「あの小説がついにアニメ化!」「あの人気コミックの劇場映画がこの夏公開!」などのフレーズがネットを飛び交い、ファンの期待をふくらませる昨今。そのはじまりを生み出す「原作者になりたい」と思う人も少なくないだろう。

【記事全文】新人賞受賞者が語る作品づくりのポイントとは!?

 長年続くマンガの新人賞や、数千もの応募があるライトノベルの新人賞など、作家デビューへの登竜門は数あれど、そこは狭くて険しい茨の道。どんな作品を、どんなキャラクターを描けばその先へ行けるのか?

 そこで今回は数々のメディアミックス作品を生み出した『えんため大賞』(エンターブレイン主催)の事例から、創作のポイントを探ってみたい。『えんため大賞』では、小説・ガールズノベル・ガールズコミックの3部門の新人賞を同ブランドで行っているが、ジャンルによって審査側の評価基準はどう変わるのだろうか?

編集者が求める作品とは!?

 審査側は応募作品をどう見るのか? どんな作品を求めているのか? 小説、ガールズノベル、ガールズコミックの各編集部を代表して、現役の編集者3人(全員女性)に聞いてみた。

◎小説部門(ファミ通文庫編集部)担当Aさん

──どんな主人公キャラが良いのか?

ライトノベル読者のメイン層は10代~20代の男性です。共感を呼ぶキャラクターにするためには、中高生の男の子を主人公にするのがベターだと思います」

──おじさんや女の子はダメ?

「魅力的なキャラ造形ができれば、どんな設定でも問題ありませんが、若い男性読者が共感できる女子視点やおじさんの物語は容易ではないので、かなりハードルが高いですね」

──魅力的なキャラ造形とは?

「一概にはいえませんが、例えば過去の受賞作でアニメ化もされた『犬とハサミは使いよう』は、キャラ造形の好例です。強盗に殺された本好きな主人公は、好きな作品の続きを読みたいという執念で蘇ります……犬として。普通は“なんで犬?”“人間に戻れるのか?”となるところが、この主人公は『犬じゃ本が読めないじゃん』と真っ先に考えてしまう。読者も共感できる本好きというキャラが、犬になったことによって際だっているんですね。一方で、その翌年の大賞受賞作『龍ケ嬢七々々の埋蔵金』は、数多の“宝”が眠る人工島に多彩なキャラが集うという物語で、こちらは個々のキャラ造形もさることながら、キャラを暴れさせ、活躍させることができる舞台設定の懐の深さがポイントでした」

──表面的な突飛さや口調=キャラ造形ではないと。

「そうですね。設定だけでなく、そのキャラの魅力を見せられる、キャラを生かせる物語展開なり舞台なりが必須だと思います。またそれとは別に、作者の中にキャラが生きている感があるといいですね。応募作の物語が完結した、その後はどんな人生を歩くのか、がイメージできているような」

◎ガールズノベルズ部門(ビーズログ文庫編集部)担当Sさん

──どんな主人公が求められているのか?

「ガールズノベルは女性向けに特化した小説なので、女性の共感を呼ぶキャラが第一条件です。ジャンルの主流は西洋ファンタジーですが、面白ければどんなジャンルでもOK。主人公の年齢は10代が多いですが、性別は男女ともアリです」

──男女、それぞれに違いは?

女主人公の場合のキーワードは“花嫁”や“身代わり”。異世界への転生モノと同じで、「もしも自分が○○だったら、という願望を叶えてくれる物語が人気です。男主人公の場合は、仲間やライバルなども男キャラを多めに配置し、その関係性を見せるのが好まれます」

──異性に囲まれたハーレム状態ではなく?

「女性読者に同性キャラに共感してもらうのは、ハードルが高いんです。女主人公が複数の男キャラと同時に恋をすればそれは八方美人でイヤな女として反発します。男主人公の場合だと、恋愛感情に共感して楽しみたいわけではないので、主人公の周りに異性が多いのもちょっと違います」

──その他のポイントは?

「面白い作品というのは、読んでいる最中にビジュアルイメージが自然と膨らみます。イラスト映えする描写、コミック的な楽しみ方ができる設定や会話をシンプルでテンポ良く書いて欲しいです。女性は取説を読むのが苦手ですからね(笑)。それと、やはり新しい感性が欲しいので、10代の人たちにどんどん応募してチャレンジしてもらいたいです」

◎ガールズコミック部門(コミックビーズログ編集部)担当Nさん

──応募作に求めるキャラクターとは?

「とにかくイケメンです! ひとりではなく、複数のイケメン!(笑) ストーリーや設定よりも、いかにイケメンを格好良く描けるか、そこが最大のポイントです」

──とにかくイケメン…?

「小説との決定的な違いは、“絵”はひと目で優劣が分かることです。絵を気に入ってもらえないと読者さんは手に取ってくれません」
──主人公は男、ということですか?

「基本的には、ガールズノベルの“男主人公モノ”と同じ考え方です。女主人公もありですが、その場合、恋愛メインのストーリーはNGです。それはガールズコミックではなく、少女マンガであって、カテエラ(カテゴリーエラー)になってしまいますから」

──男女が登場しても恋はなし?

「あくまでも恋愛はメインではないということです。“冒険要素”といいますか……ファンタジーや特殊能力など、不思議な世界観で、事件や戦いを通して主人公が成長する物語を描いて欲しいです。それから背景……」

──背景?

「背景が白く、どこで何をしているのかが分からない作品がけっこうあります。大変ですが、流用や盗用をせず、きちんと背景を描いてあると、ポイントが高いです!」

──ストーリーは……?

「ウチはゲーム原作や小説のコミカライズなども多く作っていますので、魅力的な絵が描ければ、漫画家としての仕事はあります。原作モノを描きながらストーリーを学ぶこともできますからね」

 以上の話からポイントをまとめてみた。

・カテエラに注意しよう!
・でも、「面白ければ」なんでもアリ!
・出版までには時間がかかる。流行にとらわれず、自分で流行を作る意気込みで!
・出し惜しみせず書きたいものを描こう!
・読み手に伝わる表現を意識しよう! 伝わらなければ評価されない!
・ガールズコミックはとにかくイケメン! そして背景!
・10代の若者たちも恐れずチャレンジ!

 審査側が見ているのは、応募時点での完成度ではなく、新人作家が持っている感性と可能性だ。ここまで読んだ貴方!あとは…作品を書く&描くのみ!! 起て、未来の作家たち!!

 ダ・ヴィンチニュースでは、編集者たちの心を揺さぶり、見事、受賞者となった作家3人(鳳乃一真さん、小椋春歌さん、八街潤さん)にも、応募作品制作時のこだわりについてアンケート調査を実施。ぜひチェックして参考にしてみて欲しい。

取材・文=水陶マコト

第13回えんため大賞小説部門大賞受賞作『龍ケ嬢七々々の埋蔵金(7)』(鳳乃一真/ファミ通文庫)