線路が立体交差化されたことにより生まれた空間は、その約15%を公共の目的として使わなければならないという決まりがあります。しかし細長い形状ゆえ、多くは公園や駐輪場などでした。それが近年、別の用途として活用され始めています。
立体交差化後の空間は誰の持ち物?
「開かずの踏切」を解消する手段のひとつに、線路の立体交差化が挙げられます。工事にかかる費用は都道府県・市区町村・鉄道事業者の3者がおおよそ3分の1ずつ負担するのが一般的ですが、行政負担の部分は税金で賄われています。
ところで、地上の線路は多くの場合、その土地は鉄道事業者の所有でしたが、立体交差化された後の高架下や線路跡地は、誰が所有者になるのでしょうか。税金が投じられながらも、引き続き鉄道事業者の持ち物でしょうか。
答えを先に言ってしまうと、立体交差化後に生まれた空間も、鉄道事業者の所有地です。これには釈然としない気持ちになる人もいることでしょう。そこで行政と鉄道事業者は、立体交差化後に生まれた空間の約15%を公共目的に使わなければならないと取り決めています。これは関係者の間で「15%ルール」などと呼ばれています。
そもそも線路用地は横に長い特殊な形状です。有効活用に難しく、まして公共利用には不向きでした。そのため、自治体は駐輪場や公園、防災用倉庫ぐらいでしか利用法を見い出せていなかったのです。
こうした状況を変えたのがJR埼京線です。1980年代に開業した埼京線は、建設当時から、特に高架区間が続く埼玉県内で沿線住民から騒音・振動による反対運動があり、その対策として線路脇に約20mの都市施設帯という緩衝地帯を設けています。それまで都市施設帯のほとんどは空き地となっていました。ところが、埼玉県戸田市が「都市施設帯に保育所をつくれないか」と提案。行政とJR東日本によって保育所が整備されました。これが自治体や沿線住民から好評を博しました。
保育所だけじゃない最近の活用例
都市施設帯は立体交差化で生まれた空間ではありませんが、これが空間を有効活用する糸口になります。保育所は往々にして、園児たちの遊び声がうるさいといった苦情が寄せられ、住宅地に開設することが難しい面がありました。しかし、高架下なら鉄道の騒音の方が大きく、結果として園児の声はかき消されました。
高架下を保育所として有効活用できること分かり、保育所の開設は、先述の「15%ルール」の対象とされました。持て余されていた空間は新たな可能性を切り開かれたわけですが、保育所は振動が伝わりにくいように建物の構造が工夫され、騒音をシャットアウトできるよう二重窓が採用されるなどの対策も講じられました。
ところで、保育所は明らかに公共施設といえますが、近年は「15%ルール」の活用バリエーションも増えつつあります。例えば、スタートアップを支援するためのスモールオフィス、地場産業を支援するためのクラフト工房、斎場、アートギャラリーなど。これまでに見られなかった施設が登場しているのです。これらも公共利用という目的を含んでいます。
「15%ルール」に基づく空間活用は、まだ緒に就いたばかりです。今後、さらに新しい活用方法が模索されていくことでしょう。
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