーンもあったようですね。

沖田「そうなんです。友充役に豊川さんが決定してからは、2人で友充のセリフをどんどん変えていきました」

田島「本来はすごくカッコいい人なのに、すごくおもしろいおじさんに映っていて良かったです(笑)」

――友充は超能力者のように人の心が読めるという設定です。映画ではそこをわかりやすく描かなかったけど、豊川さんが演じることで、本当にそういう人なんじゃないかという説得力を感じました。

沖田「はしゃぐ豊川さんもいいのですが、やっぱり真顔で『人の頭の中が見えるんだ』と言う豊川さんが本当におもしろいなと思いました(笑)。友充役は実に茶目っ気があって、娘と一緒にいたいという気持ちが伝われば伝わるほど、なんだか笑えてきます。見ていてめちゃくちゃ楽しかったので、先生が描かれた原作の範疇を超えて、テントを買ったりとか、いろんな謎の行為にも出ています」

――田島先生は、豊川さんのどのシーンが良かったですか?

田島「やっぱりブーメランパンツのシーンです(笑)」

――確かに、実のお父さんとはいえ、これまで一緒に暮らしていたわけでもないし、そんな男性がいきなり水着姿で自分に近寄ってきたら、誰でもドン引きしますよね(笑)。

田島「脚本段階から、どんなシーンになるのか楽しみでしたが、まさかあんなにおもしろいシーンになるとは」

■「田島先生が描かれた原作の雰囲気をまるごと映画にできたらいいなあと思いました」(沖田)

――美波の母、由起役の斉藤由貴さんもぴったりでした。キャスティングのキモとなったのはどんな点ですか?

沖田「僕は斉藤由貴さんの出ている作品が好きでしたし、上白石さんと並んだ感じもいいなと思いました。斉藤さんは昔から少し天然な感じがして、漫画にもあったセリフ『OK牧場』や『やぶからスティック』も斉藤さんが言うとおもしろそうだなと思ったんです。実際に現場で斉藤さんが『これ、“やぶから棒”の間違いですよね?』と本気で言っていて、びっくりしました(笑)」

田島「本当ですか?(笑)。斉藤さんは自然に“おもしろお母さん”という感じが出ていて良かったです」

――くすっと笑える小ネタが散りばめられている一方で、「先生のことを忘れても、もじ先生から教わったことを忘れない子どもはいっぱいいるんじゃない」といった心に響くセリフもたくさんありました。人に教える、次の世代になにかを伝えていくことの大切さが改めて染み入りましたが、沖田監督は演出するなかで、なにか気づきはありましたか?

沖田「原作を読んで、人に教わったことなら自分にも教えられるという、“継承”の話だなと僕は捉えました。そういう意味では、僕自身も誰かから教わったような芝居のエチュードを今回、上白石さんたちにも試したし、そうやってなにかを残していけたらいいなと思いました。そこも含めて、すべてが橋渡しなんだという意識があり、そこは心掛けてやっていた気がします」

――映画を観終わって、ひじょうにすがすがしい気持ちになれました。田島先生は、いかがでしたか?

田島「すごくいい夏映画になったなと。そして、上白石萌歌さんという女優の美しさを堪能する映画でもありますね」

沖田「ありがとうございます。僕自身はただ、田島先生が描かれた原作の雰囲気をまるごと映画にできたらいいなあと思っていたので、僕はそこでも橋渡し的な役割なのかかもしれません。この原作だからこそ、実際の役者が演じるおもしろさがあると思ったし、自分のなかでチャレンジでしたが、きっといい映画になるんじゃないかなと思っていました」

――田島先生にとって、本作が初めての実写映画化作品となりました。

田島「家族や親戚がすごく喜んでくれました。祖母は公開前に亡くなりましたが、私が漫画家になったことより、映画化されたことを喜んでくれて、それはすごくうれしかったなと思いました」

――ついに作品が公開されましたが、いまの想いを聞かせてください。

沖田「いろいろあって公開が延びていたので、とにかく早く観てもらいたいという気持ちでいっぱいでした。ひたすら楽しい映画にしたいと思って作ったし、実際そういう映画に仕上がったと思います。夏らしい映画ですし、ぜひ皆さん、劇場へ涼みに来てください!」

取材・文/山崎伸子

沖田修一監督と原作者の田島列島/[c]2020「子供はわかってあげない」製作委員会 [c]田島列島/講談社