TrySail

 麻倉もも雨宮天夏川椎菜による女性声優ユニットのTrySailが15日、4thアルバム『Re Bon Voyage』をリリース。本作は大人気アニメやゲームの主題歌、パーティーソングからバラードまで、TrySailの魅力が凝縮された1枚。ここでは『Re Bon Voyage』の楽曲を中心にTrySailの歌唱の魅力に迫りたい。

あらゆる曲調のなかで際立つ声

『Re Bon Voyage』通常盤ジャケ写

  “声のプロ”とも言えよう声優として活動しているTrySailのボーカルの存在感は、あらゆる音楽性の楽曲であっても際立って感じられる。

 これまで発表されたTrySailの楽曲を振り返ると、アップテンポの「adrenaline!!!」、鋭いロックサウンドに切ないメロディーが絡む「High Free Spirits」、リッチな低音が効いたクラブサウンドの「Truth.」など、様々な楽曲テイストのなかでも個性豊かな歌声を響かせていた。そして、そこには声優の確固たる発声の土台があってこその歌唱の魅力があると感じさせてくれた。

 ニューアルバム『Re Bon Voyage』を聴くと、まず1曲目の「Re Bon Voyage」から「Favorite Days」「この幸せが夢じゃないなら」とアップテンポの楽曲が連なり、ライブ感さながらのテンションの歌唱を味わわせてくれる。

 次曲の「ごまかし」では伸びやかなボーカルが映え、ピアノとアコースティックギターが絶妙に絡むサウンドに溶け込む。

 そして「モノラル」ではストリングスが優雅に響き渡るなか、ゆったりと漂うような美麗なバラード調のサウンドにTrySailの歌声が浸透している。

 続く「誰が為に愛は鳴る」では、重厚なエレクトロダンスサウンドにロックギターと、キレのある攻めの音像。バラードからエッジの効いた楽曲へという展開ながらも、TrySailの安定感のある歌声がアルバム内での曲調の変化をごく自然に聴かせている。

 さらに「うつろい」では、乗りに乗ったロックバンドを思わせるような曲調で、たたみこむような熱い歌唱を聴かせる。4つ打ちビートが体を揺さぶる「マイハートリバイバル」ではポップなコーラスが醸すハッピーな空気感を、「君となら」では、思わず口ずさみたくなるようなキャッチーなサビのメロディを印象的に歌い上げる。

 本作全12曲、ロック、ポップ、ダンスチューンにバラードと、カラフルな曲調が並ぶなかでも歌声がサウンドの厚みに埋もれることなく、くっきりと耳に届くその理由には、声優ならではなのではないかと考えられる。

声優のボーカルの力とは

 声優であるTrySailの歌唱の魅力には、「淀みない滑舌で発声が明瞭」「声の立ち上がりが早い」「どこをとっても声そのものが聴き心地よい」「キュートな個性の声の歌唱」という、声優ならではとも言えよう部分が含まれるポイントが挙げられるのではないだろうか。これらの秀逸な各ポイントからは、TrySailのボーカルの特性、オリジナリティを感じさせてくれる。

 ボーカルの特性という点は音楽性によって様々で、たとえば、あまり明瞭に発声せずに囁くようなボーカルが魅力のひとつという、90年代シューゲイザーのバンドの音楽などがあったりする。そして、滑舌を意図的に濁らせて歌って恰好よく響かせるという、60年代の英国バンドのようなアプローチの楽曲もある。

 また、攻撃的なシャウトのボーカルが魅力のロックンロールバンドもいる。さらに、ソウルミュージックのように、あふれる情念を表すように、音程や音価を細かく揺らして心地よく聴かせるボーカリストもいたりと、「様々な音楽性においての聴き心地のよい歌唱方法」の例を挙げれば枚挙にいとまがないかもしれないというほど、あらゆるテイストの歌唱のそれぞれの魅力がある。

 そのなかで、TrySailの歌唱を聴いて改めて気付かせてくれたのが「声優のボーカルの魅力」だ。そして、TrySailの歌唱では、その点がとても伝わりやすくリスナーに届くと感じられた。

 また、少し細かいポイントかもしれないが、TrySailのボーカルは声の高音域の倍音成分の豊かさが顕著であり、厚いアンサンブルの場合に飽和するケースもある高音域において、TrySailの声の強みが際立ち、楽曲のサウンドと調和し、ボーカルの存在感が浮き出ているという点も挙げられる。

 アルバム『Re Bon Voyage』の楽曲を中心にTrySailの歌の魅力に迫ると、「声優の声の力」「声優のボーカルの存在感」の魅力を存分に受け取ることができた。今後もあらゆる音楽性の楽曲でTrySailの声、歌唱の存在感を示してくれるのか、期待の念が膨らむ。【平吉賢治】