米首都ワシントンの司法長官が反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで米アマゾン・ドット・コムを訴えていた訴訟で、同司法長官が訴えの範囲を拡大したと、米ウォール・ストリート・ジャーナル米CNBCなどが9月13日に報じた。

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 アマゾンの電子商取引(EC)慣行を巡り、新たにファーストパーティーセラーと呼ばれる仕入れ先との取引にも反トラスト法違法があったとする申し立てを追加した。

「最低利益協定」「調整支払金」

 アマゾンのECサイトで販売される商品は、大半が出品者によるものだ。それ以外はアマゾンが卸売業者などから直接仕入れて販売している。

 ラシーン司法長官の修正訴状によると、アマゾンは卸売業者に対し取引条件として「最低利益協定」を結ばせている。これは、アマゾンの利益率が水準に満たない場合、卸売業者から「調整支払金」を徴収するというもの。

 アマゾンは他社のECサイトで同一商品がより安く販売されていないかをチェックしている。もしより安価な商品が見つかれば、自社直販商品の価格を下げる。この時「調整支払金」が発生するという。

 この協定により、卸売業者はアマゾン以外のECサイトで小売価格が低くならないようにする。アマゾンが直販商品を値下げすることがないように、他社ECサイト向け卸売価格を高く設定するという。「結果として、ECマーケットプレイスにおける競争が阻害され、小売価格の上昇を招いている。消費者に損害をもたらし、アマゾンの市場支配力を強固にしている」と司法長官は批判している。

出品者に対する価格拘束

 21年5月にラシーン司法長官がアマゾンを訴えた訴訟では、サードパーティーセラーとも呼ばれる、ECマーケットプレイスで商品を販売する出品者との取引慣行を問題視していた。

 訴状によると、アマゾンは19年3月に新たな「公正価格規定」を設けた。この規定では、出品者が価格を自由に決めることができる。一方でアマゾンは他社ウェブサイトをモニターし、出品者がアマゾンのサイトでの価格よりも安く販売していないかどうかを確認。他社サイトでより安価な商品があれば、アマゾンはその出品者の同じ商品を自社サイトで大々的に表示しない。

 ラシーン司法長官は、「アマゾンは出品者に対し他のサイトよりも安く売るよう指示し、価格を拘束した」と批判している。

アマゾン「反トラスト法の本来の目的と逆行する」

 これに対し同社は、「出品者は我々のオンラインストアで提供する商品の価格を独自に設定している。司法長官は全く逆の考え方をしている」と反論。

 「安価な商品を提供していることに誇りを持っている。当社は多くの小売業者と同様に、割高なものを目玉商品として扱うことはしないし、その権利を持つはずだ。当社の価格規定は、過剰な支払いから消費者を守ることを目的にしている」と主張している。

 「司法長官の主張は、割高な商品を消費者に売り込むよう我々に要求するもので、反トラスト法の本来の目的と逆行する」とし、「アマゾンでは、価格や配達の迅速さなどを考慮し、どの商品を顧客に勧めるかを決めている」と説明した。

 CNBCによると、アマゾンの広報担当者は今回の修正訴状についても同様の声明を出したという。

米連邦議会や米欧規制当局がアマゾン調査

 この訴訟は首都ワシントンの法律に違反したとするもので、アマゾンの米国全土の事業への影響は限定的だとみられている。

 だが、アマゾンなどの巨大IT(情報技術)企業の商慣行を巡っては、米連邦議会や米欧の規制当局などが監視を強めている。

 米議会下院の超党派議員団は21年6月中旬、米巨大IT企業を対象にした反トラスト法改正案を公表。下院の司法委員会は6月下旬に計6本の改正案を可決した。アマゾンなどにとって痛手となるのは、プラットフォーム上で利益相反となる事業を保有することを禁じる「プラットフォーム独占終了法」と、自社製品・サービスを優遇することを禁じる「オンラインにおける米国人の選択と技術革新法」とみられている。

 前者はアマゾンが商品の保管や梱包、配送などを代行する出品者向けサービス「Fulfilled by Amazon(FBA、フルフィルド・バイ・アマゾン)」も対象となり、同事業の売却を余儀なくされる可能性もあると指摘されている。

 米連邦取引委員会(FTC)もアマゾンの小売事業やクラウドサービスについて調査中だ。欧州連合(EU)の欧州委員会は20年11月、アマゾンに対し競争法違反の疑いに関する暫定的な見解を示す異議告知書を送付。アマゾンが出品業者の売上高や発送個数、訪問者数といった非公開の販売データにアクセスし、自社製品の販売に利用したと指摘した。

 (参考・関連記事)「アマゾン、独禁法改正で事業売却余儀なくされる恐れ | JDIR

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(写真:當舎慎悟/アフロ)