2019年4月に起きた東京・池袋の暴走事故で、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた飯塚幸三氏(90)について、禁錮5年の有罪とした東京地裁判決が9月17日、確定した。

期限の16日までに、検察側弁護側双方が控訴しなかった。

妻の真菜さんと娘の莉子ちゃんを失った松永拓也さんら遺族は17日、都内で会見し、飯塚氏に向けて「他者を思いやる心を取り戻す5年間にしてほしい」と話した。

●「終わったよ」

17日の午前中、判決確定の知らせを受けた松永さんは、二人の仏壇に手を合わせながら「終わったよ」と報告したという。

確定して、もう裁判で争わなくてもよいという「安堵の気持ち」もあるが、それだけでなく「複雑な心境」があるとした。

今も飯塚氏から直接の謝罪はないという。

「私が知りたいのは、飯塚氏が過失を認めたうえでの控訴断念なのかということです。今のところ、『過失でした』という言葉を聞けていません。たった一言だけで遺族がどれだけ救われたか。残念です」

ただ、そのうえで、刑務所に入るという決断をしたのであれば、「尊重して、罪と向き合う時間にして」と話す。

刑務所で過ごす5年間の中で、過失だったと思える日がくるのであれば、贖罪の始まりだと思います。本当の意味で、人間として、他者を思いやる心を取り戻す5年間にしてほしい」

●「あなたの娘と孫を殺してごめんなさい」と直接謝ってほしかった

真菜さんの父親の上原義教さんは、娘と孫と「また一緒に遊びたかった」と涙声で話す。

「飯塚さんが『心からごめんなさい。あなたの娘さんと孫を殺してしまった。ごめんなさい』と顔と顔を付き合わせて謝ってくれる」ことを期待していたが、叶わなかったことに無念をにじませ、「本当に反省しているのかという思いもある」と語る。

これまで気丈に語っていた松永さんも、「真菜と莉子への思い」を語る際には涙した。

「二人に出会えて、本当に幸せでした。たくさんの愛を教えてもらって、たくさんの愛をくれました。心から愛していると伝えたいです。交通事故を一つでも減らすことができたよと自分が命尽きるときに言えるように生きていきたいです。今裁判が終わった今、やっと争いではなく、二人の愛してくれた私らしく生きていける。これからは愛してくれた僕に戻って生きていきたいなと思っています」

また、支援者らに「本当に2年5カ月の間、ありがとうございました」と感謝の言葉を向けた。

●世間のバッシングが減刑につながる皮肉…中傷は望まない

今後、松永さんは、高齢者ドライバー問題をはじめ、交通事故撲滅の運動をさらに精力的に続けていく。

そこで、交通事故を1件でも減らすために、本質的に大事なものは、「この事故を教訓として、未来に起こりえる事故を防ぐこと」と強調する。

飯塚氏に対する「上級国民」との非難や、逮捕されなかったことでの非難などは「本質的に大事なことではない」という。

というのも、そのようなネット中傷などにより、「飯塚氏が過度の社会的制裁を受けたとしたことが減刑理由になった」からだ。

「社会で健全な議論がなされることは大事。それを超えて脅迫になるようなことを望んでいませんでした。減刑理由になることもわかっていましたから。過度な制裁によって減刑になったことは悲しく思っています。私自身も誹謗中傷は受け続けていました。

法務省侮辱罪の厳罰化方針がかたまったと聞いております。加害者も被害者も誹謗中傷されない世の中になってほしい」

過度な社会的制裁の背景には、「自分は事故を起こさないけど」という意識があるのではないかと指摘した。

「誰しも交通事故は起こしえる。加害者の事故後の言動は非難されても仕方ない部分はある。ただ、事故そのものは誰しも起こしえるもの」と行き過ぎた中傷を牽制した。

●控訴しないことを求めてきた

9月2日の東京地裁判決は、一貫して無罪を主張してきた飯塚氏の過失を認め、車に異常はなく、アクセルを踏み続けたとした。

松永さんは、判決前から「争いを続けたくない」として、控訴をしないようにもとめてきた。その思いを受け入れたかどうかはわからないが、飯塚氏は控訴しなかった。

刑事訴訟法では、健康に著しい影響や、高齢(70歳以上)などの理由があるときには、検察官の判断で刑の執行を止めることができるとされている。

ただ、飯塚氏が執行停止をもとめていないとする報道もある。

池袋母子死亡 松永さん、二人の仏壇に「終わったよ」と報告…飯塚氏の禁錮5年確定