圧倒的な演技力と色気を漂わせる佇まいが魅力的な、俳優・柄本佑9月10日から公開される映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』では、黒木華と共にダブル主演を果たす。劇中では、黒木演じる妻・佐和子の編集者と不倫をする夫を演じる柄本だが、自身も映画と同様に同じ職業をもつ同業夫婦として知られている。そんな柄本に、結婚生活を円滑にするために大切にしていることを聞くと「思いやりを持ち、尊敬し合うこと。それからお互いが無理のないようにすること」と教えてくれた。

【写真】大人の男の優しさと色気があふれる柄本佑

◆“いい感じの2人だった”と語れるように「今を頑張るしかない」

 本作は、『嘘を愛する女』や『哀愁しんでれら』などを輩出してきたオリジナル作品の企画コンテストTSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」の準グランプリ作品に輝いた作品。結婚5年目の漫画家夫婦が、不倫を巡り、スリリングな心理戦を巻き起こす。

 本作の台本を読んだとき、「老若男女、誰が観に来ても面白い、ある種、王道のエンターテインメントを作ろうとしているんだと感じた」という柄本。「コメディーでもあるし、ミステリーでもある。しかも、不倫を扱っているのに、非常に爽やかなところもある。普通ならば、ドロドロしていく要素ばかりなのに、終始爽やかに描こうという監督の意思を感じました」と本作の魅力を語る。

 柄本が演じるのは、漫画家でありながら、同じく漫画家の妻のアシスタントをして暮らしている俊夫。新作も描けず、妻を担当する編集者・千佳(奈緒)と不倫中という、追い詰められた状況のはずなのに、どこかのほほんと過ごしていた。しかし、妻が自分たちとよく似た夫婦が主人公の「不倫」をテーマにした漫画を書き始めたことで、初めて焦りや恐怖が生まれ、嫉妬心が芽生えていく。柄本は、この俊夫というキャラクターについて「100パーセント、俊夫が良くないんですよ。明らかに憎まれる要素がいっぱいある悪役のような役なのに、どこか憎めない人物にしたいと堀江(貴大)監督とお話しさせていただきました」と明かす。

◆演じる俊夫は「一番不倫しちゃいけない人物」

 さらに、「俊夫がもし、佐和子に嫉妬していたら、こんなにも爽やかな風は吹いていないと思います。俊夫は、アシスタントだった佐和子と付き合って結婚して、でもいつの間にか佐和子が売れっ子になって自分は漫画を描けていない。佐和子のアシスタントみたいなことをしている日々だけど、割とのんきにその状況を受け入れている」と分析する。

 「主体性のない俊夫は、ただ振り回されているだけ。千佳との不倫も、きっと、不倫をした後に『あれ? 考えてみたらこれ不倫だった?』という程度の感覚だったんだと思います。もし、俊夫が確信を持って不倫に走っていたら、この作品の持つ魅力が一つ欠落してしまう。俊夫が完璧に嘘をついたり、うまくやり繰りできるような人物だったら、すごい悪人になってしまう。俊夫は、のんきで正直者で、嘘がつけなくて、一番不倫しちゃいけない人物なのに軽いノリで不倫してしまう。俊夫を演じる上では、そういう俊夫像を思い描きながら役を作っていきました」。

 そうして作られた俊夫の持つ、のほほんとした空気感は、どことなく柄本自身にも共通するように思うが、柄本は「僕はどの仕事でもあまり(役との)共通点は感じたことがない」という。

 では逆に、柄本自身はどんな夫なのかと尋ねると、柄本は「そればっかりは自分では分からない」と笑う。

 「もちろん、周りから『いい夫だ』と言っていただけるようになりたいと思いますが、じゃあ、果たして『いい夫ってどういう夫なの?』というのもあって…。最終的には、『いい感じの2人だったね。めっちゃ楽しかったよね、俺たち』って言えるようになれたらいいのかなと思います。だから、今を頑張るしかない(笑)」。

◆結婚生活を円滑にするために大切に思う3つのこと

 そんな柄本に、結婚生活を円滑にするために大切なことを聞くと、「思いやり」と「尊敬し合うこと」と「無理をしないこと」を挙げた。

 「正解かどうかは分かりませんが、日常の中で、お互いに無理しないようにしたいとは思っています。簡単なことで言えば、例えば、洗い物が溜まっていても、したくないならサボっちゃえばいいんですよ。俺がやりたいと思えばやるし、俺もやりたくなかったら、とりあえず保留にしておく(笑)。『私は妻だからやらなくちゃ』とか、『俺は夫だからこうしないと』というのはなくして、もうちょっとフラットに、無理なく、ゆったりと。そうして、時々、妻が食いつきそうな話を持っていって、サプライズもする。緩急をつけて、なるべく無理をなくしていきたいと思っています」。

◆世間で言われる“色気”も「全然分からない(笑)」

 飾ることなく、プライベートについても語ってくれた柄本だが、実は「自意識過剰だったんです、俺。本当はめっちゃおしゃべりなのに、格好つけていた(笑)」と意外な過去もあったという。
 
 また「結婚して、子どももできると、明らかに自分が一番じゃなくなるんですよ。そうすると、初めてお会いする方に対しても、自分が一番という意識で向かい合うことがなくなりました。とりあえず、そのままの自分を見てもらえればいい。今まではよく思われようと思っていたけれど、今は初めての方ともしっかりと向き合って対話ができている気がします」とも。

 穏やかに、力を抜いて話すその姿からは、懐の深さと優しさが感じられた。それは、柄本が本作をはじめとした数々の出演作で醸し出す「大人の男の色気」につながるのではないだろうか。そう伝えると、柄本は「自分では(色気があると言われても)全然分からない」と声を上げて笑った。そして、「もし、(色気があると)そう言っていただけるのであれば、それは僕がどうこうというよりも、台本や撮影、照明、メイク、衣装があって、形作られたもの。チームのあり方が良かったのだと思います」と笑顔で答えてくれた。

 歳を重ねるごとに魅力に磨きをかける柄本。映画界においても存在感はさらに増していくことだろう。(取材・文:嶋田真己、写真:高野広美)

 映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は9月10日から全国公開。

柄本佑  クランクイン! 写真:高野広美