裏社会の人間は、カネを稼ぐためにはとことん頭を使う。依然としてなくならない「振り込め詐欺」や闇金などの特殊詐欺は、いずれもアウトローによって生み出された悪の発明品である。カネを稼ぐためには手段を選ばない。彼らの多くがなるべくなら違法なことは避けようとするが、儲かることが確実に分かれば、違法を承知で即実行に移す。その繰り返しによって、特殊詐欺は生まれてきた。そして彼らの儲かるビジネスのほとんどは、「弱者」をターゲットにしたものになる。
数年前から裏社会で人気の特殊詐欺がある。顧客ターゲットは、年金受給者や生活保護受給者。安定して高収益を上げられることで人気となり、多くの闇金経験者が流れているという裏仕事だ。
それは、裏社会では「偽装質屋」と呼ばれている。一般的に質屋とは、客の品物を担保に金を貸し、その品物を受け出される時に元金と預かり期間の利息を頂戴して利益を得る業種だ。預かり期間の利息は年利１０９．５％、月利では９％が上限金利となっている。
この上限金利を、アウトローたちは見逃さなかった。消費者金融では年利18％前後が標準とされ、出資法の上限利率でも年29．２％と良心的に抑えられている。つまり、「質屋」を名乗って貸付れば、消費者金融ではあり得ないほどの超高金利で堂々と取り立てることができるのだ。
だが、「質屋」は当然、許認可事業である。都道府県の公安委員会の許可が必要なため、反社会集団の参入は難しい。だが、裏社会の人間は、事前に儲かると分かれば、どんんな手を使っても実行する。今回、取材することができた「偽装質屋」の男性（36）もそんな一人である。
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ーー質屋の看板を手に入れた経過は？
「周辺に質屋の身内がいないか探しただけだよ。長男とか次男とか。知り合いの知り合いがいれば、そのツテをたどっていくという感じで。そこでどうにか該当する人間を見付けて、そいつにカネを握らせて丸め込むだけ。その親、つまり質屋の経営者には、息子が投資で失敗したと言う設定で接触する。そこで、１年で借金の数千万の負債を帳消しするという約束で、支店と言う形で名義を借りることになった」
ーー「偽装質屋」の集客方法は？
「チラシと口コミ。あとは主に病院とかね。インターネットとは無縁のお年寄りがターゲットだから。客のほとんどが生活保護受給者と年金受給者だから」
ーー彼らからはどんな質草（担保）を預かるのか？
「あ、そういうのは関係無い。生活保護や年金が担保だから。一応、客のほとんどは質屋だと思っているので、形として何か預かるけど、ブツは何でもいい。何にもない場合は、１００円ライターを預かるという形にはするけど」
ーーそういった客に、いくら貸し付けるのか。
「新規はほとんどが３万からで、本人の受給額によって、10万から20万いくときもある」
ーー生活保護の受給は毎月だが、年金は２ヶ月に１回になる。
「だから年金の方がおいしい。返済したら間違い無く、その後の2か月は生活できないから、必ず借りに来る。最終的にはそれの繰り返しを狙っているから」
ーー回収率は？
「ほぼ１００％だね。今まで延滞は何人かいたけど、逃げられたり、取りっぱぐれたということはない。生活保護が手渡しの場合は役所まで一緒に付いて行くから。年金含めて銀行振り込みの場合は、自動引き落としのハンコを押させて自動的に引き落としにするから。それは新規申込みのときにもらう一式書類に入れてある。あくまで『質屋』だから、みんな、はじめはアレッて思うけど、最終的にはハンコを押す。押したら最後、年金が振り込まれる度にその半分近くが引き落とされるという仕組みだから、焦げ付くことはない」
ーー顧客は何人くらいいるのか。
「数千人というレベル。利益も１年で5000万位なので、思ったより少なかったというのが本音だね。最近、『偽装質屋』も社会問題化しているから、もう手を引こうかなと考えている。最後はこの数千人の名簿売って終わりだよ」
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警視庁生活経済課は昨年11月、貸金業違反（無登録営業）と出資法違反（高金利）容疑で、質屋チェーン「質のひょうたんや」の運営会社ＴＮＴ元社長（56）ら８人を逮捕した。大阪でも同年９月、大阪府警生活安全特別捜査隊が貸金業違反で、大阪府高槻市の質屋「たからや高槻店」の経営者ら３人を逮捕している。
社会問題になった時、世間で話題になった時は、すでに彼らが弱者を食い尽くした後だ。しかし、まだ現在進行形で被害者は増え続けている。周囲の年金生活者に心当たりはないか。一声かけてみてはいかがだろうか。
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