今以上に地球が気候変動に晒されたら、農作物の安定した供給は難しくなるだろう。事実、今年は夏場の天候不順で、野菜の値段が高騰している。
この問題を解決するために、イタリアではあるプロジェクトが発足した。「ニモのガーデン(Nemo’s Garden)」は、海底にドーム状の温室を設置して、そこで野菜や果物を育てている。
ドーム内で海水が蒸発させ、内部の表面で真水に変えることで、海でレタスやトマトが収穫できるのだ。
2012年、ダイビング用品会社の創業者セルジオ・ガンベリーニは、海とガーデニングという彼のふたつの情熱をうまく融合させられる方法を模索していた。そして設立したのが「ニモのガーデン(Nemo’s Garden)」で、イタリア北西部ノーリ沖に世界初の水中農園を作ったのだ。
実験的バイオスフィア(生物圏)としてバジルが栽培されたのを皮切りに、現在はトマト、イチゴ、バジル、花に至るまで100種類以上の植物が、イタリア沖の地中海の海底6メートルのところで育っている。
Nemos's Garden 2021
海の中で野菜や果物が育つ、水中農園の仕組み
海の底でどのような仕組みで農作物が育てられているのだろうか?
空気を充満させた6つのプラスチックポッドを海底に設置、風船のような形をしたこのポッドには、およそ2000リットルの空気を入れることができる。
ダイバーが中に入るときは、体半分が水中、半分はポッド内の空気中という状態になる。各ポッドには、気温、CO2、湿度、酸素などの量を示すセンサーがとりつけられている。
「ニモのガーデン」の中心は、まさに生命の木で、進化、革新や技術進歩に向けての奮闘が象徴され、未来への勢いが暗示されている。
設置された場所は、ケーブルを隠したり、ウェブカムであたりをモニターするのにも便利で、ダイバーは、海岸にあるコントロールタワーと交信することもできる。
植物のほとんどは水耕栽培されている。栄養豊富な溶液が与えられているので、土は必要ない。
ポリマーフィルムでできたドームを通して太陽光が届き、圧力をかけると、より早く発芽させることができる。試験では、加圧環境の結果、精油の濃度が高くなった以外は、地上での栽培とほとんど変わりはなかったという。
化粧品や医療品業界も注目
初期の収穫からは、パスタソースやサラダができたが、「ニモのガーデン」は、化粧品や医療品業界からも関心が寄せられている。
水中では、植物の健康に影響を与える要因をよりコントロールできるため、地上の過酷な環境では栽培が難しい植物にとくに有効だ。
「ニモのガーデン」では、これらポッドを水中温室のネットワークというだけでなく、世界初の研究室として、研究やエコツーリズムのチャンスに適したものと考えている。
2019年、「ニモのガーデン」は、ジェノバ工科大学と共同して、バイオスフィア内の熱力学の研究を始めた。
現在、この型破りなモデルが工業的な単一栽培ベースの農業の代替として、どのように採用されるか、特別に関心を寄せている。
NEMO'S GARDEN 2020 - UNDERWATER TOUR
海水を真水に変える技術が地球を救う未来
このシステムは、バイオスフィア内の海水が蒸発して、内部の表面で凝縮して真水を作り出すという完全自給自足型だ。
世界の真水使用量の70%を農業が占めていて、気候変動によって食糧の未来が脅かされていることを考えると、これは彼らの持続可能なミッションにとって、非常に重要なことだ。
さらに、「ニモのガーデン」は、まだ一般的に使われていて、環境破壊を引き起こす可能性のある農薬を使う必要がない。
2016年以降は、冬の寒さや嵐をものともせず、一年を通して栽培し続けられる方法を編み出してい
る。ただし、2018年に地中海を襲った最大級の嵐、熱帯性サイクロンがきたときは、植物や技術がダメになってしまったようで、更なる改善が進められている。
「ニモのガーデン」は、特に、経済的、環境的、形態的な条件が農業の課題となっている地域を対象に研究が進められている。
魚や海藻の養殖、野生動物のモニタリングなど、「ニモのガーデン」がもつ将来的な可能性が期待されている。
同社のプロジェクト・コーディネーター、ジアニーニ・フォンタネージは、毎年、バイオスフィアの新たな可能性を見いだしていると語る。
References:Nemo's Garden / The World’s First Underwater Veggie Garden is Growing Lettuce, Tomatoes & More. Because, Waterworld / written by konohazuku / edited by parumo
コメント