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300万円台 新型シビックは高い?

執筆:Kenichi Suzuki(鈴木ケンイチ)
編集:Taro Ueno(上野太朗)

ホンダの新型「シビック」が、2021年9月3日より発売されている。

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英語で「CIVIC(シビック)」を「市民の」というように、シビックは世界市民のベーシックカーとして、1972年の初代から累計約2700万台が販売された。今も年間68万台が売れる大人気車種だ。

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ホンダシビック

今回のモデルは、1972年登場の初代から49年目となる11世代モデルだ。

しかし、新型の11代目シビックで気になるのが価格だ。

今回、日本で発売されるのは、エントリーグレード「LX」で319万円、上位グレード「EX」では3539800円にもなる。

実際に試乗してみれば、ハンドリングは軽快、1.5Lターボのフィーリングも申し分ない。インテリアデザインはシンプルでセンス良く、質感もなかなか。

ベーシックカーではなく、もっと上の格を感じさせるものであった。

クルマ好きであれば、誰もが好印象を抱くはずという出来の良い1台であったのだ。

しかし、冷静になって考えれば300万円台は安くない。

しかも、ターゲットは20代前半のジェネレーションZだという。若者向けには高すぎるのではないだろうか。

さらにアメリカでは、シビックは2万3000ドル程度から発売されている。1ドル=120円で計算すれば276万円だ。

一方、日本のシビック300万円以上。なぜ、そんな価格差があるのだろうか。

アメリカ廉価版シビックが安いワケ

日本向けの新型シビックが、なぜ319万円からという高値になったのか。

そんな疑問を、新型シビックの開発責任者であるホンダ佐藤洋介氏にぶつけてみた。

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新型シビックの開発責任者であるホンダ佐藤洋介氏    鈴木ケンイチ

すると、まず「アメリカには2.0LのNAエンジンを搭載するエントリーグレードがあります」という。

2万ドル前半の手ごろ価格は廉価版であり、日本に導入された1.5Lターボは上位グレードで、アメリカでも2万8300ドル(日本円換算で約340万円)だという。

多少の価格差は「数多く販売されるアメリカと、売れる数の少ない日本」という前提条件を考えれば、仕方ないかなと思えるほど。

しかし、それならば、廉価版を日本に導入すればよいのでは? との疑問も浮かぶ。

「でも、日本で2.0Lエンジンを作っていないため、新たに導入するには別途費用がかかります」と佐藤氏。

今回のシビックは、日本向けは埼玉の寄居工場で、アメリカ市場向けはアメリカで生産される。

そして、日本では、これまでシビック用の2.0L NAエンジンを生産していない。

そのため、11代目用に2.0L NAエンジンを搭載しようとすると、そのための生産設備を用意する必要がある。

つまり、市場規模の小さい日本向けと考えると、新規導入はコスト高すぎるというのだ。

メインターゲットは「若者」

しかし、それでは新型シビックのメインターゲットである、若いジェネレーションZは高すぎて買えないのではないだろうか。

ところが、開発責任者の佐藤氏は、そこがちょっと違うという。

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ホンダシビック

シビックのユーザーの世代は2つのピークがあります。1つは、20代から30代の若者です。もう1つが45歳くらいを頂点としたピークです。こうした2つの世代のピークがあるのは、日本だけでなくアメリカも同じです」

「実際に、今度の新型シビックの予約に関していえば、同じように2つの世代がメインとなっています。まだ、数が少なくて断言できませんが、どちらかといえば、若者世代の方が多いようです」

「ちなみに、予約の割合は、上級のEXが80%、エントリーのLXが20%でした」と佐藤氏。

先代シビックもハッチバックは280万円で、けっして安いクルマではなかった。

それでも若い世代にもしっかりと売れていたのだ。

さらに新型に関していえば、先行予約ということで、新型シビックの登場を待っていた熱心なファンが中心だろう。

それにしても高いグレードが予約の8割を占めており、しかも若い人が多いことに驚く。

「高いから若い人には買えないのでは」というのは一面では正しいだろうが、実際には、若い人もしっかりと新型シビックを買っていたのだ。

価値観合致目指す 残クレも後押し?

「わたしが予想するに、シビックを買っている若い人は先行者が多く、40代はフォロワーが多いと思います」

「ジェネレーションZの人たちは、本質を見抜く力が高く、しかも、瞬時に判断できるのではないでしょうか。ですから、高くても気に入ったものを買います。逆に、気に入らないものは手を出しません。目が肥えていて厳しいんですね」と佐藤氏。

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ホンダシビック

ポイントは、ただの若者ではなく、ジェネレーションZであることだったのだ。

ジェネレーションZは1990年代中盤から2000年代に生まれた世代で、「デジタルネイティブ」とも呼ばれる。1980年代から90年代の「ジェネレーションY」、「ミレニアム世代」の下の世代だ。

そうしたジェネレーションZ世代の価値観に合致する商品であることが、価格よりも重要だったのだろう。

また、価格のハードルを下げる新しい購入法も登場している。

「また、彼らは所有の感覚も違います。トータルで考えるのではなく、日々で考えます。それが残価クレジットを利用する人の増加です。残価クレジットで考えれば、エントリーと上位グレードの差は、わずかなものになりますからね」

たしかに残価クレジットやリースなどを使えば、月々に支払いの差はわずか。上位グレードを選ぶのも当然のことだろう。

そうした傾向は、日本だけでなく北米も同様だという。

シビックこそブランドを牽引する存在

「そんなジェネレーションZは、今が導入期です。今は20代でも、3年後、5年後は30代に入ります」

「また、10代だった人は20代になります。わたし達は、そうしたジェネレーションZの成長する3~5年後も見据えています」

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ホンダシビック    鈴木ケンイチ

クルマの購入層という目線からいえば、ジェネレーションZは、新しく購入者になったばかりの層。つまり、導入期であり、この先が本格期になる。

そして若いということは、これから所得が伸びてゆくことでもある。今は高く感じても、3~5年もすれば手ごろに感じる可能性も大きい。

うまくジェネレーションZに認められれば、新型シビックは、この先は、さらに売れ行きが伸びる可能性があるのだ。これは日本だけでなく北米も同様だ。

ジェネレーションZの購買力が高まればシビックはさらに伸びる可能性がある。

うまくいけば、日本におけるシビックの見方もわかるかもしれないのだ。

ちなみに、先代モデルは4年弱の販売で、約3万5000台の販売であった。正直、昭和のシビックの隆興を知る人間としては、悲しい数字である。

シビックは、8代目と9代目が日本で販売されず、存在感が落ちてしまったかもしれません。しかし、シビックこそは、ホンダブランドを牽引する存在。それが存在しないわけにはいきません」

「そういう意味で、10代目があったからこそ、今の11代目があると考えています」と佐藤氏。

若々しくて元気いっぱいというシビックのイメージは、たしかに昭和のファンが抱いていたホンダのイメージそのものであった。

新世代のシビックによって、現在のホンダがさらに若々しく元気なイメージに変化することに期待したい。


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