アフガニスタンの破滅的混乱を目の当たりにしたが、日本では同様のことは起こらないと思っていないだろうか。

JBpressですべての写真や図表を見る

 日本とは体制が異なる国家で、テレビ画像の中で見る遠い世界のことであり、日本では、あのようなことは絶対に生起しない他人事だと思っている人々がほとんどであろう。

 しかし、日本と関わりが薄いということはない。

 アフガンの混乱に似たことが、日本のすぐ近くの朝鮮半島でも起きるのではないか。

 そう考えて、半島有事とアフガンの混乱を重ね合わせると、ソウルの日本大使館は邦人を救出することよりも、自分たちの命を守るために、さっさと日本に逃げ帰るということになる。

 そうなれば、多くの日本人が取り残されてしまう。残された日本人は、アフガンに取り残された日本の協力者達と同じ恐怖心を抱くことになる。

日本人はそんなことはしない」と思うかもしれない。本当にそうだろうか。

 中国軍に圧倒的な軍事力で包囲されそうになった時に、日本のトップは、国民と領土を守るために、命を懸けて戦う意志を示して、実行してくれるだろうか。

 すぐに白旗を上げて、占領を許すことはないか。

 ある政党の綱領やそのトップの発言を聞いていると、有事が切迫してくれば、私は、アフガンの今の状態になることがあるのではないかと、深刻な事態を想像し、不安を感じる。

 今回は、朝鮮半島有事に、日本のトップが判断を誤れば、多くの日本人が救出されずに置き去りにされるなど、アフガンの破滅的な混乱が日本でも起きるのではないか――。

 それを前編、後編に分けて考察してみたい。

国民が選挙で選んだ大統領が戦わずに逃亡

 アフガンタリバンに占拠され、破滅的な混乱はなぜ起こったのか。特に、カブールがゼロ日で陥落、その背景には何があるのか。

 日本に協力してきたアフガン人を救出できなかったのはなぜか。

 アフガンの第2の都市ガンダハルが陥落したのは、8月12日だった。残すは首都カブールのみであった。

 この時、「タリバンカブールに迫っている」という情報が流れた。

 アントニー・ブリンケン米国務長官とガリ大統領との会談では、ガニ大統領は、「カブール陥落の前日まで戦う」「死ぬ覚悟で戦う」と言っていた。

 しかし、会談翌日の15日には、全く戦うことなく、国と国民を捨て、外国に逃亡した。と同時に、タリバン兵の数をはるかに上回る30万人の政府軍は、どこかに消え去った。

 アフガンを去ったのは、「流血事態とタリバンとの衝突を避けるため」だと述べた。

 現実は、アルカイダと手を組み数々の蛮行を行ってきたタリバンの中に、国民を置き去りにして去ったということだ。

 アフガンの人々は、タリバンの蛮行を恐れて逃げられる出口の空港に殺到した。

 衝突を避けるためといって、自分は逃げて、国民をテロリストと手を組んだ過激なタリバンの中に突き落とした。

 国家元首は、国内でクーデターが起こると、逃亡することがある。しかし、これは、国民がクーデターを起こしたことなので、国民が残酷な目に遭うことはない。

 今回のアフガンのように、国民が残酷な目に遭うかもしれないのに、国民を置き去りにして逃げたというのは、私の記憶にはない。

 危機に際し、国民を置き去りにして真っ先に逃げ、国ごと見捨ててしまったのだ。

 だが、ここで、考えなくてはならないことは、このガニ大統領を選挙で選んだのは、国民であるアフガニスタン人だということだ。

 米国ではない。

 国家の方針決定を任せるトップを誤って選んでしまうと、国家の一大事である戦争の時に逃げることもあるという、心に強い痛みを感じるほどの教訓だ。

 国民は、国家のトップが軍隊とともに、国民の命と国土を守るために、命を懸けて戦ってくれると思っていた。

 だが、何もせず、一番に逃亡した。こんなことは歴史的に見ても、極めてまれなことだ。

 とはいえ、この大統領を選んだのは、アフガン国民が選んだのだからしかたがないことと片づけていいものか。

日本が取り入れるべき教訓

 米軍情報機関は、カブールタリバンに攻撃されても、少なくとも3か月は持つだろうと見積もっていた。

 その理由は、市街地の戦闘では、防御戦闘は容易で、攻撃占領の方が難しい。降伏しなければ、占領には多くの期間を要するからだ。

 例えば、第2次大戦の独ソ戦で、ソ連のスターリングラードで、ドイツ軍とソ連軍の攻防戦は壮絶を極め、7か月を要した。

 結局ドイツ軍は占領をあきらめ撤退した。このように、市街地の戦闘は困難を極め、占領には、長期間を要するものだ。

 これは、あくまで、両軍が真剣に戦えばの話である。

 ところが、カブールでは「ゼロ日で陥落」という、あまりにも簡単な結末だった。

 そして、大統領は逃亡し、カブール市民らは、置き去りにされてしまった。市民の恐怖は、察するに余りある。

 アフガンで生起したことは、日本から見れば、遠い地の果てのことのようだ。

 しかし、日本の隣国に独裁国家の中国や北朝鮮が存在することから、この状況に似たことが生起する可能性はある。

 アフガンのような事態が引き起こされた原因はいくつもある。その中から日本に影響を及ぼすこと、関係があることを列挙する。

①8月中の米軍撤退が決定された。強大な軍事力で国を支え、血を流して一緒に戦ってくれる米軍が去ることになった。

 このため、「自国の軍隊だけでも戦う」という意思よりも「自国の軍隊だけでは守り切れない」という不安の方が大きかった。

 自国だけで防衛できないのであれば、軍事同盟が不可欠であることが分かる。一緒に戦ってくれる同盟国が存在せず、攻撃を受ければ、恐怖と混乱が大きく膨らんでくる。

 日本のように、独裁で危険な中国・ロシア北朝鮮が海を境に隣に存在していれば、同盟は絶対に必要である。

 同盟を固く結ぶには、自国を防衛する努力とともに、相互信頼や相互依存の関係を構築することだ。

②投降の雪崩現象が起きて、各都市の首長と守備の軍隊が、タリバンに簡単に投降した。各地の守備部隊の崩壊は、国家中枢の心理を不安にさせた。

 もし、島嶼が敵国に占拠されて、すぐに奪回しなければ、島嶼の住民に不安と恐怖が膨らんでしまい、勝手に白旗を上げて投降することもありうる。

 島嶼の首長が連鎖的に白旗を上げることがないように、島嶼の住民には、日本が絶対に守り抜く姿勢を必ず示さなければならない。

③政権内部で汚職が蔓延し、軍事的危機に国家のトップ自ら外国に逃避した。

 日本の総理が海外に逃亡することはないだろう。だが、かつての国会議員の中には、攻められれば、白旗を上げて投降すると発言していた人もいた。

 また、「日本が誤っていました」(本人の誤認である)と中国や韓国に伝えていた元総理がおられる。

 将来、このような考えの持ち主が、再び総理になれば、中国などに恫喝されたときに、さっさと白旗を上げて投降するかもしれない。

 国家のトップは、死を覚悟しなければならないほどの恐怖を受けても、国を守る信念をもって、国の方針を決めて実行すべきだ。国民は、国を守り抜く力量がある人を選ばなければならない。

④軍人の俸給が遅配し、政権内部の腐敗が懸念されていた。軍人に不満があった。政府や国民を守る気概が無くなっていた。

 日本の現状では、自衛官や公務員に給与が遅配されることはない。だが、自衛隊は憲法違反だと主張する憲法学者が多く、自衛官の社会的地位が憲法上定まってはいない。

 自衛官が誇りをもって、危険を顧みず戦うためには、憲法に自衛隊を国防軍として保有すると記載されるべきだろう。

タリバンカブールに迫ってきた。アフガン軍は、タリバンに包囲される恐怖を感じた。大統領は、その不安からか、国民を見捨てて、真っ先に逃亡した。国民は、タリバンの恐怖から逃れるために空港になだれ込んだ。

 軍事的に包囲されると、国民や市民は生命の危険を感じ、そこから逃避しようとする。このため、国のトップや軍部隊は逃げることがあってはならない。

 彼らが命を懸けて戦う姿勢を見せ、実行することが必要だ。

 そうすることで、国民や市民が浮足立って、敗走することはなくなる。国を守る政党・政治家の選択を誤らないことだ。

 ガニ大統領のような逃亡する人物、白旗を上げて投降する人物を選ばないことだ。

⑤日本の大使館職員は、大統領逃亡後の2日後には、12人全員、外国に避難した。そして、トルコから法人の保護や大使館に勤務していた外国人スタッフの救出作戦を実施することにした。

 避難したという表現は、職員の活動に問題はなかったという意味が含まれている。だが、実際は真っ先とは言わないが、外国人スタッフを置き去りにしたことは事実だ。

 当地から離れれば、避難のための機微な情報を入手することはできない。大使館の判断の誤りだ。

 残留邦人が頼りにするのは、現地の大使館職員と救出に来てくれる自衛隊だ。

 大使館員は死の恐怖に晒されるだろうが、残留邦人と救出に来る自衛隊の間にいるのは大使館職員しかいない。

 大使館員は、現地の情報を収集し、自衛隊を誘導する役割を果たすべきであろう。

まとめ

 アフガンが、タリバンにいとも簡単に占拠されてしまったという事実は、国を建設していくために、絶対で不可欠なものを教えてくれた。

 それは、国のトップ政治家、軍人が、命を懸けて戦い国を守るという魂がなければ、国は簡単に滅ぼされてしまうということである。

 後編では、さらに日本について考える。

ガニ大統領の心理状態と命を懸けて戦う精神や魂
日本朝鮮半島有事で、アフガン事態を想定すべし
将来、日本のトップが民意を無視して白旗を上げることはないか

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  米国の期待は大外れ、テロリストが居並ぶタリバン政権の顔ぶれ

[関連記事]

北朝鮮が長距離巡航ミサイル発射、日本への脅威度を詳解

眞子さまの結婚は覆せない決定事項ではない、衆院選の争点にせよ

米軍が撤退すると真っ先に国外へ逃げ出したアフガニスタンのガニ大統領(写真は2020年3月9日・2期目の認証式で、写真:AP/アフロ)