ひきこもりのお子さんの国民年金保険料を、親が代わりに納付しているケースは多く見受けられます。しかし、その親が亡くなると、資金的な厳しさから、納付が困難になってしまうことがあります。そのような場合、免除制度を利用することが一般的ですが、老齢基礎年金が減額されてしまうため、親族が制度の利用をちゅうちょするケースもあるようです。免除制度を利用すると、年金はどれくらい減額されてしまうのでしょうか。

金銭的に余裕がない姉

 ひきこもりの弟(42)の国民年金について相談に訪れた姉(45)は、家族の事情を語りだしました。

「数カ月前に父が亡くなり、死亡に関する手続きや相続手続きなどは最近になって、やっと終えることができました。これで一息つけると思ったら、弟の国民年金保険料は父の口座から引き落としがされていたようで、現在は支払いがストップしている状態だということが分かったのです」

 姉は曇った表情のまま、さらに話を続けました。

「弟は母(73)と2人で暮らしています。弟は働いておらず、収入がありません。母親は年金収入のみで老齢年金と遺族年金、合わせて月約14万円です。年金収入のほとんどは日々の生活費で消えてしまうので、弟の国民年金保険料を支払い続けるのは難しいと思っています。私(姉)は弟家族と別居し、家庭を持っています。小さい子どもが2人いるので、私たち家族もお金に余裕がありません…。家族の生活費を切り詰めてでも、弟の国民年金保険料を払った方がよいのかどうか悩んでいます」

「そうですね。今のところ、取れる選択肢は2つあります。まずは、それぞれ確認していきましょうか」

 筆者はそう答えました。

納付と免除との差は?

 筆者は2つの選択肢について、大まかに説明しました。

【納付し続ける】
国民年金保険料は月額で1万6610円(2021年度)。弟さんが60歳になるまでの18年間分を納付し続けたとすると、総額で約360万円を支払うことになります。

【免除制度を利用する】
本人、本人の配偶者、世帯主が所得条件を満たせば、手続きをすることによって、保険料の納付が免除される制度があります。免除される金額は「全額」「4分の3」「半額」「4分の1」の4種類。弟家族の所得であれば、全額免除に該当するでしょう。全額免除になると、毎月の保険料は0円で支払わなくてもよくなります。しかし、将来もらえる老齢基礎年金は、納付し続けた場合の半額になります。

 そこまで説明を受けた姉は不安を口にしました。

「弟の国民年金保険料は弟が20歳のときから、ずっと支払ってきました。もし、これからずっと全額免除になったら、将来の年金額はかなり減ってしまうのではないでしょうか。一体どれくらいの差が出てしまうものなのでしょうか」

「そうですね。ちょっとここで計算をしてみましょうか」

 筆者はそう言い、65歳から受給できる年金額の簡単な表を作成しました。

【前提条件】
・20歳から42歳までは納付
以下、場合分け
・42歳から60歳まで納付
・42歳から60歳まで全額免除

 姉は表に視線を落としたまま、つぶやきました。

「月額で約1万2000円の差になるのですね。納付した方がよさそうなのは分かるのですが、毎月1万6610円の支払いは厳しいです…。どのようなことを基準に判断すればよいのでしょうか」

 そこで、筆者は次のような計算を用紙に書きました。

42歳から60歳まで納付した場合、国民年金保険料の合計は約360万円
全額免除の場合の国民年金保険料は0円
65歳からの年金月額の差が約1万2000円
360万円÷1万2000円÷12カ月=25年
65歳から25年後は90歳

「仮に42歳から60歳まで納付し続けたとすると、お姉さまが納付した保険料を年金で回収するには、90歳くらいまでかかりそうです。言い換えると『90歳よりも前に亡くなった場合、免除制度を利用していた方がよかった』ということになりそうです。もちろん、弟さんが90歳よりも長生きするか、それよりも前に亡くなってしまうのかは誰にも分かりません。

このまま納付し続けるのか、免除制度を利用するのか。ご家族とよく話し合って決めてみてください。なお、未納部分の納付や免除申請の手続きは、現在から2年前までならさかのぼってすることができます。とはいえ、手続きは速やかに行うのが望ましいでしょう」

「大変よく分かりました。母親の収入や生活費の状況を考えると免除申請の方になると思いますが、まずは今日のお話を母親と弟にも伝えてみます」

 姉はどこか、すっきりした表情でそう答えました。

社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也

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