瞬間アクションゲーム『メイド イン ワリオ』シリーズの最新作、『おすそわける メイド イン ワリオ』が2021年9月10日Nintendo Switch用ゲームソフトとして発売された。

 2018年発売の『メイド イン ワリオ ゴージャス』(ニンテンドー3DS)から3年ぶりの新作で、今回はタイトルにもある“おすそわけ”、Joy-conのおすそ分けによる2人協力プレイをセールスポイントとしている。

【画像】先見性があった、ワリオの元祖主演作『ワリオランド』

 “協力プレイ”以外に、ワリオを始めとするキャラクターたちを操作し、「プチゲーム」を攻略するモードも。過去のシリーズは次々と現れる「プチゲーム」のお題に応じ、ボタンなどを瞬間的に操作する形式だった。

 今回はキャラクターを動かしながらお題に挑む、横スクロールアクションゲーム感覚の作りに一新。キャラクターそれぞれにも固有のアクションを始め、様々な個性付けがはかられており、同じプチゲームでもキャラクターを変えると攻略方法、難易度まで一変するという、“一粒で二度美味しい”体験が楽しめるようになっている。キャラクターの数も十数人以上と多く、それぞれの個性付けも多彩な点から、どこか横スクロールアクションゲームの歴史と集大成を感じさせられるのも面白いところだ。

 このようなキャラクターを直接動かすスタイルを体験するという点で思い起こされるのが、ワリオの元祖主演作『ワリオランド』シリーズだ。思えば、ワリオを直接動かすことに特化したシリーズ作は随分久しぶりである。それもあって、今回の『メイド イン ワリオ』は、『ワリオランド』シリーズのプレイスタイルを取り入れた新作とも表せる内容になっている。

 元々、『メイド イン ワリオ』は、『ワリオランド』シリーズからの派生で誕生した作品だった。それが今回、元祖主演作の要素を採用するにいたった。とても感慨深いと思うと同時に、いまやワリオランドの新作が出なくなってしまった状況へのわびしさも募る。

 気が付けば、ワリオの代名詞は『メイド イン ワリオ』になった。

 かつての『ワリオランド』シリーズはもう、10年以上新作が出ていないのである。

・悪役から主人公に。ワリオ誕生の軌跡と主演作の”イレギュラーな”特徴

 『ワリオランド』シリーズは、1994年発売のゲームボーイ用ゲームソフト『スーパーマリオランド3 ワリオランド』から始まった。

 ワリオ本人はその前作、1992年発売のゲームボーイ用ゲームソフト『スーパーマリオランド2 6つの金貨』にてデビューした。当時のポジションは悪役兼ラスボスクッパタタンガ(『スーパーマリオランド』)、マムー(『スーパーマリオUSA』)に次ぐ、マリオの新たなライバルという位置付けだった。

 「悪いマリオ」という分かりやすいネーミング、どこか愛嬌を秘めた容姿、そして『スーパーマリオランド2』のテレビコマーシャルにおける「俺だよ、ワリオだよ!」という鮮烈な決め台詞で強烈な印象を与えたワリオ

 その出番は『スーパーマリオランド2』で終わりとならず、翌1993年スーパーファミコンで発売された『マリオとワリオ』でも悪役として再登場。マリオたちにバケツを被せ、パニックに陥れるというイタズラの限りを尽くした。

 そして、1994年には『スーパーマリオランド』シリーズを乗っ取り、自らが主人公に。クッパのような悪役街道を走ると思われたワリオは、マリオシリーズの新たなヒーローとしての道を進み始めたのである。

 一応、その後発売された『ワリオの森』では再び悪役に返り咲いているが、以降は『ワリオランド』シリーズの主演、マリオカートといった、派生マリオシリーズプレイヤーキャラクターとしての登場が中心に。また、2004年にニンテンドーDSで発売された『スーパーマリオ64 DS』では、『スーパーマリオランド2』当時とは180度異なる立場でマリオと共演。『大乱闘スマッシュブラザーズ』ことスマブラシリーズにも、2008年の『大乱闘スマッシュブラザーズX』以降、ファイターのひとりとして参戦している。

 そんなワリオ主演の『ワリオランド』シリーズはバーチャルボーイゲームボーイゲームボーイアドバンスといった携帯機を中心に展開。2004年発売のシリーズの流れを汲む新作『ワリオワールド』では初めて据え置き機に進出し、その後にもWiiで2008年に正統な続編である『ワリオランドシェイク』が発売されている。

 この『ワリオランドシェイク』が2021年現在、最後に出たワリオランドとなっている。

 『ワリオランド』の特徴と魅力は、パワフルで豪快なアクション。ショルダータックル、地響きを起こすヒップドロップ、どんな敵も軽々持ち上げてしまう怪力など、ワリオの体格的な特徴を活かしたアクションが楽しめるようになっている。後期のシリーズになると、敵の攻撃を受けての体質変化、ダッシュタックルジャイアントスイングスクリューパイルドライバー、さらには散らばったコインを口に吸い込むといった人間離れした技も使うようになり、マリオとの著しい差別化が図られている。

 自由奔放な作風もシリーズの持つ魅力のひとつだ。世界観やデザイン、キャラクターの方向性などがほぼ固められているマリオとは対照的に、現代的な街中が舞台になったり、ゾンビが出てきたり、日本語ボーカル付きの音楽が流れたりなど、いい意味でやりたい放題な作りになっている。前述のワリオの人間離れしたアクションの数々もその一端。特にシリーズ第4作『ワリオランドアドバンス ヨーキのお宝』からは、これらの醸し出す“シュールさ”が際立って描かれるようになり、それが現在の『メイド イン ワリオ』シリーズの誕生になっている。

 ゲーム部分でも自由ゆえの様々な挑戦をしており、とりわけ『ワリオランド2 盗まれた財宝』と『ワリオランド3 不思議なオルゴール』の2作にて採用された「不死身システム」(ワリオが敵や罠に接触しても絶対にやられないシステム)は最たる象徴だ。そのシステムを活かし、ワリオの体質や容姿を変えて特殊なアクションを可能にする「リアクション」、隠されたお宝の発見と集めたコインの数によって変化するエンディング、それに関連付いた濃厚な探索要素なども挑戦的な事柄として挙げられる。ゲームというよりは映像的な挑戦になるが、『ワリオランドシェイク』の全編手描きアニメーションで表現されたグラフィックも見過ごせない。

 いうなれば、ワリオランドというのはマリオには決して真似できず、アクションゲームとしてもイレギュラーなことに挑み続けたシリーズ。それが最大の特徴であり、唯一無二の魅力だった。そして、そういったイレギュラーであり続けたことが『メイド イン ワリオ』という現在のワリオを象徴する主演作を生み出し、独自の地位を築く礎になった。

 その意味でも『ワリオランド』シリーズが残した功績というものは非常に大きい。

 しかも、それだけではない。いま、改めて『ワリオランド』シリーズを振り返ってみると、様々な部分で時代を先取りし、マリオに勝る挑戦に取り組んでいたアクションゲームだったことに気付かされるのだ。

イレギュラーな特徴はスタンダードとなり、ついにはマリオにもその波が

 最も象徴的なのは残機(残り人数)制。敵に接触するなりしてミスすると1つ減って、全部無くなってしまうとゲームオーバーになるという、横スクロールアクション、シューティングなどで定番のシステムだ。

 『ワリオランド』は初期の作品では導入していたものの、『ワリオランド2 盗まれた財宝』にて撤廃。前述の「不死身システム」を導入し、プレイヤーキャラクターが絶対にやられないようにするどころか、ゲームオーバーの概念まで消し去った。この「不死身システム」は『ワリオランドアドバス ヨーキのお宝』からは撤廃され、ダメージ形式に改められるのだが、残機制は以降も復活することはなく、基本的には何度でもやられても繰り返し再挑戦可能な作りにしている。

 当時は異端だったこのシステム。ところがいまやどうだろう。多くのアクションゲームは残機制を採用しないようになり、採用する方が異端という真逆の立ち位置に追いやられてしまった。

 ワリオがライバルとするマリオも、2017年発売の『スーパーマリオ オデッセイ』にて残機制を廃止。ミスすると、集めたコインが減ってしまうシステムに改められた。

 元々、マリオシリーズは残機制の形骸化が指摘されていた。その背景は幅広いプレイヤーを対象にしたゲームデザインの厳守に起因するもので、近年のシリーズでは比較的早い段階で残機の数が3桁に到達してしまうほどだった。ここまで軟化させては、もはや何のための存在か怪しくなってくる。その末に辿り着いたのが『スーパーマリオ オデッセイ』での廃止である。

 結局、イレギュラーワリオのやり方をマリオが受け入れる形になった訳だ。

 この現在のアクションゲームのトレンド、マリオの現状を見ると、改めて『ワリオランド』シリーズの先見性を認識させられる。残機制の廃止だけではない。濃厚な探索要素の採用、シュールな世界観、視点操作を最小限に留めて酔いの懸念を取り除いたカメラワーク、フルアニメーションによるグラフィック表現、ボーカル楽曲の導入など、シリーズでは多くのイレギュラーな挑戦を行っている。そして、その多くが後年のアクションゲームで定番化したり、マリオにおいては逆輸入される事態を起こしている。

 とりわけ『スーパーマリオ オデッセイ』は、残機制以外にもワリオが先行していた要素が見受けられる。シュールな世界観、ボーカル楽曲の採用がそれだ。また、2004年発売の『ワリオワールド』は、横スクロールアクションゲーム感覚で遊べる3Dアクションという意欲的な作品で、いわゆる乗り物酔いに近い不快感を催す「3D酔い」の心配もなく遊べる快適さが光る作品だった。

 この横スクロールアクションの感覚で遊べる3Dアクションも、マリオは『スーパーマリオ3Dランド』、『スーパーマリオ3Dワールド』の2作でワリオに遅れる形で挑んでいる。ゲームデザインこそ真逆の作品ではあるものの、何年も前にワリオがやったことにマリオが追い付く構図には、かつて2人が『スーパーマリオランド2』や『マリオとワリオ』で敵対した関係を思うと面白いものがある。

 裏を返せば、当時としては先取りしすぎていたため、マリオほど広く人気を獲得できなかったのがワリオらしくもあるが。また、ニンテンドーDSの『怪盗ワリオ・ザ・セブン』のボタンタッチペンによる操作スタイルのように、後年に活かされることもなければ、評価も低調に終わった挑戦もある。

 しかし、年月が経つにつれ、実はワリオマリオに勝ることをやっていた、現代のアクションゲームの枠組みを先取りしていたと分かってくるのは非常に面白く、アクションゲームの歴史における資料的な価値の高さというものを実感させられる。

 たしかに当時は異端、ワリオ本人も元は悪役だけあって、やることなすこと全てがイレギュラーだったし、マリオに反目し続けていた。それがいまやスタンダードになるどころか、マリオにも取り入れられるようになっている。その事実を思うと、本当に『ワリオランド』シリーズが残した功績は大きく、いまこそ再評価される意義のあるゲームではないのかと思うのである。

・誕生20年を控えた今こそ期待したい、ワイルドなヒーロー・ワリオの復活

 だが、現在のワリオシリーズの本流は『メイド イン ワリオ』になってしまっている。ただ、『メイド イン ワリオ』もマリオには真似できないイレギュラーな魅力満載の作品で、主に代名詞たる「プチゲーム」にそれが色濃く表れている。絵の素人が描いたとしか思えないグラフィックの採用、任天堂の社員と思しき人物を実写で登場させてしまうといった所がその象徴だ。

 近年も『おすそわける メイド イン ワリオ』の前作、『メイド イン ワリオ ゴージャス』でのワリオシリーズどころか、マリオシリーズとしても異例極まりない日本語フルボイスの採用は大きな注目を集めた。数あるマリオシリーズの中で、ゲーム本編にて日本語による喋りを披露したメインキャラクターは今においてもワリオただひとりだ。『ワリオランド』シリーズの展開は止まってしまったとはいうものの、それでもワリオは常にマリオに反目する挑戦を続けている。独自の立ち存在感と魅力を放ち続けているのだ。

 とはいえ、ワリオランドの展開がないままも寂しい限りではある。パワフルで豪快なアクション、挑戦的なゲームシステムの数々もさることながら、『ワリオランド』シリーズはワリオというキャラクターに秘められた“ワイルドなカッコよさ”を味わえる作品でもあったのだ。基本的にお金やお宝を集めるという欲望に忠実な行動を取るワリオだが、それがいつの間にか世界を救うことに繋がったり、ときには囚われの姫君を呪いから解放する結果にいたったりもする。

 しかし、仮にそんな結果を迎えようともワリオは己の欲望第一であるから、ヒーロー気取りはしないし、そのために行動することもない。そんな我を通し、目的ただひとつを純粋に貫き通す姿勢はさすがのマリオも真似しきれないものだし、ほかのヨッシールイージといった主演を飾ったマリオシリーズのキャラクターにもない唯一無二の魅力だ。

 そんなワイルドで、カッコいいワリオを見られる機会が減ってしまったのは惜しまれる。気が付けば、2022年でワリオは生誕20年を迎える。これをきっかけに久しぶりに『ワリオランド』シリーズの新作、あるいは過去のシリーズを現行のNintendo Switchで遊べるようにしたコレクションタイトルや、オリジナル単品の復刻が行われる展開に期待を寄せたい。それまでは『ワリオランド』シリーズの要素を取り入れた、今回の『おすそわける メイドインワリオ』を楽しみたいところだ。

 そして、もし本当に新作が作られるなら、過去のシリーズと変わらず、マリオには真似できないイレギュラーな挑戦満載のアクションゲームになることを期待したい。これからもマリオに反目し続けるワリオ様であらんことを。(シェループ)

ワリオの代名詞『メイド イン ワリオ』