北朝鮮の総人口は2019年の時点で約2525万人。合計特殊出生率(女性が一生で出産する子どもの数)は1.9人だ。だが、これらはいずれも韓国統計庁、国連人口基金が推定したもので、正確な数値は不明だ。

北朝鮮は人口調査を行ってはいるものの、超一級の国家秘密としており、その数字を漏らした幹部の家族を管理所(政治犯収容所)送りにしたことを考えると、外部に知られたくないほど深刻なものであったことは想像に難くない。深刻化する少子化に対して、北朝鮮当局は対策に乗り出した。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、道内の産院と病院における妊婦の数、5歳未満の子どもを育てる家庭や属する人民班(町内会)を把握、報告した上で、道党(朝鮮労働党両江道委員会)と道人民委員会(道庁)が育児をケアせよとの指示が最近、中央から下されたと伝えた。

市場経済化が進むと同時に、福祉の形骸化が進む北朝鮮では、安心して出産・育児できる環境が失われている。また、新型コロナウイルスとその対策としてのコロナ鎖国が、両江道を始めとする国境地域の経済を極度に悪化させ、出産率が急激に低下しているとのことだ。出産したとしても、子どもが栄養失調になるケースも多いと伝えられている。

そこで中央は、地元の党委員会、イルクン(幹部)、そして党の育児政策を通じて「子どもたちの面倒は党が見る」ということを見せつけ、親たちが安心して出産・育児に取り組めるようにすべきだと強調した。その第一弾として、妊婦と子どもの実態を把握する調査が行われたというわけだ。

さらに、適正体重に達していない栄養不足の子どもの数を把握し、市や郡の病院に母子共々入院させ、療養、治療させる事業の先頭に立つように注文をつけた。

そして、親たちの勤め先である機関、企業所を通じて、5歳以下の子どもに乳製品を1週間に1回、国定価格で配給せよとの指示も下した。実際に今月7日から週1回牛乳と乳製品、月1回3キロのヤギミルクの配給が始まり、親たちは歓迎している。

また党委員会に対し、この事業について毎月の総和(総括)を行い、問題が生じれば対策を立てよとの指示も下した。

本来は国がやるべき事業を地方に丸投げした形で、とりあえずはスタートが切れたようだが、問題となるのは財源だ。金正恩総書記は、法的裏付けのない金品の徴収「税金外の負担」を禁じており、実際に両江道では取り締まりも行われている。

住民からの徴収を行わなければ財源が確保できず、財源がないとの理由で事業を中止することは許されない。にっちもさっちもいかなくなるのは、そう先のことではないだろう。

2015年1月1日、平壌育児院・愛育院を訪問した金正恩氏(朝鮮中央通信)