(北村 淳:軍事社会学者)

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 久々に北朝鮮日本海に向けてミサイル発射試験を実施したのと前後して、潜航中の韓国海軍潜水艦KSS-III「島山安昌浩」(注:安昌浩は日本統治時代の朝鮮独立運動家。号は「島山」)が弾道ミサイル発射試験を実施した。

 北朝鮮潜水艦発射型弾道ミサイルを実用化していると主張しているが、発射試験に関してはフェイクとの分析がなされており、いまだ確実なところは不明だ。百歩譲って北朝鮮当局の主張どおりに潜水艦発射型弾道ミサイルを完成させたことを認めたとしても、プラットフォームとなる潜水艦は恐ろしく旧式であるだけでなく、小型潜水艦のためミサイル発射管がセイル部分に設置されており発射できる弾道ミサイルは1基だけである。

 これに対して韓国海軍による水中からの弾道ミサイル発射は間違いなく成功した。

 ただし、弾道ミサイル発射したKSS-III潜水艦の潜航状態などに異常が生じなかったかどうかは公表されていない。もし、韓国海軍のAIP潜水艦に設置された垂直発射管からのミサイル発射が設計どおりに作動していたならば、未確認である北朝鮮潜水艦とりあえず除外すると、また実験用の潜水艦も除外すると、世界初の弾道ミサイル発射型非原子力潜水艦の誕生ということになる。

韓国潜水艦の強力な攻撃力

 ちなみに、アメリカ海軍SLBM潜水艦発射弾道ミサイル)(トライデントII、最大射程7400km以上)はオハイオ級原子力潜水艦(水中排水量18750トン、全長170.67m)から発射される(アメリカ海軍ほか各国海軍のSLBMと、SLBMを発射する潜水艦を下の表に示した)。

 これらの巨大な戦略原潜に対して韓国のKSS-III級AIP潜水艦は水中排水量3750トン、全長83.5メートルと“小型”の潜水艦である。大陸間弾道ミサイルを搭載する必要性がない韓国海軍にとっては上記6カ国のような戦略原潜など無用の長物なのである。

 何よりも、KSS-III級AIP潜水艦は小型(戦略原潜に比べればという意味)とはいえ強力な攻撃力を有している。搭載された垂直発射管6基からは、6発の国産弾道ミサイル「玄武4-4」(最大射程500km)あるいは国産長距離巡航ミサイル「海星III」(最大射程1500km)を発射できる。また
、6基の魚雷発射管からは、“タイガーシャーク”魚雷あるいはハープーン対艦ミサイルを発射することが可能だ。

 今回発射に成功した垂直発射管搭載型AIP潜水艦に関して、米海軍シンクタンクなどの潜水艦関係者たちの間では、「韓国海軍が打ち出したAIP潜水艦プラス垂直発射管の組み合わせは、潜水艦の世界においてまさに“ゲームチェンジャー”となることは確実である」とみなされている。 韓国海軍は垂直発射管を6基から10基に増強したKSS-III Bach-IIの建造に取りかかっている。

アメリカは韓国軍に期待をかけている

 韓国海軍は、現在も直接対峙している現実的脅威としての北朝鮮軍に可能な限り自力で対抗しようとしている。アメリカとの軍事同盟も、あくまでも“自主防衛能力を補完する軍事力”と位置づけられるように、相当気合いを入れて各種軍艦(AIP潜水艦ミサイルフリゲートイージス駆逐艦航空母艦)や各種ミサイル(艦艇発射型弾道ミサイル、艦艇発射型長距離巡航ミサイルなど)の国産化(アメリカヨーロッパ諸国のシステムを組み込んでの国産化)を推進している。海軍だけでなく、空軍やミサイル戦力も、北朝鮮に対する監視能力と報復能力を充実させることにより抑止能力を強化している。

 上記AIP潜水艦発射型を含めて韓国海軍艦艇から弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルを発射する戦力の構築は、中国との対決を想定しているアメリカ東アジア地域で力を入れようとしている中距離ミサイル戦力増強の一翼を担うことにもなる。つまりアメリカの軍事戦略とも合致しているのだ。

 韓国海軍だけでなく韓国軍によるミサイル攻撃力の強化は、北朝鮮全域だけでなく北京や上海を含む中国中枢部への打撃力にもなるため、アメリカは韓国を縛ってきた長射程ミサイルの距離制限を完全に撤廃した。つまり、ミサイル戦力を強化する韓国軍に期待をかけているのである。

 弾道ミサイル巡航ミサイルといった長射程ミサイル戦力一つをとってみても、実際のところ軍事面では日本は完全に取り残されつつある。というより、取り残されてしまっているというのが現実とみなさざるを得ない。

 日本政府や多くの日本国民がアメリカへ寄せる片思いとは裏腹に、アメリカとしては、韓国と違って自主防衛努力をなにも本気で強化しない日本には辟易し始めているのが実情と考えるべきだ。アメリカに完膚までに叩きのめされた潜在的恐怖心からか、アメリカベッタリの人ほど中国や韓国を見くびる傾向が強いようだが、軍事情勢は感情ではどうにもならない。日本がおかれている現実を直視する勇気が何よりも必要である。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  過剰に増強する韓国海軍、本当の「敵」は日本なのか?

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