(羽田真代:在韓ビジネスライター

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 韓国の窃盗団が2012年に日本から盗んだ「高麗金銅観世音菩薩坐像」。「日本には韓国から略奪した文化財が多いから、それを盗んで韓国で売ろう」と企てた身勝手な窃盗団によって、関係が良好でなかった日韓関係がさらに冷え込んだことを覚えている向きも多いのではないか。

 2012年といえば、8月に当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が韓国の歴代大統領で初めて竹島に上陸した年である。その他にも慰安婦問題日韓軍事情報包括保護協定GSOMIA)締結延期など、当時の日韓間にはあまり良いニュースがなかった。

 そのような時代背景も相まってか、対馬の観音寺が所有する仏像が韓国人によって盗まれたことが判明すると、日本からは「仏像を返せ」と韓国を批判する声が高まった。仏像が盗まれて9年が経過した今でも、その声は鳴り止むことがない。

 窃盗団のメンバーは50代から70代の男性4人で、彼らの前科は合わせると56犯にもなるという。最年長の主犯者は民家や商店への空き巣を常習的に繰り返し、その弟は文化財・古美術品を中心に窃盗を繰り返したことで、どちらも複数回の服役経験を持っている。

 窃盗当時、韓国窃盗団は対馬にある海神神社から「銅造如来立像」を、観音寺から「高麗金銅観世音菩薩坐像」を盗んだ。「銅造如来立像」は韓国内で所有権を主張する者がいなかったために返還されたが、「高麗金銅観世音菩薩坐像」については2013年2月に韓国の浮石寺(プソクサ)が「倭寇の略奪で日本に渡ったはずだ」と主張、韓国政府が仏像を日本へ返還しないように仮処分を求めたた。そのため、この仏像だけがいまだに日本に返還されずにいる。

 余談ではあるが、浮石寺による所有権の主張は2013年が初めてではなく1988年にもされており、この時は浮石寺が観音寺に対し仏像の返還を要求、観音寺側がこれを断っている。

仏像窃盗裁判の過程で露見した「反日無罪」

 仏像を盗んだ窃盗団には2013年6月に懲役3ー4年の実刑判決が言い渡された。彼らとは別に、盗んだ仏像を韓国内に搬入する過程で犯行に関わったとする別の3人にも懲役1年ー1年6カ月(執行猶予2ー3年)が言い渡されている。

 裁判を進める過程で、窃盗団側は「日本が略奪して持ち帰った文化財を取り戻してきたのだから我々は愛国者だ」と主張。主犯格の男は裁判で、「我々の行いを国民に判断してもらいたい」と、刑事事件の裁判に国民が参加する国民参与裁判を請求した。最終的に、窃盗団の要望は通らなかったが「反日無罪」という考え方が韓国社会の倫理観を麻痺させていることが如実に表れた裁判となった。

 反日無罪というご都合主義な解釈は、仏像問題の他にも慰安婦や徴用工など様々な問題にまで影響を与えている。

「浮石寺への返還請求」裁判は2016年4月に韓国内で始まっており、裁判所2017年1月の第1審で仏像は浮石寺所有であることを認めた。

 韓国政府の代理である検察は、窃盗犯がこの仏像を釜山港で通関させた時に贋作であるという初見を提出した鑑定委員を2021年7月に開かれた裁判で証人として申請した。

 また、検察も問題となっている仏像は贋作であり、「浮石寺が主張する所有物ではない」と主張し続けていた。しかし、9月15日に浮石寺が韓国政府を相手取って起こした有体動産の引き渡し控訴審で主張を一転、「高麗金銅観世音菩薩坐像」の真偽についてこれ以上争わないことを明かした。

 これは、韓国文化財庁が「1330年に浮石寺で製作された仏像である」という鑑定結果を公表したことが背景にある。文化財庁の公表によって、検察が仏像の釜山入港時に“贋作”だと所見を述べた鑑定委員を証人として呼び、「仏像は偽物だ」と主張し続けることが困難となったからだ。

 裁判の進行に関して、検察は「昨年末に明確な所有権を主張するため、日本の観音寺が韓国での裁判に参加すると言っていたのだから、観音寺側が参加するまで裁判を延ばすべきだ」と主張する一方、浮石寺側の弁護人は「観音寺の参加意思がはっきりしていないのだから、裁判を進行して結論を出すべきだ」と双方意見が食い違った。

 昨年末の時点で、観音寺側は裁判の参加に応じる意向を示していたが、今回開かれた控訴審に出廷しなかった。次回裁判は11月24日午後3時に開かれる予定だが、コロナ禍で訪韓することは容易ではない。

 裁判所は「次の公判までに観音寺の参加意思がはっきりしなければ裁判を終結する」と決定した。そのため、11月に開かれる裁判で日本側に有利な判決は下されないだろう。この裁判で決着がつけば、韓国内での仏像問題は一段落つきそうだ。

韓国に文化財を貸しても返してもらえないリスク

 しかし、仏像を日本に返却しなければ、韓国は世界から益々孤立する一途を辿るだろう。韓国側が政府ぐるみで日本に対して仏像の返還を拒否しているため、日本の博物館や寺院などは韓国に対し美術品の貸し出しを拒否するといった事案が発生している。

レンタル後、安全に返してもらえる根拠を示してほしい」という日本側の要求に対し、韓国政府が「返却責任は持てない」と返答したからだ。

 これは日本だけでなく韓国文化財を所蔵しているフランスイギリスアメリカらの博物館美術館も同様で、「遺物が韓国に渡れば差し押さえられかねない」と懸念し、実際に韓国側が予定していた展示会に貸し出しを要求していた遺物が提供されなかったことがある。

 韓国政府は世界各国と文化交流ができなくても良いのだろうか。

 この9月から10月にかけて、「戻って来た、戻ってこなければならない文化遺産写真展」が忠清南道(チュンチョンナムド)で開催されており、ここには日本東京国立博物館、大英博物館、米セルクロ博物館などにある韓国国外に搬出されたとされる忠清南道文化財及び返還文化財を各遺産の価値と共に写真で展示・紹介されている。

 これには「高麗金銅観世音菩薩坐像」も含まれているのだが、盗んだものを返さずにそれを自国のものだと主張するやり口は、竹島問題と非常に似通っている。

 そもそも、仏像には「高麗国瑞州」と記録されているが、李氏朝鮮1392~1910年)は太宗による1407年の仏教弾圧の際に、高麗時代にあった1万もの寺は36寺院だけを残してすべて廃寺にした。存続を許された88寺院の中に浮石寺の名前はなく、世宗による1424年の仏教弾圧の際も存続を許された36寺院の中にも浮石寺の名はなかった。このことから、高麗金銅観世音菩薩坐像の所有権を主張する浮石寺は、少なくとも15世紀初頭は廃寺であったと考えられる。

 ところが、寺はもちろん韓国の裁判所までもが「仏像は倭寇や朝鮮征伐の豊臣軍が略奪したもの」として疑わない。韓国内ではこの他にも慰安婦問題や徴用工問題など日本にまつわる裁判が進行中であるが、これら問題は韓国側の反日無罪というご都合主義な解釈によって日本が振り回されるだけの格好となっている。

先進国入りしたのに法治国家にほど遠い韓国

 2017年頃には韓国内で「仏像を日本に返却すべきだ」と訴えるデモが一部市民団体により開かれていたが、その声もいつの間にか消え去ってしまった。

 韓国の裁判所は「法の下で平等に裁く」という本来あるべき姿を遺却し、感情論で裁くことがしばしばある。特に日本が関連する裁判ではそれが顕著だ。国連貿易開発会議(UNCTAD)で先進国グループ入りした韓国民らは、法治国家とはほど遠い自国のその姿を恥ずかしいと思わないのだろうか。

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韓国が実効支配している竹島。2012年には当時の李明博大統領が上陸した(写真:The Blue House/ロイター/アフロ)