凄いなあと思ってニュースを見ているんですが、中国国家主席の習近平さん、振り切れてるというか、反腐敗運動から新スローガンの共同富裕まで、さまざまな面白政策が出てきてビックリな状況になっておるわけですよ。

 最近だと、中国不動産ファンドデベロッパーで規模2位ぐらいの、広東省深圳市が本拠地と言っておきながら実際の登記地はみんな大好きケイマン諸島の「恒大集団」が槍玉に挙がってました。何が凄いって、「あいつら何か不調だな?」と囁かれて、第三者が見て「おかしいから格付け下げるぜ」と言い始めてわずか2週間後には、9月20日付の利払いが停止されて事実上の破綻宣告。早い。ヤバいぐらい早い。もうね、プーさんがはちみつ舐め尽くすぐらいの猛スピードで死亡であります

経済犯罪なのに死刑ってどうなのよ、と思うわけですが

 そのトリガーとなったのは、2兆円ぐらいと言われているドル建て社債。買い手はみんな中国大陸から見れば外国人なんですが、これらの資金のけっこうな割合が中国から海外に流れ出たカネをシンガポールとかマレーシアファンドにして買ってるだけという意味では、中国人外国人のふりをして中国不動産会社の高利回りジャンク社債を買って、資金を中国本土に還流しているだけとも言える。まあ本当に飛んで清算してみないと分かんないですけどね。

 で、ここの総帥だった許家印さんという人、広州から北京五輪上海万博、そして香港・深圳の発展に深く寄与した立役者にして中国3位の富豪だったのに、おそらく年末にはすってんてんになります。大変なことだ。さらには、この恒大集団の成長に寄与した当局担当者がつまみ出されて、腐敗行為に加担したということで死刑判決が出るんじゃないかという噂まで出るビッグな話になってきました。

 経済犯罪なのに死刑ってどうなのよ、と思うわけですが、まあ実際けっこうな数の人たちが中国国内や海外の事案で取っ捕まって裁判にかけられ死刑判決になってしまう実態もありますので、汚職も命がけであります。大変なことだと思うよ。

 投資家サイドから見ていると「ああ、これぞ中国リスクだな」と思うわけなんですが、一連の話の遠因は2012年11月中国共産党政治局の「第1回集団学習会」で中国共産党トップに就任した習近平さんが「腐敗が進めば共産党の滅亡に繋がる」ということで、最優先での徹底した排除を目指したところから続いておるわけですよ。

 そこから足掛け10年、党内基盤が盤石になった俺たちの習近平さんは、さらに反腐敗運動を推し進め、党内の風紀是正の整風運動として中国経済を担う経営者、事業体にも話が及ぶようになってきました。中国共産党に忠誠を誓っていても、地元軍閥の中国人民解放軍系企業も、羽振り良さそうにしたら平等にぶん殴られる怖れがある、場合によってはなんか罪状をでっち上げられて裁判にかけられ有罪になり、反腐敗に引っかかると財産全部没収されたうえ死刑もある、という意味ではとても中華な感じがします。大変ですね。

「共同富裕」という共産主義らしいテーマが登場

 さらには、この整風、反腐敗の延長線上に「共同富裕」という共産主義らしいテーマが登場。もちろん、中国経済は画期的なぐらいに成長したけど、格差が広がり過ぎてヤバイから脱貧困を掲げるにあたり、これらうまくいった企業や経営者一族からカネをごっそりと引っ張り、貧困に喘ぐ人たちにどしどし再分配するぞという話であります

 もともと中国の貧困問題は、いまのような発展を成し遂げる前の1996年には経済学者の温鉄軍さんが貧しい農村、農業、農民の問題として提起したものなんですが、それこそ鄧小平さんの南巡講話での「先に豊かになれる者から富んでいこう(先富論)」という思想と対になっているものです。その先富論においては貧困対策にも目配せがあり、さすがだなと思うわけですが、そもそも鄧小平さんが失脚した理由は「白い猫でも黒い猫でもネズミを捕る猫が良い猫である(白猫黒猫論)」というプラグマティズム(実益主義)が背景にあって、これらの流れがいまの習近平さん流の経済運営にも大きな影響を与えているのは間違いないんじゃないかと思うんですよね。

 そして、その習近平さんのナショナルアイディアである「共同富裕」路線と軌を一にするように、アリババの馬雲さん行方不明問題とか、いまや米中対立の象徴ともなったファーウェイ華為技術)の孟晩舟さんの問題とか、テンセントその他中国系大企業の異変もまた引き起こしているのでしょう。中国もうまくいったビジネスマンと人生やることなすことすべて駄目な一般国民との間の緊張関係があり、そういうピカピカなビジネスマン共産党員が引きずりおろしてボコボコにするさまを見ると、国民が「ありがとう共産党」となるというエコシステムがあるのかもしれません。

救済の素振りも見せないままドボンさせるというのはビックリなんですよ

 投資家目線で言えば、中国が国内事情で国内経済の引き締めや、政治が経済を野放しにしなくなった影響を、主に中国企業の「市場からの調達」に見ることができます。去年までは、EU中枢であるドイツ最大の投資銀行であるドイツ銀行の筆頭株主に海航集団という企業を送り込み、また、途上国経済の権益確保も目指して「一帯一路」政策を推進しており、いわば海外のルールに則って、中国の旺盛な経済成長力をテコにしながら中国の国威を引き上げていこうという話でした。

「中国全土13億人市場」というだけで凄く暴力的な雰囲気のビッグマーケットなのに、さらにそこで得られる富でドライブをかけた海外投資事業があったら日本はもちろんアメリカも欧州も振り回されるのは当然ですから、さすがに警戒感が強くなるのも仕方がないことです。その中国の経済力の源泉こそ、世界の工場であり、そこから技術(知的財産)の集約地にしようという野心を持つのも当然です。だからこそ、中国が世界の工場であり続けるために「中国製造2025」のようないかにも共産圏チックな5か年計画を打ち出して頑張ってきたわけです。

 ところが、今回のような海外のルールに則り海外で資金調達をし香港で上場しているような恒大集団のデフォルト危機について、おそらくは国内事情もあって救済の素振りも見せないままドボンさせるというのはビックリなんですよ。おい、救わねえのかよ。日本では、木村剛さんが派手にやらかした日本振興銀行だって、ペイオフで預金者は保護したし、東芝にいたっては東証ほか市場改革の動きを止めてまで経済産業省が派手に介入して買収分割を防ぎましたからね。見ようによっては、日本よりも中国のほうが政治がドライに経済の立役者や老舗を原理原則にそって切っていくという点では公正にすら見えます。実際はそんなこともないのかもしれませんが。

「必死だな」と指さして笑いたいところですが

 日本の場合は、そういうバブル後の不良債権問題が出た後は、その処理に対して長い長い時間を必要としました。つい先日、身売り話の出た新生銀行にいたっては、いまだ注入された公的資金を全額は返済できてませんからね。でも、中国の場合は日本のバブル経済とはけた違いの、それこそ経済規模から見れば数倍から十数倍の不良債権問題を抱えているのではないかとささやかれ、シャドウバンキング問題(理財商品なる面白金融商品を通じて高利の金融事業を行うかたわら、焦げ付いた不良債権がそこに固まって存在していること)も含めて、いつ弾けるかとみんなオドオドしておるのです。

 そこに、その理財商品の焦げ付きで利払いができませんという恒大集団が出てきたとき、じゃあほかの企業はどうなのか、あの銀行は大丈夫か、人民元支払いで本当に安全なのかと言われると、それはもう誰にも分らないという話になります。これが日本の規模以上の大バブル崩壊に繋がるものなのか、いや金額だけならリーマンショックで吹き飛び破綻した高リスクのCLO市場と比べれば半分ぐらいの規模だから大丈夫だとなるのか、予想がつきません。

 いままで負けなしの成長を続けてきた中国経済も、見えざる神の手でもある景気循環や経済効率の罠にハマって巨額不良債権処理という難題を目の前に立ち往生をしているようにも見え、「必死だな」と指さして笑いたいところですが、コロナ経済下でいまなお我が国の最大貿易相手国は輸出も輸入も依然として中国であり、アメリカと中国とが対立を深める中で日本がいつまでもアメリカにぶら下がっていて本当に大丈夫なのかというのは議論の分かれるところです。

 

まあ、何というか。民主主義、万歳

 また、9月24日に予定されているQUADというアメリカインドオーストラリアと日本による首脳会談で我らが菅義偉さんが訪米することが決まっています。それこそ戦前の大東亜共栄圏以来の日本が提案した世界的外交方針で、それも2006年の第1次安倍晋三内閣のころから15年以上の月日を使って構築してきたものなのですが、これらの主眼は明らかに対中国ですし、その点からも我が国は安全保障と経済協力の狭間でぶらんぶらんとせざるを得ないことは運命づけられています。

 こんなクソ大事な状況でいま私たちの目の前で起きてることは、河野太郎さんがいいのか岸田文雄さんがいいのかという自民党総裁選レースであって、ぶっちゃけ「ちょうどいい奴はいねえのか」と文句を垂れつつ、馬券を握り締め命運を託している状態であります

 いや、まあ、何というか。民主主義、万歳。

(山本 一郎)

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