自民党総裁選2021年9月29日投開票)に立候補している高市早苗前総務相が9月20日、台湾の蔡英文総統とオンラインで会談した。蔡氏は、自らが率いる与党の民主進歩党民進党)の主席(代表)として会談に臨んだ。民進党の発表によると、会談は約30分間にわたって行われ、新型コロナをめぐる協力への感謝の言葉が交わされたほか、「地域の安全保障、経済状況、産業のサプライチェーンなどについて意見交換」が行われた。

高市氏は、中国が台湾に対して軍事行動を起こしたり、それをめぐって米中が衝突したりする、いわゆる「台湾有事」の可能性に備えるべきだとする立場。中国メディアは高市氏について「中国に対する中傷を何度も行ってきた」などと非難してきた。ただ、今回の報道は、台湾のネットユーザーが「教訓が生かされていない」と蔡氏の対応を疑問視していることを紹介する内容で、直接の非難は避けた。20年の米大統領選では、台湾の人々がトランプ大統領を支持する傾向が強く、バイデン氏当選で軌道修正を迫られた。当時の経緯と関連させる形で、対中強硬色が強い高市氏と台湾が接近することを警戒するとも取れる内容だ。

TPP加盟申請が中国に出遅れたことも意識?

高市氏の陣営で選対本部長を務める古屋圭司元国家公安委員長ツイートによると、会談は「一か月以上前から私に相談があった」ことで実現。古屋氏は、日台の関係強化を目指す超党派議連「日華議員懇談会」(日華懇)の会長を務めている。

高市氏の陣営は9月21日午前、会談のダイジェスト動画を公開。それによると、蔡氏は

「台湾は先進的な経済体であり、ハイテク産業のサプライチェーンにおいても重要な役割を担っている。また、民主的なガバナンスに基づいて形成された、透明性の高い市場メカニズムを有している。台湾は、環太平洋経済連携協定(TPP)のように高い水準にある多国間の貿易協定に加盟するための十分な能力を持っている」

として、台湾がTPPをはじめとする様々な自由貿易協定に加入できるように日本側の後押しを求めた。約7分間にわたる動画では「中国」や「大陸」という単語は1回も登場しないが、中国が9月16日TPPへの加盟を申請したことを念頭に置いているとみられる。台湾メディアは、台湾のTPP加盟申請に向けた動きが進んでいないとして、当局に対する批判を強めている。

高市氏は

「日本は参加を支持しそれに向けてできる限りの支援をしたいと思っている」

と応じ、世界保健機関WHO)の最高意思決定機関にあたる世界保健総会(WHA)、国際民間航空機関(ICAO)、国際刑事警察機構ICPO)などの国際機関を挙げながら、

「国際舞台・国際社会における台湾の活躍を推奨し続けていくつもりだ」

とした。

高市氏は衆院第1議員会館にあるオフィスから会談に臨み、背景には日の丸と台湾の旗「青天白日満地紅旗」を並べた。

「蔡英文氏の動きが『賭け』ではないかと疑問の声が上がった」

高市氏をめぐっては、中国共産党系の環球時報が9月6日付けの記事で、仮に首相に就任したとしても靖国神社参拝を続ける意向を表明したことについて、「政治狂人!」の見出しで非難。記事では

「これまでも、『中国脅威論』を振りかざして、中国に対する中傷を何度も行ってきた」

などと論評した。政治理念が近い安倍晋三前首相から支持されているとして、

「高市氏が当選する可能性が高いとの見方もある」

とも伝えている。

ただ、環球時報は今回のオンライン会談については、直接の論評を避けている。見出しは、「台湾ネットユーザー:教訓が生かされていない!」。会談に対する台湾のネットユーザーの声として、

蔡英文氏の動きが『賭け』ではないかと疑問の声が上がった。 また、蔡英文氏に『バイデン氏の当選に懲りていないのか』と念を押すネットユーザーもいる」

などと伝えている。環球時報の記事によると、トランプ大統領の任期中は、台湾当局は「米国の大陸弾圧に協力しようとしていた」ことに加えて、大統領選では民進党の議員や支持者のみならず、「ネット応援団」まで圧倒的にトランプ氏を支持してバイデン氏を蔑視し、「『台湾は世界で最もトランプ氏に優しい地域』だと騒がれた」。

確かに、米中対立の激化にともなって、台湾はトランプ政権との距離を縮めてきた。それだけにバイデン氏の当選は台湾の世論に衝撃を与えた。つまり、現時点での高市氏との接近は台湾にとって「賭け」なのではないか、という見立てだ。中国メディアが、こういった台湾のネットの声を切り取って報じることで、中国に対して厳しい態度を取る高市氏に対する警戒感を反映しているとも言えそうだ。

「台湾有事については、可能性は高いと考えて備えをしなければならない」

高市氏は9月18日日本記者クラブで行われた討論会で、「台湾有事」の可能性について次のように述べ、具体的な備えが必要だとの考えを示している。

「台湾有事については、可能性は高いと考えて備えをしなければならないと思う。ただ、これを実際にどうしていくか、ということになると、日本にできることが特に軍事面で限られている、国防力の面でも限定されているということがある。現実的には実効的な抑止と対処に必要な能力について、我が国が保有し、日米同盟で補完するという方法が考えられるのではないか」

J-CASTニュース編集部 工藤博司)

蔡英文氏と高市早苗氏のオンライン会談、中国からはどう見えたのか(写真は高市氏のツイートから)