(舛添 要一:国際政治学者)

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 9月17日自民党総裁選が告示された。岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務大臣、河野太郎規制改革大臣がすでに立候補しているが、15日には、石破茂元幹事長が不出馬を決め、河野太郎規制改革担当大臣の支援に回ることを公表した。また、野田聖子幹事長代行は、何とか20人の推薦人を確保し、立候補することができた。

候補者より長老の動向に集まる視線

 派閥の動きのほうを見ると、岸田派岸田文雄を推すのは当然だが、細田派は高市と岸田の、麻生派は河野か岸田のいずれか(高市も容認)を、議員の判断で選ぶ、他の派閥は縛りなしの自主投票を選択するということになった。どの候補が勝つのか見極めるのが困難な状況では、これも仕方がないということなのだろう。

 安倍前首相、二階幹事長、麻生副総理、さらには参議院や竹下派に今なお大きな影響力を持つ青木幹雄元官房長官ら長老の動きに注目が集まっている。候補者よりも、長老の動向に注目が集まる総裁選である。

 世論調査では、河野が圧倒的に人気者である。9〜11日に行われた日経新聞世論調査では、「次期総裁に相応しい人」は、河野27%、石破17%、岸田14%、高市7%である。11、12日に行われた朝日新聞世論調査では、河野33%、石破16%、岸田14%、高市8%、野田3%であった。

決選投票に持ち込めれば世論調査で出遅れている岸田にも勝機

 世論的には、河野と石破が合体すれば、過半数近くなるが、それだけでは総裁選の結果決まらない。総裁選の仕組みは、国会議員票が383票、党員・党友票が383票、合計766票で、有効投票数の過半数を獲得する候補がいれば当選である。過半数獲得候補がいない場合は、上位2人の決選投票が行われるが、国会議員票と都道府県連票47票の取り合いで決まる。

 4人も候補がいると、1回目の投票で決着をつけるのは困難である。そこで、決選投票が重要となる。地方票で勝っても、決選投票では勝つとはかぎらない。石破が安倍に負けた2012年9月26日の総裁選がその例である。たとえば、1回目の投票で誰も過半数を獲得できず、河野と岸田の2人の決選投票となった場合、細田派は派閥として岸田に投票することになろう。他の派閥も勝ち馬に乗ろうという決定をするかもしれない。そこで、本当の勝負は決選投票だということになる。

 今回の総裁選では、自民党が直面する様々な問題が浮き彫りになっている。

 その第一は、派閥の機能低下である。中選挙区制の下で確立した派閥の機能とは何だったのか。一つの選挙区から3〜6人を選出する中選挙区制では、定数の数だけ派閥が生まれる。典型的なのは三角大福中、つまり三木派、田中派、大平派、福田派、中曽根派が「切磋琢磨した」(大平正芳の表現)時代である。田中が金銭の不祥事で退陣すると、「クリーン」な三木が首相となり、自民党イメージチェンジによって人気を回復する。擬似政権交代であり、これが自民党の長期政権化に貢献したのである。

派閥の領袖でなくとも、なんなら無派閥でも総裁選に立候補

 派閥の最重要機能は、領袖を総裁、つまり内閣総理大臣にすることである。そのための戦闘集団が派閥であり、「角福戦争」に見られるように、熾烈な戦いをする。戦国時代の軍団と同じである。

 ところが、今回の総裁選では、岸田、石破以外は、派閥の長ではなく、高市、野田は無所属である。菅義偉が無派閥で首相になったのも大きな変化である。

 衆議院選挙に小選挙区制が採用されてからは、1選挙区1候補ということになり、党本部が公認することになった。公認を得られなかった候補者は、それでも公認権を持つ者には刃向かえず、せいぜい非公認の保守系候補として立候補するしかなくなる。二階派は、そのような候補を多く支援し、当選の暁には自派入りさせ、入党もさせ、派閥の規模を拡張してきた。

 派閥間で複数の議席を取り合った中選挙区制では、いずれかの派閥に入ることが立候補する前提であった。派閥のボスが資金の調達をはじめ選挙の支援をおこなう。その結果、親分・子分関係が確立するのである。つまり、派閥はまた、カネとポストの配分単位でもあった。

 しかし、今は政党交付金という制度が導入され、それが党本部から分配される仕組みになっている。無派閥でも資金調達に困ることはない。

 さらに、人事についても、かつては閣僚ポストも派閥単位で配分された。主流派は優遇され、反主流派は冷遇されるが、基本は派閥の規模に比例してポストが配分されたのである。今でも派閥枠というのは残っているが、僅かである。首相が、自分の思い通りに閣僚人事を行う余地が拡大している。無派閥だからといって相手にされないわけではない。そのため、金集めなどの義務を伴う派閥に入らずに、無派閥でいる議員が増えている。

 派閥には、新人の教育という役割もあった。政治家として、国会議員として、どのような勉強をし、どのように振る舞わねばならないかを派閥が教えたのである。ところが、今はその教育機能が低下してしまった。国会議員に相応しくない行動をする若手議員が増えている。

派閥の機能低下で党の政策立案力は低下、総裁選立候補者は独自にブレーン集めて政策

 第二は、党の政策立案能力の低下である。派閥は総裁選びとも関連して、政策の面でもお互いに競争してきた。外交防衛から経済まで、あらゆる分野で、派閥が独自の政策を展開してきた。自民党は、ハト派からタカ派まで多様な政策パッケージを誇ったものである。保守と言いながら、左翼的な政策を打ち出す派閥もあった。

 したがって、党の政務調査会では、毎日、各部会で活発な政策論争が展開された。各省の幹部を呼び、場合によっては大臣まで出席させて政府の政策について糺したのである。また党の部会で政府・自民党の政策の大筋が決まることが多く、テレビをはじめマスコミは部会での議論を詳細に伝えたものである。

 厚労大臣の私が後期高齢者医療制度の改革を断行したときなど、日本医師会や関連業界と連携する厚労族が、部会で私を吊し上げたものである。今はそういう光景は見られないし、マスコミも部会などについて取材すらしない。つまり、政務調査会の地盤沈下は甚だしく、これも自民党劣化の大きな要因となっている。

 官僚にとっては、自民党政調など相手にせずに、首相官邸の意向を忖度していればよいことになった。かつては、自民党の有力議員の許に政策の説明に馳せ参じていたが、今はその必要性も感じなくなっている。その結果、自民党の政策立案能力はますます低下することになる。

「すべて総裁のおっしゃるとおりに」の議員ばかりに

 第三は、自民党内で自由闊達な意見が言えなくなっていることである。それは、派閥の機能低下とも関連するが、安倍(&菅)長期政権がもたらした弊害でもある。安倍首相に反対すれば、自民党にいるかぎり出世は望めない。

 かつては、自民党内で擬似政権交代があったので、今日の反主流派も明日には主流派になる可能性があった。

 ところが、安倍一強が固定してしまったため、たとえばカジノ(IR)に反対することはタブーとなった。とくに若手議員は、自分の将来のことを考えるので、カジノの功罪を考えることもなく、安倍の政策なら条件反射的に賛成してしまう。

 アベノミクスにしてもそうである。かつての自民党には多様な経済政策が存在していたが、無条件にアベノミクスに賛成してしまう。経済の本など読むこともせずに、まさにパブロフの犬のような反応をするのである。

 外交政策やイデオロギーの点でも、安倍首相ショービニズム(排外的な愛国主義)とも言える過剰なナショナリズムが礼賛され、中国や韓国と敵対する対外強硬が主流となる。女性の権利、靖国参拝、天皇制などについても右より姿勢が目立ち、それを是とする議員が、とくに若手の議員では圧倒的多数となる。

 こうして、自民党は多様性を欠いた政党となり、活力を失っていったのである。

 第四は、先の太平洋戦争を知らない世代ばかりになったことである。二階幹事長は現在82歳で、戦争中は幼少時である。かつては、戦争を知っている指導者が自民党内に多数いて、その経験を外交、防衛、憲法改正などの議論に活かしていた。宮沢喜一、中曽根康弘元首相などがそうであるが、中曽根内閣で官房長官を務めた後藤田正晴などはその典型である。宮沢や後藤田は、いわゆるハト派の立場から「対外硬」に反対したのである。

 今は、そのような先人の知恵もなくなり、自民党は多様性に欠ける政党になってしまった。

 今回の総裁選で、自民党がそのような問題点も克服するためのきっかけを掴めるのかどうか、注目したいと思う。

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