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 現在、最強の防御力がある繊維と言えばケブラーがおなじみだ。分子構造が剛直で直鎖状の骨格を持つため、高強度・高耐熱性であり、同じ重さの鋼鉄と比べて5倍の強度を持つ為、防弾チョッキなどにも使用されている。

 だが、ケブラーを越える繊維が微生物から作り出せると言ったらどうだろう?

 新たに開発された「人工筋肉繊維」は小さな「大腸菌」を利用して作られており、ケブラーよりも強いのである。

【画像】 大腸菌に筋肉タンパク質を合成させて新たな繊維を作る実験

 自然界には、高性能でありながら、生分解できる素材を非常に少ないエネルギーでつくる天才たちがいる。

 一例としては、きわめて丈夫なカイコの絹、水中で粘着力を発揮するイガイの足糸、圧縮に強いアワビの真珠層などが挙げられる。

 こうした素材は、石油からつくられる似たような素材よりもずっと優秀だ。

 アメリカセントルイスワシントン大学をはじめとするグループは、大腸菌に「チチンコネクチン)」という筋肉タンパク質を合成させて、新しい繊維をつくってみることにした。

 チチンは筋肉を構成する3大タンパク質の1つで、これまでに知られてきたタンパク質の中でももっとも大きいという特徴がある。

[もっと知りたい!→]生きた大腸菌のDNAに動画に記録し、読み込むことに成功(米研究)

 ゆえにその名称は、ギリシャ神話に登場する巨人タイタンにちなんでつけられたものだ。

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大腸菌から繊維を作り出すプロセス / image credit:Fuzhong Zhang Lab

遺伝子操作した大腸菌が紡ぎ出す最強の繊維

 チチンはそれほど大きなタンパク質なので、普通の大腸菌では手に負えない。そこで遺伝子工学で大腸菌に手が加えられた。

 こうして誕生した大腸菌は、小さなタンパク質の断片をつなぎ合わせて、2メガダルトンの超高分子ポリマーをつくることができる。

 2メガダルトンとは、細菌がつくり出す平均的なタンパク質の50倍もの大きさだ。

 最終的に完成した筋肉タンパク質繊維は、そのポリマーを湿式紡糸法によって紡ぐことで、10ミクロン(人間の髪の毛の10分の1)の太さの繊維に仕上げたものだ。

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大腸菌に筋肉タンパク質であるチチンを合成して誕生した最強の繊維 / image credit:Fuzhong Zhang Lab

ロボット、手術用の縫合糸や組織工学の素材に応用

 出来上がった繊維はきわめて強靭だ。なにせ防弾チョッキに使われるケブラーよりも強いのだ。それだけでなく、機械的エネルギーを熱として放散する性能も優れている。

 もともと研究グループは、ソフトロボットなどに使う筋肉と同様の性能を持つ素材を研究していたのだという。

 だが筋肉タンパク質繊維は、筋肉を構成しているタンパク質とほぼ同じであるために、生体適合性があると考えられる。

 そのためロボットだけでなく、たとえば手術用の縫合糸や組織工学の素材としてピッタリであると期待されている。

 生産コストは安く、大量生産もできるとのこと。研究グループはすでにこの技術の特許を出願済みであるそうだ。

 この研究は『Nature Communications』(21年8月30日付)に掲載された。

References:Synthetic Biology Enables Microbes To Build Muscle Fibers That Are Tougher Than Kevlar / written by hiroching / edited by parumo

 
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大腸菌から防弾チョッキよりも強力な人工筋肉の繊維を作り出すことに成功