映画「凶悪」(2013年)や「日本で一番悪い奴ら」(2016年)などの白石一彌監督が、作家・柚月裕子の同名小説(角川文庫)を映画化した「孤狼の血」。強烈なバイオレンス描写と男たちの熱いドラマで話題を呼んだ本作の続編「孤狼の血 LEVEL2」が、8月20日に公開された。

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前作では、暴力団対策法成立直前の広島・呉原(呉市をモデルにした架空都市)を舞台に、暴力団同士の血で血を洗う抗争と、そこに巻きこまれていくマル暴刑事たちの熾烈な戦いが描かれ、今回の「―LEVEL2」では、前作で殉職した先輩刑事・大上(役所広司)の遺志を継いた日岡(松坂桃李)が主人公となり、彼の前に立ちはだかる最凶最悪のヤクザ・上林(鈴木亮平)との死闘が、映画だけのオリジナルストーリーで展開されていく。

その「―LEVEL2」からの出演となった西野七瀬は、日岡と深い関係にあるスナック“スタンド 華”のママ・近田真緒役に。日岡のスパイとして上林組に潜り込んでいる弟・チンタ(村上虹郎)の身を案じる優しく頼もしい姉でもある。

「映画館で1作目を見ていた」という西野は、作品のテイストを知っていたからこそ「あの世界に自分が入るのが信じられなかったし、本当に自分でいいのかと不安だった」と明かすが、白石監督の作品に出演できるならば、と「やりたいです!」と即答したという。

劇中の西野は、スナックのママという設定もあり、人生で初めて髪を全部ブリーチし、やさぐれた雰囲気が出た、これまでの印象と違った役どころを熱演。また、「この作品に出演できたのは本当にぜいたくなことだと思いますし、これからも楽な道ではなく、あえて厳しい道にどんどんチャレンジしていきたいです」と話す彼女の姿は、乃木坂46から離れて3年、女優としての覚悟をさらに固めたのが伝わってきた。

■自分があの世界に入ることが想像できませんでした

――今回のオファーを受けたときの感想を教えてください

「私ですか?」というのを、最初に思いました。というのも、前作を映画館で見ていたので、自分があの世界に入ることが想像できませんでした。

――そのときは、役柄についての説明もあったのでしょうか?

まだはっきりとは決まっていない段階でした。後からスナックのママ役だと聞いたのですが、やったことがない役だし、自分にない要素ばかりの女性だったので、本当に自分にできるのか不安も感じましたが、白石監督の作品に出演できるまたとない機会だったので、飛び込んでみたいと思いました。

――真緒を演じるにあたり、役作りでこだわったところは?

まず見た目ですが、髪をブリーチしました。やさぐれている感じが出るように、(根元は髪が伸びて黒い)プリン状態になるように、細かく調整しながらやっていただきました。

――髪型もそうですが、弟・チンタの頭を思いきりひっぱたくシーンなど、西野さんらしからぬ姿に驚かれるファンの方もいそうですね。

そうかもしれないですね(笑)。真緒はスナックのママというだけでなく、チンタの下の兄弟のことも養っていて、自分の芯をしっかりと持っているカッコいい女性だと思います。さすがに人の頭を本気でひっぱたいたのは人生で初めてでしたが(笑)、私はもともとかわいいよりもカッコいい人になりたいと思っていたので、真緒のたくましさはあこがれでもあります。

■感情が高ぶるシーンになると関西弁が出てきてしまい…

――広島弁でたんかを切るシーンもカッコよかったです。

広島弁は本当に難しかったです。私は大阪出身なのですが、ちょっとだけイントネーションが似ているところもあって。だから、どうしても感情が高ぶるシーンになると関西弁が出てきてしまい、NGになったりしていました。

――イントネーションが似ているほうがやりやすいのかと思ったら、逆に難しい?

そうなんです。方言指導の先生からも「大阪出身の人と広島弁の相性はあまりよくない」と言われて。どちらかというと、全くイントネーションの違う関東の方のほうがフラットな状態で広島弁に入れるみたいです。それは意表をつかれました(笑)。

――真緒は主人公の日岡と深い関係にある役どころですが、日岡を演じた松坂さんの印象を教えてください。前作の新人エリート刑事という印象に打って変わり、今回はほぼヤクザと変わらないマル暴刑事の見た目に加え、内面的な変化にも驚きました。

髪をバッサリと短くされていて、それだけでも雰囲気は全然違いました。

でも、それ以上に前作の日岡とはまったく違う鋭い目つきをされていて、すごいなと思いました。でも、撮影の合間にお話させていただくと、ギラギラした日岡とは違って、松坂さん自身はものすごく穏やかでやわらかい方なんですよね。そこからどうやって日岡みたいなキャラクターになられるんだろうと思い、あらためてすごい俳優さんだなと思いました。

――シーン的な絡みは少なかったかもしれませんが、上林を演じた鈴木亮平さんの印象は? 劇中では上林が出てくると、また残忍かつ非情なことが行われるのではないか思ってドキドキしました。

そうですよね(笑)。でも、皆さんご存知だと思うのですが、鈴木亮平さんご自身はとても穏やかな方。私としても鈴木さんはいつもニコニコされている好青年のイメージがあって、実際の鈴木さんも本当にそういう方なのですが、映画で見ると本当に非情で非道。ご本人とは真逆なのに、全てにおいて別人になられているのは本当にすごいなと思いました。

■一つ作品を終えるごとに、何か自分の力になっていればいいな

――完成した作品を見ての感想を教えてください

自分が出演しているシーンはそんなにバイオレンスがあったわけではないので、そうじゃない部分を見るのを楽しみにしていました。

というのも、台本を読んだときにも「これはひどい」「これはどんな画になるんだろう」と思っていたところがたくさんあって。それこそ映像で見ていて怖くなるシーンもあったのですが、そういうハードなシーンだけでなく、お話全体の流れもポイント、ポイントでカッコよくなっていて。

――あらためて、白石組に参加してよかったですか?

こんなすごい作品に自分が出演させていただけるなんて思ってもいなくて。でも、それが実現したのはぜいたくなことだと思いますし、自分のイメージとかけ離れた役をいただけたのもうれしかったです。ただ、映画をお客さんに見ていただくのはこれからなので、皆さんにどう評価していただけるのかは、正直、不安ですし、怖いです(笑)。

――乃木坂46を卒業されてから3年。グループではなく、女優として一人で活動するという意味で、ご自身の意識は変わってきていますか?

一人になった3年前は「これからどうなるんだろう?」という不安がありました。お芝居の仕事をやっていきたいけれど、それが本当にできるのかも定かじゃなくて。なので、いまこうして継続的にお仕事をいただけているのは本当にありがたいことだと思います。

――「孤狼の血 LEVE2」への出演は、西野さんの女優としての自信につながるのではないでしょうか?

自信とまでは…。ただ、一つ作品を終えるごとに、何か自分の力になっていればいいなとは思っていて。どのシーンもムダにせずに取り組んでいきたいし、分からないことがあれば先輩方やスタッフさんの意見を聞き、それを自分の中にインプットしていきたい。いまはそういう学びのときだと思ってますし、これからも楽な道ではなく、あえて厳しい道を選んでどんどんチャレンジしていきたいです。

取材・文=馬場英美

公開中の「孤狼の血 LEVEL2」に出演する西野七瀬/撮影=大石隼土