写真家であり、ネパール大震災後の人々の姿を捉えた『世界でいちばん美しい村』(17)の監督としても知られる石川梵が、クラウドファンディングによって自身の写真集「海人」を映画化した『くじらびと』。予告の時点で多くの人を惹きつける圧倒的な映像が広がる本作が、9月3日(金)より公開となる。そこでMOVIE WALKER PRESSでは、公開に先駆けて本作の独占試写会を実施。ひと足早く鑑賞した映画ファンたちのコメントと共にその魅力に迫っていきたい。

【写真を見る】至近距離で映しだした人間と鯨の死闘、観客も思わず「撮影がすばらしい!」と絶賛

■生活について考えさせられる、現地の人々のリアルな生き様

本作は、石川監督がライフワークとして30年にわたって取材を続けてきた、インドネシアのレンバタ島にある人口1500人ほどのラマレラ村で行われている銛1本での鯨漁をテーマにしたドキュメンタリー。鯨は決して簡単に捕れるものではないため、完成に至るまで3年もの長い月日を費やした力作だ。

男たちは命懸けで漁を行い、女性はそんな彼らを支え、子どもは将来ラマファ(銛打ち)になることを夢見ている。“和”を最も大切な価値観として平穏な日々を過ごすラマレラの住人たちだったが、ある日、若きラマファの青年ベンジャミンが漁の最中に命を落とし、村中が深い悲しみに暮れることになる。

鯨漁はもちろん、鯨と共生する村人たちの暮らしぶりや、捕鯨と密接に結びついた文化や風習にもカメラを向けており、喜びから悲しみまで現地の人たちの様子が赤裸々に映しだされていく。観客もスクリーンを通して伝わってくるリアルな感情に圧倒され、また共感も覚えたようで、

ベンジャミンが亡くなり、村中が深い悲しみに包まれるところは、とにかく感情が原液でかかってくるようなリアルさに、容赦なく引き込まれた」(30代・女性)

ベンジャミンの兄デモが、弟が亡くなった後に『鯨漁は怖い』と正直に言いつつ舟大工を目指すところにとても共感できた」(40代・男性)

といった言葉が並んでいた。同時に、必要以上に鯨を捕ることは決してせず、鯨油まで余すところなく使い切る様子など村人たちの姿勢を見て、現代社会について考えさせられる人も多かったようだ。

「地球には鯨で生計を立てている人がいて、いろんなものがなくても、幸せを感じることができる」(30代・男性)

「原始的な方法で漁をし、昔からの方法で分配し、それを引き継いでいる。子どもたちにも自分たちにとって必要なことはなにかを自然と教えられる」(60代・女性)

現代社会はとにかく無駄が多すぎる。ぜい肉を削ぎ落としたような生活は理想的」(女性)

「必要最小限で生きるということは潔いと思った」(60代・女性)

さらに本作では、例えばラマファを夢見る少年のエーメン、息子ベンジャミンを失くし、一から舟を作り直す舟大工のイグナシウス、一撃で鯨を仕留めたこともある伝説的なラマファのハリ、金に追われたバリでの生活を嫌い、村に戻ってきたピスドニなど、子どもから老人まで個性豊かな人物が登場し、それぞれにもスポットを当てている。そんな登場人物についても

「エーメンはいまの時代を生きながらどのような大人に成長していくのだろうと思った」(50代・女性)

「息子を亡くしそれでも家族を思い前に進んでいくイグナシウスの姿勢が印象に残った」(50代・女性)

「貧しい村と大人は言うが、村の子どもたちは目がキラキラしている子ばかり。船酔いしていてつらそうな子も、漁になった途端イキイキしていた」(40代・女性)

など、彼らの表情や生き様が心に残ったという声も挙がっていた。

■鯨漁のシーンを間近で撮影!圧倒的な映像の迫力

そんな本作の白眉はやはり圧倒的な迫力を感じさせる鯨漁のシーン。長いこと鯨と出会うことがなく、帰国の前日についに撮影が叶ったという漁の場面は、石川監督が乗り込んだ舟が鯨に一番銛を入れたそうで、舟の下で鯨が暴れて舟を揺らしたり、水しぶきがそこかしこで上がったりと、至近距離で人間対鯨の死闘が繰り広げられていく。

「舟の帆先から飛び込み銛で鯨を打つシーンは、とてもダイナミックで空を飛んでいるようでカッコよかった」(40代・女性)

「漁師、鯨の迫力のある戦いや息づかい。映像や編集もこれぞドキュメンタリーという感じ」(60歳・男性)

「鯨やマンタが舟に体当たりしてくる時の音に迫力を感じた」(40代・女性)

などの声からも分かるように、時には空撮から水中撮影までも交えて、画面に映しだされていく臨場感と生命力にあふれる映像は大きな魅力となっている。また、生きるためとは言え、繰り広げられるのは生き物の命を奪う行為。抵抗する鯨の姿は、時には悲しく、残酷なものとして目に映る。

「鯨の絶命シーンが一番刺さりました。生きるため、ましてや彼らは命を懸けて行なっているので、軽々しく非難などできない。いまはいくらでもほかの手段を選べる時代だが、伝統を捨てていいとも言えない。それでもあの大きな命のかたまりから魂が抜け落ちるのに、涙せずにいられなかった」(30代・女性)

「下手に人の死や鯨の死、血を隠すことなく、リアルをそのまま伝えることが魅力だと思う」(30代・男性)

「海と陸のはざまで、生と死のはざまで混然一体となって死ぬ姿に生きる尊さを思った」(40代・女性)

「海の美しさと血の恐ろしさが印象的だった」(50代・女性)

生きることとは?他者の命の上に成り立つ生命の営みとは?といった本質的な命題に踏み込むような真摯な意見も多数寄せられた。

■次世代にも伝えたい作品に込められたメッセージ性

命という重厚な題材を扱い、価値観を揺さぶるような体験を突きつけてくる本作を誰かに薦めるとしたら?という質問に対し、「美しい映像とダイナミックな鯨をしとめるシーンが爽快。静かでダイナミックな漁とその繰り返す営みが心に沁みました」(40代・女性)や「自分の胸に手を当てて考え直すように」(60代・女性)といった、家族や友人、自分と同年代の人々に薦めたいとするコメントが寄せられるなか、次世代の子どもたちにこそ観てほしいという言葉も多かった。

「人も鯨も命懸け、すべての命はつながっている。いまの時代だからこそ命をいただくという意味をたくさんの人に伝える映画として観てほしい」(50代・女性)

「当たり前と思っていることを改めて考えさせられる。死にゆく生命も、それによって生かされ続ける生命もこの映画の中で輝きを放っていました」(40代・男性)

「綺麗な画と残酷な出来事に圧倒される。『生きている』とはどういうことなのか感じてほしい」(50代・男性)

「可能なら吹替版があったら。漢字が読めない子どもにも見せたい」(40代・女性)

壮大で美しい映像とともに映しだされる鯨漁を通して、その土地に住む人の文化や風習を知ることができ、そしてなにより命の在り方とは?ということを改めて考え直すきっかけを与えてくれる本作。ドキュメンタリーを観ることがあまりないという人こそ劇場に足を運んで、心揺さぶられる体験をしてほしい。

構成・文/サンクレイオ翼

鯨漁で生活をするインドネシアの人々を追うドキュメンタリー『くじらびと』/[c]Bon Ishikawa