一般にハトと言えば、「カワラバト(Columba li
via)」のことだ。家禽化され、食用、伝令用、レース用、愛玩用に改良された結果、実に350以上の品種が誕生した。同じ”種”でありながらさまざまな大きさや形のクチバシを持つ。
かのチャールズ・ダーウィンは、ハトのくちばしに進化の秘密が隠されていると考え、その研究に夢中になった。
その研究は今日まで引き継がれ、ついにハトのくちばしの長さに関係している遺伝子の変異を特定することに成功したそうだ。
チャールズ・ダーウィンはハトに夢中だった。そのくちばしに「自然選択」の秘密を解く鍵が隠されていると考えたからだ。
ハトの愛好家が長年かけて選別してきた結果、カワラバトには350以上の品種が作り出され、バラエティ豊かなくちばしを持つにいたった。
・合わせて読みたい→チャールズ・ダーウィンの偉業を後世に伝えるデジタル・アーカイブプロジェクト
たとえば、ひときわ特徴的なものとして、ヒナに餌を与えられないほど短いくちばしを持つ品種がいる。
ダーウィンは、こうした人工的な選別には自然選択に通じるものがあると考えた。品種改良されてきたハトを調べれば、自然選択の仕組みも解明できる。だからハトに強い関心を示したのだ。
だが、当時の技術では詳しく遺伝子を調べることができず、その仕組みを解明することは難しかった。
ROR2遺伝子の突然変異とくちばしの関係を特定
ダーウィンの意思を引き継ぎ、その謎を解明したのは、アメリカ・ユタ大学の研究グループだ。
エレナ・ボーア氏らは、くちばしが短いハトと中くらいのハトを交配し、生まれてくる子供たちのゲノムを比較することを通じて、前者に共通する遺伝子の変異を見つけ出した。
[もっと知りたい!→]ハトが人間のガンを検出できることが判明(米研究)
それは「ROR2」という遺伝子で、短いくちばしの鳥はすべて同じROR2の突然変異を持ってた。
意外にも人間の稀な遺伝性疾患であるロビノウ症候群にも関係しているとされるものだ。
ロビノウ症候群の患者の顔は、額が広く突出したり、鼻と口が短く広いといった特徴がある。これは「ハトの短いくちばしを彷彿とさせます」とボーア氏は話す。
「ROR2シグナル伝達経路は、脊椎動物の頭蓋顔面形成に重要な役割を果たしているので、発生学的な観点からも理にかなっています。」
レーシングホーマーとオールド・ジャーマン・オウルから生まれた孫の頭部をスキャンしたもの。最短から最長まで、クチバシの長さのバラエティを表している / image credit:Elena Boer
くちばしの短いハトはどの品種も共通した変異を持っていた
『Current Biology』(21年9月21日付)に掲載された研究では、短いくちばしが特徴のハト品種「オールド・ジャーマン・オウル」(メス)と中くらいのくちばしが特徴の「レーシングホーマー」(オス)を交配しつつ、生まれてきた子供たちの頭蓋骨やくちばしの大きさをCTスキャンで定量的に調べている。
オールド・ジャーマン・オウル(左)とレーシングホーマー(右)。どちらもカワラバトの一品種/ image credit: Sydney Stringham
また量的形質遺伝子座マッピングという方法で、ハトのゲノムを比較した。
こうしてDNA配列の変異を探したところ、くちばしが小さなハトは性染色体の一部に同じ変異を持っていることが明らかになった。
研究グループはさらにこのデータを基にして、くちばしが短い31品種と、くちばしが中・長い58品種のゲノムも比較している。
その結果、こちらの調査でも、くちばしが短い品種はいずれもROR2遺伝子を含むゲノム領域に同じDNA配列を持つことが確認された。
短いくちばしのハト(上)と中・長いクチバシを持つハト(下) / image credit:Boer and Shapiro(2021)CurrentBiology
研究グループは、くちばしが短くなるのは、変異によってROR2タンパク質の折りたたみが変わるからではないかと推測している。
今後の予定は、この変異が頭部や顔の発達にどのような影響を与えるのか解明することであるそうだ。
References:Solved: Charles Darwin’s Mysterious Short-Beak Enigma / written by hiroching / edited by parumo
コメント