興味深い物語を聞いている人々の心臓の中では不思議なことが起きている。心拍数がシンクロ(同期)して、同じような変動を見せるのだ。
同じ演劇を見ている観客や、恋人たちの心拍数がシンクロすることについては、これまでの研究で知られていた。しかし今回明らかになったのは、同じ物語を別々にひとりで聞いている人たちの心拍数も同期するということだ。
同じような現象は、退屈な説明ビデオを見ているときにも確認されている。こうした事実は、心臓をコントロールする認知機能があるらしいことを示唆しているそうだ。
【画像】 同じ物語を別々に聞いた時でも、人の心拍数はシンクロする
パリ脳研究所や米ニューヨーク市立大学などの国際グループは、できだるだけ干渉することなく、人間の意識を探る方法に関心を抱いていたという。
一般的なのは脳をスキャンすることだが、同グループはもっとシンプルな方法できないかと考えていた。そこで物語を聞いている人々の心拍数を測定してみることにしたのだ。
『Cell Reports』(21年9月14日付)に掲載された研究では、次のような実験を行なっている。
健康な参加者に、ジュール・ヴェルヌの名作『海底二万里』のオーディオブックを独りで聴いてもらい、そのときの心拍数を心電図で測定する。
すると参加者はそれぞれ個別に物語を聴いていたというのに、同じところで心拍数が増減したのだ。
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同じ物語のオーディオブックを個別に聞いた場合でも、心拍数の変化が同期する / image credit:Perez and Madsen et al.,Cell Reports(2021)
内容に集中している場合にのみ同期する
その原因は、オーディオブックが同じように視聴者の感情を揺り動かしたからだろうか?
そこで今度はそうした感動をともなうことのない、退屈な教育用ビデオを視聴してもらった。すると、これによっても相変わらず心拍数は同期したのだ。
ところがビデオを観ている最中、頭の中で数を逆に数えてもらったところ、心拍数は同期しなくなった。
このことは、心拍数の同期が起きるには、内容に集中し、注意が向けられているかどうかが重要であることを示唆している。
これについては別の実験でも裏付けられている。
たとえば、短い童話を静かな環境と気が散る環境で聴いてもらった実験では、心拍数があまり同期しなかった人は、物語の内容もあまり覚えていなかった。
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昏睡状態でも同期率が高い人は、後に意識が回復
また、健康な人と昏睡状態にある人に同じ物語を聞かせて比較する実験も行った。するとやはり、後者は同期率が低かった。
しかし、意識のない患者の中でも特に同期率が高かった人がいた。驚くことにその人は、6か月後に意識が回復したという。
もしかしたら昏睡状態にあっても外部からの音が聞こえており、耳を澄ませていた可能性がある。
感情を揺さぶられるシーンほど引き込まれ、同期しやすくなる
感情表現がほとんどない教育ビデオにでも、集中して聞いていれば、心拍数が統計的に有意に同期したことは今回の研究で明らかとなった。
だがやはり、ストーリー性が高く、刺激的で、引き込まれるような内容の物語の方が心拍数は同期しやすいようだ。
研究グループのジェンス・マドセン氏は語る。
物語の感情を揺さぶる表現が私たちの反応に影響を及ぼすのはわかりますが、心拍まで同じように変化する必要はありません。
刺激的な感情表現があれば、それによって注意が高まる、つまり引き込まれるのだろうと考えていますが、この点は今後の実験で検証してみたいと思っています
こうした発見は、心拍数から脳の働きを間接的に検査する方法の基礎になるとのこと。
今ならスマートウォッチやフィットネスバンドなどでも心拍数を計測できるので、今後はそれによって、脳機能を手軽に調べられるようになるかもしれない。
References:Conscious processing of narrative stimuli synchronizes heart rate between individuals: Cell Reports / Our heart rates synchronize when closely listening to the same stories / written by hiroching / edited by parumo
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