日本で流行った商品は、韓国でもコピー商品が出回ることが多い。アニメや小説など著作物に関しても韓国版パロディは後を絶たず、しかも模倣品は韓国で堂々と受け入れられる。国民意識が低いためか、裁判になっても無罪放免で終わるケースも多い。

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 そんな中の8月18日ソウル中央地裁は山岡荘八のミリオンセラー小説『徳川家康』の海賊版翻訳に関する著作権違反裁判について、控訴を棄却したことを明らかにした。被告である韓国の出版社代表が2月に死亡したためである。長らく審理されてきた裁判が終結し、出版社は無罪となった。

 今回の裁判は、韓国にありがちな「ご都合主義」が垣間見られる。模倣に限らずだが、韓国では法の力に頼っても正義の証明が難しい場合が少なくない。韓国司法について、韓日・日韓翻訳家の石井友加里氏が解説する。

(石井 友加里:韓日・日韓翻訳家)

1)『大望』著作権問題の経緯・裁判の行方

 今回の裁判は『徳川家康』の無断翻訳版を出版した翻訳家と、韓国で正式な翻訳出版権を持つ会社との間で起きている。『徳川家康』の韓国語版翻訳小説『大望』は、1975年版と2005年版があり、問題になっているのは2005年度版だ。

 そもそも1975年版は、原作者の山岡荘八氏に許可を得ることなく韓国で翻訳出版された海賊版だ。当時の韓国には原作者の権利を守る法律が整備されておらず、法で裁かれることはなかった。

 徳川家康の生涯を描く歴史ロマンは、韓国内でも企業経営者や政治家など「人生に野望を抱く」人々に愛されてきた。2017年には収監中の朴槿恵氏が愛読していることが報道されていたほどだ。

 韓国でも人気の作品だが、日本の原作者には1円も渡ることなく出版社側が利益を収めてきた。後に著作権法が改正されたが、同作品を含む過去の著作物に関しては適用外となっている。その後、1999年に原告側が正式な翻訳権を得て『徳川家康』を出版した。

 しかし、被告側の出版社代表が2005年に無断で修正版を出版したことで問題が起きる。1996年著作権法改正以降、翻訳書を出版する際には原作者、または韓国での出版権を持つ者の承諾が義務付けられていたからだ。

 裁判は当然の流れだった。1975年版と2005年版は別の作品であるとし、一審と二審では代表に対し有罪判決が下された。しかし、2020年12月の最高裁判決では一転し無罪。控訴審裁判所に回されたが、原告が死亡したことで棄却され、これ以上、審理を遂行できなくなった。何とも歯切れの悪い終わり方である。

法の正義よりも国内情緒に左右される韓国の司法

2)モラルのない模倣文化、法があっても都合よく解釈

 韓国では模倣文化が蔓延しており、特に質の高い日本の漫画や小説はうってつけの存在である。かつては外国作品に対する著作権法が未整備だったため、まさにやりたい放題だった。「日本で流行したものには韓国でも流行る」「流行れば金になる」と考える人も多かった。

 問題の翻訳小説は、その先駆けだったと言っても過言ではない。

 2005年版では、読みやすく書き換えて販売部数を伸ばそうとした模様だ。もともと許可なく他人の創作物を翻訳販売し、法の網目をくぐってきたわけだが、法改正後も時代錯誤したまま発行に至ったようだ。同作が人気作品でなかったらここまでもめることはなかっただろう。

 ベストセラ―翻訳が著作権違反の状態にあったとしても、既に認知度が高いため、合法にしておくということかもしれない。最高裁での無罪判決は、状況によって法の正義が簡単に覆される韓国司法の不条理を示唆していないだろうか。

3)都合のよさは慰安婦、徴用工問題でも同じ

 韓国の司法判断は法律よりも国内情緒に影響を受ける傾向がある。慰安婦問題や元徴用工裁判の経過を見ていると、日韓関係の悪化には国内寄りに下された判決が起因している。国の都合を反映しているように思えてならない。

 文在寅政権の場合、慰安婦問題では2015年の日韓合意を反故にした。元徴用工裁判でも2018年に1965年の日韓請求権協定を無視し、日本に損害賠償を認める判決が下りている。どちらも、現大統領が日本に対して強硬姿勢をとっていた時期の出来事である。

 ところが「都合」というものは流動的だ。2021年に入ってから現政府が日本に歩み寄る姿勢を見せ始めると、法曹界の動きも変わる。

 元徴用工裁判では、6月と8月に原告敗訴判決が出ており、4月の慰安婦裁判でも国際法の原則から原告の訴えが退けられた。2019年には、慰安婦合意を事実上否定していた大統領だが、2021年1月には「公式的な合意だったと認定する」と反転した後のことだ。

 しかし、このままでは都合が悪すぎる政治家もいる。

韓国で成立した「言論仲裁法」改正案とは

 共に民主党8月24日の国会で、慰安婦関連団体の名誉毀損禁止を目的とした法案を発議した。この法律は、慰安婦支援団体に対する名誉毀損を禁止する法案で、元慰安婦支援団体「正義記憶連帯」の前理事長であり、6月に共に民主党から除名された尹美香(ユン・ミヒャン)議員も賛同している。補助金の横領や詐欺疑惑で騒がれた人物である。

 また、与党はメディアによる虚偽・ねつ造報道などに対し、損害賠償請求ができる「言論仲裁法」の改正案を強制可決させた。これらから分かることは、それぞれのご都合主義が司法を巻き込んで動き出していることである。

 韓国では、政権が交代するたびに反対勢力への粛清が行われてきた過去がある。現与党に関しては、朴槿恵大統領時代の裁判に介入したとして、現役の判事を弾劾訴追に追い込んだ経緯がある。どうやら判事が法の正義のみに従えない複雑な事情があるようだ。

4)韓国司法のずさんな体制、日韓関係はどうなるか?

 国際問題にも発展した慰安婦、徴用工問題に比べたら、『徳川家康著作権法裁判は小さいかもしれない。しかし共通点がある。韓国では、いつの間にか真実が状況によって曲げられ、原則を無視した判決が通ってしまうことである。ここにも「ご都合主義」の言葉が浮かぶ。

 一方で最近、司法のずさんな管理体勢を象徴する事件があった。徴用工裁判で会社名取り間違え疑惑が起きたのだ。

 8月18日、韓国地裁は三菱重工業に対して取引がある韓国企業の支払い分を取り押さえ、原告への損害賠償にあてることを決定した。しかしその翌日、韓国企業は実際の取引先が三菱重工業ではなく、孫会社にあたる別会社との取引だとを明かした。つまり、裁判所は全く無関係の日本企業に対して損害賠償権を行使しようとしたことになる。確認しなかったのだろうか。韓国の司法にはこのような矛盾も起きる。

偏った司法判断の被害を受けるのはいつも市民

 権力集中型の政府であるほど、立法・行政・司法それぞれがアンバランスに関連していく。

 誰かの都合で偏った司法判断が下されると、その被害を受けるのはいつも「規則を守り、誠実に対応してきた市民」である。今回の例では、正規の版権を持つ出版社である。視野を国際間に広げると、日韓外交に消極的な日本のように思えてならない。

 来年3月の次期大統領選挙戦によっては、新たな都合で現職の判事が弾劾されるかもしれない。恐ろしいが見守るしかない。

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