ディーズプランニング(那覇市)が展開する低価格ステーキチェーンの「やっぱりステーキ」が順調に店舗数を伸ばしている。9月22日オープンの読谷店(沖縄県読谷村)で77店となる。昨年9月1日の時点では55店だったので、1年で22店増えた。既に19の都道府県に店舗を有し、コロナ禍を跳ね返す、高い成長率を誇っている。

【画像】限定の熟成肉ステーキ

 低価格ステーキが業態として伸びているかというと、決してそうは言い難い。競合する松屋フーズホールディングスの「ステーキ屋松」は、昨年9月の3店から増えておらず、停滞している。

 やっぱりステーキステーキ屋松よりやや価格が高く、業態が異なるペッパーフードサービスの「いきなり!ステーキ」は、顧客がグラム単位で好きなお肉の量を選べるのが売りだ。しかし、2019年12月に490店だったのをピークに21年8月には237店へと縮小した。20年9月には353店だったので、1年でなんと100店以上閉店している。

 郊外型の低価格ステーキ店はどうか。焼肉坂井ホールディングスの「ステーキハンバーグサラダバー けん」は、ピーク時の12年には200店を超えていたが、9店にまで減少した。同社では好調な焼き肉業態に集中している。

 すかいらーくレストランツの「ステーキガスト」は21年8月で124店だが、20年8月には135店だったので、1年で11店減っている。コロワイドグループアトムの「ステーキ宮」は19年3月末には144店あったが、現状124店にまで減った。

 他の大半の外食と同様に、コロナ禍で需要が縮小する低価格ステーキで、やっぱりステーキのひとり勝ちとなっている。なぜ逆風の中でやっぱりステーキだけが、成長できるのだろうか。

吉祥寺で成功した背景

 やっぱりステーキの特筆すべき点は、車で行く郊外店と家賃の高い都心部の両方で結果を出していることだ。

 コロナ禍でも順調な理由としては、昨年6月東京都武蔵野市に出店した、吉祥寺店の成功が大きい。家賃も人件費も高い東京で、果たして地方発の低価格ステーキが成り立つのか、疑問視する向きもあったが、その不安を払拭した。やっぱりステーキメディアへの露出も急増し、知名度が格段にアップ。FCの問い合わせも急増した。

 吉祥寺店は、JRと京王井の頭線吉祥寺駅南口から歩いて3~4分ほどと駅に近い路面店だ。しかし、井の頭恩賜公園へ続くメインストリートから外れ、商業地から住宅街に入りかけた人通りの少ない場所にある。周囲にはこだわりのある個人店が多く、チェーン店が出店する立地ではない。地理に不案内な観光客がたまたま発見して行くような場所ではないのだ。

 つまり、顧客がわざわざ選んで行く店として成り立っている。犬などペットを連れて食事ができるテラス席もあり、おしゃれ感を醸し出す店づくりも奏功した。席数は35席。

 同社広報によると、「吉祥寺店は午後8時までの時短営業となっている今でも、10回転ほどしている」とのことで、時間帯によっては行列もできる。1組あたりの滞在時間が30分程度と短く、食事主体でお酒に頼る業態でもないので、日常的にステーキが楽しめるステーキ食堂として成立している。

 吉祥寺東京都23区に隣接するターミナルで、たびたび各種調査で「住みたい街」の上位に食い込む。来街者は地元住民、学生、ビジネスパーソン、観光客が混在するが、1000円ステーキという分かりやすいコンセプトで、同店が幅広い顧客層にアピールできたのも良かった点だ。

 19年3月に隣のJR三鷹駅北口駅前に出店して、連日行列ができるほどの大反響を呼んでいたステーキ屋松が、同年11月吉祥寺に出店。こちらは吉祥寺駅の北側の東急百貨店裏に店舗があるが、同じサラダバー付きの1000円ステーキで両者はどう違うのか。地元住民にとって、やっぱりステーキの進出に興味津々だった背景もプラスに作用した。

 やっぱりステーキライス食べ放題1000円セット料金の中に含まれていて、よりコストパフォーマンスが良かった。

 ステーキ屋松はよくまとまっているが、オーソドックスなステーキハウスの外観。一方、やっぱりステーキテラス席があって開放感があり、換気が良いオープンエアアピールコロナ禍でも安心して入れる店であると認識され、高い集客力につながった。

ロードサイドが特に元気

 やっぱりステーキコロナ禍になって、ロードサイドの郊外店が特に元気だ。現状、店舗の3分の2がFC店だが、ロードサイドの開発は地元の事情に明るいFCオーナーに委ねられている。もちろん、最終決定は本部の義元大蔵社長が行うが、この役割分担がうまく機能している。

 沖縄は車社会で、同社ではロードサイドの立地にも手馴れていた。そのため、人々が公共交通を避けて、非接触性が高い自家用車での移動にシフトしても、それに見合った店舗をつくることができる。

 今年4月にオープンした石川県アピタ松任店と、長野県のあづみの店は、それぞれ県内初出店だが、想定以上のにぎわいだという。東京でも人気のチェーンが初めて出店するとなると、地元メディアがこぞって取り上げるので、有利な面もあるだろう。

 ロードサイドならば、顧客はファミリービジネスパーソンが中心と思いきや、女性や高齢者の来店も多いという。ファミリー層の多い店舗では、キッズメニューを提供するなど客層に合わせた配慮も見せている。

 やっぱりステーキではミスジをメインにしているが、赤身でもやわらかい肉を使っている。全般に脂は控えめでさっぱりと食べられるメニューが多く、女性や高齢者でも「日常使いできる」と安心感を持つようだ。ロードサイド店なら、お店はファミレスに寄せて、4人席のテーブルを増やすなど、ゆっくりできるようにつくる。リピーターが多いのも、やっぱりステーキの強みだ。

 元は同業のステーキ店や焼き肉店だった物件を、ローコストで改装したケースも多く、上手に出店を重ねている。

東京都心部にも初出店

 今年8月には、初の東京都心部出店となる、芝大門店がオープン。試験的に、注文方法を食券から席でタブレットを使用する方式に替えた。また、ライスサラダスープテーブルオーダーに変更した。さらに、芝大門店限定で熟成肉のステーキを導入した。

 「サラダバーで席を立つストレスを思い切ってなくしてみた」(同社・広報)とのことだが、想定を上回る好調な集客となっている。

 食券方式だと、入口に人がたまって行列がより長くなりがちだが、タブレットでの注文だと幾分緩和される。

 サラダバーの前で人が密になるのを気にしたり、人が触ったトングを触りたくなかったり、中にはうっかりマスクを外してサラダをとり分ける他の客を見て食欲がそがれる人もいたりするかもしれない。タブレットでのテーブルオーダーにすれば、そうした感染リスクへの心配は一挙に解決される。

 その分、人件費はかかるが、タブレットからは追加の1品の注文が入りやすく、単価アップに効果的なことが検証されてきた。

 熟成肉は、「エイジングシート」という新技術を使った「熟成アメリカステーキ」(200グラム)を2000円で提供。オープン当初は特別価格として1500円で販売していた。肉の熟成には2週間を要するので、現状は提供数を絞っており、売り切れる日も多い。

 通常の肉だと、硬いスジなどは店内で切除して提供することになるが、熟成肉だとスジまでやわらかくなるので切除する部分が少なく、フードロスの解消に寄与する。赤身も脂も味がまろやかに変化するので、メニューバリエーションを持たせる観点から導入した。

 エイジングシートとは、熟成肉などを手掛けるミートエポック(神奈川県川崎市)が、明治大学農学部の村上周一郎教授と共同で開発した特許技術。肉を熟成させる菌の胞子を付着させた布で肉を包んで、通常の熟成期間の3分の1以下で生産。熟成肉をリーズナブルにした。これまでのドライエージングの熟成肉のように表面のかびた部分の切除もほぼ必要とせず、肉の歩留まり率も高い。

 芝大門店ではオフィスランチ需要に応えるために、ステーキ弁当の販売にも注力していて、売り上げの1割をテークアウトが占める。ステーキは冷めると硬くなって味が落ちるイメージだが、やっぱりステーキでは焼き方を工夫して冷めてもおいしいと好評だという。まとめ買いも増えていて、他のお店では売り上げの15%がテークアウトとなっているところもある。

●店舗を着実に増やしていく

 沖縄県発祥のやっぱりステーキ2015年那覇市中心部に1号店の「カクテルプラザ店」をオープンカウンター6席だけの小さな店舗だったが、「ステーキ界の吉野家」を目指すという義元社長の志で、200グラムのステーキ1000円で売る、破格の価格で大きな反響を呼んだ。たった1年で県内に12店を展開。FC店も始めて、注目を集めた。

 ラーメン店によくある、食券の自動販売機を採用。肉を半生焼で顧客に提供して、あとはアツアツの富士山溶岩プレートで、お好みの焼き具合にセルフで仕上げてもらう。サラダバーの設置など、セルフサービスを随所に導入してコストを削減。一方で、50%を超える原価率をキープする肉質へのこだわりにより、顧客から高評価を得た。高い回転率で利益を生み出す仕組みを構築している。

 肉をよりおいしく食べるためのソースなど調味料が多数テーブルに並べられ、飽きが来ないように工夫されている。

 13年に東京・銀座にオープンしたいきなり!ステーキが全国に破竹の勢いで出店していた頃であり、やっぱりステーキは、ポストいきなり!ステーキ」を狙う新鋭として注目を集めた。

 17年には大分市に、県外1号店を出店。19年には、大阪市内の繁華街、京橋に出店。さらには20年の東京・吉祥寺への出店で、ブレークを果たした。

 同社では「背伸びして無理に大量出店するつもりはない。物件のポテンシャルを見て、年間1億円売れる店を着実に増やしたい」(同社・広報)としており、勢いに任せたむちゃな出店をセーブする意向だ。

●当面は強力なライバル不在か

 さて、無理な大量出店をした結果、自社店舗の競合やサービス品質の低下で、大量閉店を余儀なくされているのがいきなり!ステーキ

 既存店の売り上げは、今年4月には前年同月比で144.7%、5月に157.4%となった。18年4月から続いていた既存店のマイナスが、前年の緊急事態の影響が厳しすぎたため3年ぶりにプラスに転じたが、6~8月は再びマイナスになっている。もともと売り上げが減っていた中でのコロナ禍であり、依然として非常に厳しい状況だ。

 だが、運営もなんとか集客を上げようと懸命に努力している。8月10日からは全店でオーストラリアイチボステーキを期間限定で販売。肉質はやわらかく低カロリーで、牛1頭から2キロほどしか取れない希少部位を、160グラムで1280円からと破格の値段で提供。9月末までの販売予定を8月末までに変更せざるを得ないほど、よく売れた。

 不振の中でも光明が差しており、商品を見直せば、再浮上できるのではないかと思わせた。

 ステーキ屋松はどうか。松屋フーズにしてみれば、本体の「松屋」の売り上げが、コロナ禍前となる2年前より10%以上落ちていて、ステーキ屋松の展開を考えている場合ではないのかもしれない。

 しかし、9月にはステーキ屋松と松屋のコラボメニューとして、松屋からビフテキ丼が販売されている。同月7日からはごま風味香るしょうゆダレが特徴の「にんにくごま醤油」、14日からはマスタード香る玉ねぎたっぷりの「香味ジャポネソース」(いずれも750円)が、米国・アンガス牛100%を使って提供されている。松屋にしては価格の高いメニューだが、ステーキ屋松が久々にクローズアップされている。

 こうして徐々にステーキ屋松の名前を広めておいて、時が来れば一気に出店することもあり得るので、松屋フーズが出店を止めているから「諦めた」と考えるのは早計だろう。

 低価格ステーキで突っ走るやっぱりステーキだが、いきなり!ステーキの失速を見ているだけに、能力を超えたことはしておらず、大量出店をしていても、冷静さを失っていないと見受けられた。

 県庁所在地クラスの中都市都心部店、東京をはじめとする大都市都心部店、吉祥寺のような大都市近郊駅前店、郊外ロードサイド店など、顧客のニーズに合わせた店づくりを続ければ、当面ライバルはなく独走できるのではないだろうか。

(長浜淳之介)

8月には、初めて東京都心部に出店したやっぱりステーキ