日本人では最長の国際宇宙ステーション滞在記録(通算)を持つ野口聡一宇宙飛行士。彼はミッションスペシャリストとして船外活動も行っています。宇宙での生活のようすを複数回に分けて紹介します。
ISSに日々ぶつかる宇宙ごみ、その衝撃は?
約半年の国際宇宙ステーション(ISS)滞在を終え、2021年5月に地球へ帰還した野口聡一宇宙飛行士へ、直接話を伺える機会に恵まれました。ロケットや宇宙ステーションでの暮らし、そして宇宙そのものについてなど様々な話題に対して貴重な話が聞けました。
最初に紹介するのは、ISS(国際宇宙ステーション)の揺れについてです。現在、ISSは地表から約400kmの高さを周回していますが、日々宇宙ごみ(スペースデブリ)がぶつかっているそう。また、人や補給物資を載せた宇宙船がドッキングすることもあります。そのようなとき、中にいる宇宙飛行士はどのように感じるのかを尋ねました。
――ISSには、小さな宇宙ごみが数多くぶつかっていると聞きます。宇宙ごみが当たったときというのは、衝撃などあるのでしょうか?
野口:実は宇宙ごみが当たっても振動はほとんどありません。宇宙ステーションはサッカー場くらいの大きさで、今回の滞在中、私は船外活動でステーションの一番端まで行って、戻ってくるというのをやりましたが、船外活動中につかまる手すりも含めて表面全体に、本当にたくさんの宇宙ごみの衝突によってできた穴が空いています。
宇宙ごみは小さいけれども非常に速いので、金属を貫通するほどの威力があります。、ぶつかってきた側の表面に小さな穴が空くだけでなく、その反対側は衝撃力の伝播によって爆発したみたいにめくれあがる、という特徴があるため、それが怖いところです。ごみは日々、当たり前のようにぶつかっています。しかし、ぶつかった衝撃というのはほとんど感じません。金属を貫通するくらいのエネルギーをもっていても、宇宙ステーション全体と比べると、かなり小さいので、感知されるような衝撃というのはほとんどありません。
宇宙船のドッキング、その衝撃は?
――では、宇宙船が宇宙ステーション(ISS)にドッキングしたり、あるいはISSが軌道変更したりするときなどは揺れたりするのですか?
野口:ドッキングも、毎回、来る度に「衝撃、感じるかなあ?」と思って待ち構えていますが、ほとんど感じないですね。星出さんが乗ってきたスペースXのクルードラゴンも、それからロシアのソユーズやプログレス宇宙船(使い捨て無人輸送宇宙船)も、みんな同じです。
――宇宙船のドッキングも揺れを感じないのですか。それは意外でした。
野口:宇宙ごみと同じように重さの差があります。さらに、ドッキングの時は相対速度(お互いの速度差)が秒速1cmぐらいで入ってくるので、非常にゆっくり。また、ドッキング機構にはダンパー(衝撃吸収装置)が何重にもついていて、ショックを吸収します。ゆっくり来る上に衝撃を緩和する装置があるから揺れを感じないのでしょう。
ですから、ずっと意識して待ち構えていると、ようやく「ああ、いまドッキングしたな」とわかるくらいでした。意識しないと、本当に気づきませんね。ですから、地上で考えられる揺れ、たとえば電車に乗っているときの振動や地震のようなものですが、これらぐらいの揺れはほとんど感じません。もちろん宇宙ステーションにはたくさん加速度センサーが付いてるのですが、これもそこまで大きな衝撃は検知していません。
――質量の差と速度とが効いてくるんですね。
野口:そうです。一方で大気圏再突入のとき、これはもう、すごい振動。Gもありますけれど、ガタガタ道をクルマで全力で走る。そういう感じです。
――星出宇宙飛行士も同じことをおっしゃっていました。皆さん同様に感じられるのですね。
穴は開くけど揺れは感じないワケ
ここまでの話を聞き、揺れないということを意外に感じたものの、それとともに質量差などで乗員は感じづらいという説明によって納得もしました。
クルマを運転する人であれば、夏の夜に走行中、ボンネットに虫がぶつかったことがあるでしょう。また電車の先頭に虫がぶつかった跡を見ることもありますが、それらは、たとえばセミやカブトムシのような大型の昆虫だったとしても、衝突時に揺れを感じることはありません。汚れたフロントを見て「ぶつかったな」と気づく程度です。
この「汚れ」に当たるのが、宇宙ごみのぶつかった穴です。たとえ虫くらいの重さであっても、速度約1万8000km/hでぶつかってくれば鉄板は貫通します。もちろん、宇宙ステーションはそれを想定して防護板などで何重にも守られています。
さらに大きなごみが来る場合は事前にわかるので、その際は軌道を変えて避けてしまいます。ですから貫通して空気漏れ、という事態にはならないのです。
宇宙ごみ(スペースデブリ)に関しては、実際に宇宙に行き、さらに船外活動まで経験している野口聡一宇宙飛行士ならではの話といえるでしょう。
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