国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」で構築された世界最大規模の詳細なシミュレーション宇宙が、クラウド上に公開された。
1辺が96億光年の広がりを持つその宇宙は、2兆1000億個の粒子で構成されるきわめて詳細なシミュレーションだが、100テラバイト程度に圧縮され、無料ダウンロード可能となっており、誰でも簡単に扱うことができる。
宇宙の大規模構造や銀河の形成プロセスなどを解明する基礎データとして、今後の研究に広く役立てられることが期待されるとのことだ。
宇宙は見える物質よりも、見えない物質の方が圧倒的に多い。光によっては観察できない「ダークマター」の量は、直接目で観察することができる「バリオン」と呼ばれる物質の5~6倍であると考えられている。
宇宙の大部分を占めるダークマターは重力のみが作用し、宇宙の構造形成や進化に大きな役割を果たしている。
たとえばダークマターは自身の重量によって「ハロー」という巨大な塊のような構造を形成する。するとそのハローの重力によってバリオンが集められて収縮。やがて星々や銀河、あるいは銀河団などが誕生する。
[もっと知りたい!→]ダークマター検出に朗報。地球に吹きすさぶ星々の嵐がダークマターの観測を可能とするかも!?(スペイン研究)
またハローの合体を通じて銀河も合体すると、その内部にあったバリオンのガスが銀河中心のブラックホールに供給される。するとブラックホールが成長し、活動銀河核として光り輝くようになる。
世界最大規模の”模擬宇宙”を公開 ~ 宇宙の大規模構造と銀河形成の解明に向けて ~
大規模構造の形成プロセスの謎
ハロー内部で銀河や活動銀河核がどのように誕生し、宇宙の大規模構造を形作っていったのか?その詳しいプロセスは、今のところ大きな謎に包まれている。
その解明には、望遠鏡による天体観測だけでは足りず、銀河や活動銀河核の模擬カタログが必要になる。
千葉大学の石山智明准教授を中心とする国際グループが、クラウド上に公開したダークマター構造形成シミュレーション「Uchuu」はそのためのものだ。
国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」の演算性能をフルに発揮して構築されたUchuuは、一辺96億光年にわたる宇宙空間を詳細に再現している。
2018年6月より本格稼働を始めた天文学専用のスーパーコンピュータ、アテルイII / image credit:国立天文台(NAOJ)
その空間は2兆1000億個の粒子で満たされており、小さな矮小銀河から巨大な大銀河団まで、その構造形成や進化のプロセスを観察することができる。
これまでの構造形成シミュレーションは、空間的な広さか、詳細さのいずれかしか再現できていなかったが、Uchuuはその両方を兼ね備え、従来の限界を一気に突破した。
シミュレーションによる現在の宇宙でのダークマター分布。明るい色の部分ほどダークマターが多く集まっている。図中の囲みはこのシミュレーションで形成した一番大きい銀河団サイズのハローを中心とする領域を順々に拡大しており、最後の図は一辺約 0.5 億光年に相当する / image credit:千葉大学 石山智明
模擬宇宙をダウンロードしよう!
Uchuu自体は、およそ4万個のCPUコアを走らせて作られた、3ペタバイト(= 3000テラバイト = 300万ギガバイト)の膨大なシミュレーションデータだ。
しかし研究グループはその大幅な圧縮に成功しており、公開されたものは100テラバイト程度。大きなデータかもしれないが、それでも1台の大容量ストレージに収まる大きさだ。
また、こちらのクラウドにアクセスすれば誰でも利用することができる(英文)。
模擬宇宙のデータは、すばる望遠鏡をはじめとする世界各国の大規模天体サーベイ観測データとあわせて、宇宙の大規模構造や銀河形成の謎の解明に役立てられることが期待されるとのことだ。
この研究は『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』(21年6月22日付)に掲載された。
References:千葉大学 / written by hiroching / edited by parumo
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