ゲーム好きの著名人・文化人にインタビューし、ゲーム遍歴や、ゲームから受けた影響などを聞く連載“あの人のゲームヒストリー”。今回話を聞いたのは、お笑いコンビ・天竺鼠の川原克己。

 独創的で荒唐無稽――。川原の繰り出す笑いは、他の誰とも似ていない。コンビとしては、『キングオブコント』2008年、2009年、2013年ファイナリスト。ピンとしては、ナスの被りものとサングラスが特徴の「なすび」のネタを十八番とし、バラエティ番組で爪痕を残し続ける。

 かまいたち・濱家隆一らNSC同期の芸人から「天才」と評される男なだけに、ゲームの楽しみ方も驚くほど独特であることがインタビューを通して明らかになった。また今回は、自身の“隠し子”だというVTuber・1510円ハゲくんのゲーム配信についても、あわせて語ってもらっている。

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■『ウイニングイレブン』は芸人内でも有数の実力者

――まずは、川原さんのゲーム遍歴から教えてください。最初にゲームをプレイしたのはいつのことだったのでしょう?

川原克己(以下、川原):小学生の頃で、ファミコンから始めました。家が貧乏だったから、カセットをたくさん持ってたわけじゃなかったけど、ベタに『スーパーマリオブラザーズ』や、野球をしてたこともあって『燃えろ!!プロ野球』、『ファミスタ』とかで遊んでましたね。

――なかでも、当時熱中したタイトルは?

川原:『ファミスタ』かなぁ。『ファミスタ』ってチームエディット機能があって、オリジナルチームが作れたんですよ。選手名を決めて、打率をこれくらいにして……みたいな。それに、トータルの能力値が決まっていて、めっちゃ足の速い選手を作ったら、その代わりに足の遅い選手も作らなきゃいけないっていう、細かい数値の割り振りも楽しかった。ただ一つ難点があって、セーブができないんです。だから、ゲーム画面を残したままテレビだけ消して寝るってことをしたんですけど、翌朝、お袋にバレてるんです。「あんた!ゲームついとるやない!」って怒られて、ゲームを消され、また0から作らないといけない……ということがありましたね。

――中学・高校時代も、ゲームをされていましたか?

川原:中学・高校に上がってからもずっとゲームばっかりしていました。中でも好きだったのが、初代『ウイニングイレブン』。このときの僕は、野球、サッカーのゲームと、『マリオカート』がめちゃくちゃ強かったんです。だから、学校の友だちは僕の家で勝負して負けて、「今日こそが勝つ!」って、毎日のように遊びに来てましたね。そのうち「こんな強いやつがいる」という噂が回って、違う学校の人も訪ねて来るようになりました。もちろん、誰であろうとボコボコにしてましたけど(笑)。

――それはすごいですね。その後、お笑い芸人になってからのゲーム事情も聞かせて欲しいです。

川原:大阪にいた若手の頃、(千鳥の)ノブさんの家によく芸人仲間で集まって、鍋を囲みながらウイイレ大会をしていました。遊びの場ではあるんですけど、みんな「俺の方が強い」っていうプライドがあるから、毎回真剣勝負でした。その当時、ノブさんがワンちゃんを飼ってたんです。そのワンちゃん、ノブさんが真面目にプレイしてる時に、ペロペロ舐めるもんだから、ノブさんの顔がびしょ濡れになったんですね。でも、本人は本気で戦ってるし、先輩ですから「汚いですね」とかツッコめない空気になったのをよく覚えてます(笑)。

――川原さん自身、芸人仲間の中では『ウイイレ』は上手なほうだったんですか?

川原:芸人になってからも僕、仲間内では「ゲームが強い」で通ってたんですよ。特に若手の頃は『ウイイレ』ばっかりやってたから、すごく得意でした。ある時、当時『ウイイレ』にハマってた小籔(千豊)さんが「『ウイニングイレブン』強いやつおらんか」と言うから、「一番強いの川原ですわ」って推薦されて、ゲームバーみたいなところに連れていかれて、大画面で初対面の小藪さんと対決することになったんです。「はじめまして。天竺鼠の川原です」と挨拶したんですけど、小藪さんは「もうしゃべらんとやろうや」「ほんまに強いんやろな? 強くなかったら帰りや」みたいなピリピリした空気でしたね。僕、もともと色を見分けることが苦手なんですよ。だから、フランス代表とイタリア代表みたいに、似たようなユニフォームカラーだとパニックになるんですね。にもかかわらず、その時は同系色のユニフォーム同士の対戦することになってしまって……。

――結果はやはり……。

川原:そうですね。負けちゃいました。小藪さんは「大したことないやん。まぁまぁやんけ」と。でも、僕にもゲーマーとしてのプライドがある。そこで「ユニフォーム指定させてください」とお願いしたんです。もちろん小藪さんは、僕が色の識別を苦手としていることなんて知らない。だから「なんやそれ? 変な絡みしてくんな!」って言われたんですけど、引き下がらずに、しっかり判別できるユニフォームを選んで再戦させてもらったら、勝つことができました。そんな経緯があって「ウイイレで川原にユニフォームの色決めさせるな。あいつにユニフォームの色決められたら絶対勝てない」っていう変な噂が流れていましたね(笑)。

■「自分にしかできない楽しみを見つけて極めていく」

――ちなみに『ウイイレ』以外で、若手時代に熱中したタイトルはありますか?

川原:その後しばらくしてから、『グランド・セフト・オート』と『メタルギアソリッド』シリーズにハマりました。

――どちらも、超人気作ですね。ではまず『グランド・セフト・オート』の話から聞かせてください。

川原:『グランド・セフト・オート』は、とろサーモンの村田(秀亮)さんに「知ってるか?」って勧められて試しにやってみたら、むちゃくちゃハマりました。僕は、好きなバイクを盗んで海まで走らせて、砂浜でゆっくりするのが好きなんです。あとは、行ったことのない街を散策して、お気に入りの路地を見つけるっていう楽しみ方もしてました。敵と戦ったり、ミッションをクリアするのは二の次。自分の好きな場所を探しに行って「めっちゃここいいやん」ってところでミッションがあれば、「じゃあミッションしようか」っていうノリでしたね。

――変わった楽しみ方ですね(笑)。一方の『メタルギアソリッド』は、そういった寄り道要素は少なめで、きっちりストーリーを進めていかなければいけません。

川原:『メタルギアソリッド』って、基本的には武器を集めて、隠れながら敵兵を倒していくっていうゲームじゃないですか。でも僕は、ボスキャラ以外、誰も倒すことなくクリアすることを目指してプレイしてたんですよ。それと、PSPの『メタルギアソリッド ピースウォーカー』で初めて敵兵を捕まえられるようになったんですけど、全員「Sランク」の兵士を揃えるまでずっと捕まえ続けたりもしました。やり始めたらとことん、クリアというよりも、“変な制圧”をしたくなるんですよね。

――“変な制圧”というと?

川原:僕、RPGだとクリアしてるのに、レベル99まで上げないと気が済まないたちなんです。『ドラクエ』とかで、めちゃくちゃ強くなってから最初の面に行って、全くダメージ受けずに敵を倒すのって快感じゃないですか?

――わかる気がします。ここまでのお話を踏まえると、川原さんの中で、ゲームをクリアすることはそんなに大きな目的ではないようにお見受けしましたが。

川原:そうなんですよ。それよりは、自分なりのやり方を見つけて追求していくことが好きなんです。『ウイイレ』でもそうでした。勝ち負けはいったん無視して、このロングシュートのこの角度だったら100%入るっていうパターンを見つけて、ひたすら練習したりとか。変にカッコいい言い方すると、「勝ち負けは後から付いてくる」というか。たまたま、追求し出してたら勝ってた……みたいなことがゲームでは多かったかな。

――勝ち負けを度外視した上で自分のやり方を追求するというのは、川原さんの芸へのこだわりに通ずるものがあると感じました。

川原:いや、そうかも。今しゃべっててほんまそうっすね。そりゃ、何かの賞レースに出て、優勝したり、勝ち進んだりするのはうれしいですよ。けど、そこに囚われず、自分にしかできない技みたいなものを追求して……ということは、子どもの頃からゲームでずっとやってたなと、今しゃべってて思いました。周りから言われる「なんなん? そのやり方」「そんなんじゃテレビに出られない」「大会で勝てない」っていう言葉は、僕にとって何も響かない。「どうやったらテレビに出られるか」は、ゲームのクリアと似ていて、正直、あんまり興味がないんですよね。それよりも、本来の遊び方とはちょっと離れているかもしれないけど、一つの枠組みの中で、自分にしかできない楽しみを見つけて極めていくことのほうが、ゲームでもお笑いでも性に合ってるような気がします。

――隠し子の1510円ハゲくんも、一風変わったスタンスでゲームを楽しんでいるのでしょうか?

川原:そうみたいですね。ちょっと前に『PUBG』をよくやってたんですけど、あれって、一緒に戦う仲間がいるじゃないですか? ある時、ハゲ君が運転する車にみんなが乗り込んだことがあったんですね。全員真剣にやってるのに、彼は「みんな戦いなんかやめて海に行こう」と言って、明後日の方向へ車を走らせる。すると、そのまま海にぽちゃんって入っちゃってたんです。それで「みんなで泳ごう!」ってなった時に、仲間に殺されてました(笑)。まぁ、こんなふうに僕と同じでちょっと変わった楽しみ方をしているので、やはり血は争えないといった印象です。

――『PUBG』だと、本来プレイヤーは「ドン勝」とか「何キルしたか」を目標にするはずなのに(笑)。

川原:そこにはあんまり興味がないみたいです。ある時なんかは、バイクの後部座席に座って、誰が運転してくれるのをひたすら待っていたこともありました。

――何が楽しいんですか?(笑)

川原:いや、わからん(笑)。せっかく知らない人とオンラインでやってるから、戦うこと以外も楽しみましょうよ、みたいな感じなんすかね。

1510円ハゲくんのゲームプレイスタイル

――そもそも、1510円ハゲくんはなんでゲーム配信を始めたんでしょうか?

川原:最初は、バーチャルキャストっていうドワンゴさんのシステムを使ってガチガチのVTuberみたいなことをやってたみたいんですよ。視聴者さんからの質問に答えたり、画像でコミュニケーションを取ったりとか。そこから、より楽しい配信にするにはどうしていこうとなったときに、僕と同じで彼もゲームが好きなので、ゲーム配信をしようとなったみたいですよ。

――息子さんの配信について、川原さんはどのように見てますか?

川原:真っ当にゲームクリアやうまいプレイを期待している人にとって、1510円ハゲくんの配信は見ていてしんどくなるかもしれません。たとえば『PUBG』だともう少しで勝てるとなったときに、わざと飛び出して死んだりしてますしね(笑)。とはいえきっと、1510円ハゲくんは、たくさんの人に見てもらおうとは思ってないんじゃないかな。僕のYouTubeやSNS、ライブも同じですけど、よりたくさんの人に笑ってもらいたいとは思わない。みんなが楽しめるものに寄りすぎると、もともと何がしたかったのかわからなくなるわけで。ゲームをクリアする人なんかなんぼでもいるんですよ。上手い人もなんぼでもいるわけですよ。そんな中で、ゲームを使って、自分なりの楽しみを見つけていく。で、その配信をたまたま誰かが見つけて楽しんでくれればいいかな……。と、1510円ハゲくんの配信を見て思ってます。

――最近、配信していた中で印象に残ったゲームは何ですか?

川原:この間、『桃鉄』(『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!』)を初見プレイしてましたね。『桃鉄』って、「カードを使う」っていうコマンドと「カードを捨てる」っていうコマンドがあるじゃないですか。カードがいっぱいになったら捨てる人もいるんでしょうけど、1510円ハゲくんは良いカードを手に入れた直後に捨ててたんです。もしかしたら、裏技が発動するのか試したかったんじゃないかな。ゲームでもなんでも、まずは自分で確かめたいって考えがある気がします、ハゲくんには。

――『桃鉄』は普通ゴールを目指すゲームだと思うのですが……。

川原:ゴールはほんとにたまたま。あまり目指さず、着けばラッキーみたいな感覚なんじゃないかな。

――先日はマヂカルラブリーの野田クリスタルさんが作った「野田ゲー」にも挑戦してましたよね。

川原:「野田ゲー」は、ファミコン時代を思い出させますね。あの頃のゲームって粗が多くて、ツッコミどころだらけだったじゃないですか。逆に今のゲームは、映画さながらのCGで、仕様も完璧。だからこそ、1510円ハゲくんには「野田ゲー」みたいな馬鹿げたゲームを「なんでこうなんねん!」ってツッコみながら、楽しんでもらいたいですね。

――最後に、1510円ハゲくんの視聴者さん、これから見るかもしれない方へにメッセージをお願いします。

川原:どうやったらみんなが楽しんでくれるかということを、1510円ハゲくんは1ミリも考えていないはずです。「楽しみにしといてください」とはいえないです。「1510円ハゲくんが楽しんでます」としか言えません(笑)。

(文・取材=こじへい)

天竺鼠・川原克己