『温泉まんじゅう』とは?

『温泉まんじゅう』と聞いて、どんなまんじゅうを思い浮かべますか。

茶色い皮の逸品ですか。それともあんこが透けて見えるほど薄皮の個体でしょうか。

温泉大国日本において、その種類は温泉の数だけあるといっても過言ではないでしょう。

『温泉まんじゅう』とはいったい何か

というわけで、『温泉まんじゅう』についていろいろと調べてみました。

しかし、残念ながら厳格な定義は見つかりません。温泉の成分を皮に練り込んだり、温泉の蒸気で蒸したり…温泉に特化したまんじゅうもありますが、温泉の成分によっては匂いや味が『温泉まんじゅう』に向かない場合もあり、その数は多くありません。

ということで、『温泉まんじゅう』とは、「温泉地で売られているお饅頭」とするのが最もしっくりくる定義といえそうです。

『温泉まんじゅう』発祥の地は?

思ったよりも曖昧な『温泉まんじゅう』の定義。

では、『温泉まんじゅう』発祥の地はどこなのでしょうか。

一般的には、群馬県渋川市の『伊香保温泉』が『温泉まんじゅう』発祥の地だといわれています。

※写真はイメージ

湯に含まれる鉄分が酸化した茶褐色の『黄金の湯』が有名で、湯に浸けた手ぬぐいが茶色に染まるほど多くの鉄分が含まれています。刺激が少なくやわらかい湯は、病気や怪我の療養にもよいため昔から湯治場として人気。特に女性には『子宝の湯』として喜ばれています。

この伊香保で1910(明治43)年に新しい土産物として開発されたのが『湯乃花饅頭』です。

手がけたのは勝月堂の初代店主半田勝三(かつぞう)さん。伊香保温泉の茶色い湯の花をイメージし、黒糖を使って茶色い皮の饅頭を作り出しました。

その後、1934(昭和9)年に昭和天皇に献上されたことからその名が知られるようになり、茶色い皮の温泉まんじゅうが全国に広まったといわれています。これが発祥の地とわれる所以です。

勝月堂4代目店主の半田正博さん:
イメージしたお湯の色を出すための配合が難しく、完成までには半年もかかったと聞いています。

その試行錯誤の末に完成した『湯乃花饅頭』のレシピは、現在も初代の勝三さんが作り出した頃とほとんど変わらず。「変わったのは蒸すための燃料くらいだと思います」といいます。

そう聞くと、約100年もの長きにわたり愛されてきた味を確かめずにはいられません。早速取り寄せてみることに。

勝月堂『湯乃花饅頭』

手作りならではのちょっと形が不揃いの饅頭。大きさは、直径が5cmほどで高さも3cm近くあり、皮は薄茶色でツヤツヤと光っています。

「クール便だとどうしてもかたくなってしまうので、食べる時は少し電子レンジで温めてください」という半田さんのアドバイスにより、電子レンジで約10秒温めてからいただきました。

厚めの皮はふんわりもちもち!

かむとほのかに甘い黒糖の香りがして、甘さ控えめのこしあんとのハーモニーがたまりません。1人で何個も食べられそうです。

製造後1日経ってもこの美味しさですから、出来立ての美味しさは推して知るべし。ぜひ現地で出来立てを味わってみたいものです。

今も毎日職人によって手作りされているこの『湯乃花饅頭』は、保存料などは全く使っていないので消費期限は2日。そのため一部地域では配送不可の場合もありますので、ご注意ください。

『勝月堂』公式ウェブサイト

『温泉まんじゅう』日本一宣言の地

発祥の地とは別に、「温泉まんじゅう日本一宣言」をしている場所があります。それは、静岡県伊豆の国市

伊豆半島の北部に位置する伊豆の国市は、2005(平成17)年4月に旧伊豆長岡町、旧韮山町、旧大仁町の三町が合併して誕生しました。「温泉まんじゅう日本一宣言」をしたのは旧伊豆長岡町時代に遡ります。

2003(平成15)年、旧伊豆長岡町の町長の発案により伊豆長岡温泉で『温泉まんじゅう祭』を開催。その頃、伊豆長岡温泉では9軒の温泉まんじゅう専門店があり、各店がその味を競い合っていました。

そこで、1つの温泉地にこれだけの店数があるのは珍しいと「温泉まんじゅう日本一宣言」をしたのです。

その後、合併して伊豆の国市になった時には12店舗となった専門店も、後継者不足などの事情で2021(令和3)年9月現在では4店舗に。それでも今もなお昔ながらの味を守り続けています。

伊豆長岡温泉で一番初めに売り始め、『元祖温泉まんじゅう』と呼ばれている、黒柳の『元祖黒柳まんじゅう』を取り寄せてみました。

黒柳『元祖黒柳まんじゅう』

皮の色はかなり薄め。中央に「伊豆」の文字と温泉マークの焼印が押されています。

黒柳の3代目・渡辺精吾さんによると、黒柳の『元祖黒柳まんじゅう』は分類するなら小麦饅頭。黒糖は使っておらず、ほんのり茶色く色づいているのは醤油を入れているためなのだそうです。といっても、醤油の味がするほど入れているわけではなく、あくまで色付けと隠し味。創業以来の変わらぬ味を作り続けています。

こちらもほんの少しだけ電子レンジで温めてからいただきました。

ふんわりとした皮はパンのような甘い香りがして、いわれてみれば奥の方でほのかに醤油の風味を感じます。程よいながらもしっかりとした甘みのこしあんが、皮の味わいと相まって絶妙な美味しさ。こちらもぜひ現地で出来立てを味わってみたいと思いました。

伊豆の国市観光協会の木村佳穂さんによると、ほかの3店舗も大きさや見た目は黒柳の饅頭と似ていますが、店それぞれのこだわりがあり、味は全く異なるとのこと。そう聞くと食べ比べたくなるのが人情ですよね。

そんな気持ちに応えてくれるのが、前述した『温泉まんじゅう祭』。毎年秋に開催しているこのお祭りでは4店舗の温泉まんじゅうが食べ比べできる、詰め合わせを販売しています。

2021年の『温泉まんじゅう祭』では、コロナ禍のため例年人気の『温泉まんじゅう作り体験』などのイベントは中止だそうですが、11月7日に詰め合わせを販売することが決定。完全予約制なので、詳しくは伊豆の国市観光協会のウェブサイトで確認してください。

『伊豆の国市観光協会』公式ウェブサイト

『黒柳』公式ウェブサイト

『温泉まんじゅう』はいつ食べるべき?

温泉旅館などでは、『温泉まんじゅう』はお茶菓子として置かれていることが多いのですが、いつ食べるのがいいでしょうか。

※写真はイメージ

東京都市大学教授で温泉医科学研究所の所長・早坂信哉(@HayasakaShinya)先生によると、食べるべきタイミングは「温泉に入る約30分前」。

人間の血糖値は、空腹時には低めの人で70~80mg/dLといわれていますが、入浴直後にはそこからさらに下がります。人によっては60mg/dLを下回ることもあるのだとか。血糖値が60mg/dLを切ると非常に危険で、顔色が悪くなったりフラフラしたり吐き気や冷や汗などが起こり、場合によっては失神してしまうこともあるといいます。

そんな急激な血糖値低下を防ぐために効果的なのが「入浴前に温泉まんじゅうを食べること」。

消化や血糖値上昇のタイミングを考えると、入浴の30分ほど前に饅頭などの甘いものを食べるのがよいとのこと。とはいえ、厳密に30分前ということではなく、「入浴する前に食べる」と覚えておけばいいでしょう。すると、入浴後も血糖値が下がりすぎるのを防げるというわけです。

ただし、満腹になる程食べてはいけません。

温泉の水圧で腹部が圧迫される上、湯に浸かることで皮膚の血行がよくなるために胃腸の血流が滞り、消化不良となる恐れがあります。人にもよりますが、一般的には入浴前は饅頭などの甘いものを1つ口にするくらいにしておくのがよさそうです。

日本全国各地の温泉地にあるさまざまな『温泉まんじゅう』。コロナ禍でなかなか現地に行くことはできませんが、お取り寄せできるものが数多くあります。気になるものを取り寄せて、その土地ならではの味を楽しんでみてはいかがでしょうか。

『東京都市大学教授 早坂信哉』公式ウェブサイト

『温泉医科学研究所』公式ウェブサイト


[文/ハラアキコ・構成/grape編集部]

※写真はイメージ