唐沢寿明が主演を務めるサスペンスドラマ「ボイスII 110緊急指令室」(日本テレビ系)が9月25日に最終回を迎えた。同作の注目ポイントのひとつが、ドラマタイトルの「ボイス=声」にかけて、毎回豪華な顔ぶれの人気声優がゲスト出演していたことだ。SNSでのゲスト告知投稿は都度活発に拡散され、同作の話題化に一役買っていた。近年、アニメや映画における声の演技だけでなく、実写ドラマやバラエティ番組といったジャンルでも声優を頻繁に見かけるようになった。彼らが活躍のフィールドを広げるトレンドと、その背景について考えてみよう。

【写真】ボイス2出演「呪術廻戦」主人公声優・榎木淳弥と唐沢寿明のオフショット

■”時代の写し鏡”のドラマで、声優出演が増加

実写ドラマ作品に声優が単発ゲストとして出演する例は以前から見られたが、特に近年では主演やレギュラー出演も増加しており、映像における存在感を増している印象だ。例えば、2020年にWOWOWで放送されたドラマ「ぴぷる~AIと結婚生活はじめました~」において、人型AIと結婚する近未来のサラリーマン・摘木健一という主役を演じたのは、「進撃の巨人」や「マギ」などの作品で活躍した梶裕貴だった。大ヒットドラマ「半沢直樹」(TBS系)では「ガンダム00」「うたの☆プリンスさまっ♪」シリーズなどに出演した宮野真守が実写映像でも好演を見せた。

2021年には民放ドラマへのレギュラー出演の事例が増加。北川景子と永山瑛太が共演した2021年春の金曜ドラマ「リコカツ」(TBS系)には、「美少女戦士セーラームーン」の月野うさぎ役などで知られる三石琴乃が主人公・咲(北川景子)の母親役として出演。同じく春ドラマで、GENERATIONS・白濱亜嵐主演の「泣くな研修医」(テレビ朝日系)では、「ドラえもん」のジャイアン役や、「ヒプノシスマイク」などで活躍する木村昴が患者の父親役を熱演した。「ドラえもん」のスネ夫や「鬼滅の刃」の不死川実弥、「呪術廻戦」のパンダ役を務める関智一は、2021年4月期には警視庁内のパワーゲームを描いた玉木宏主演の「桜の塔」(テレビ朝日系)で捜査一課長を、7月期には「ザ・ハイスクール ヒーローズ」(テレビ朝日系)で主人公・大成(岩崎大昇)の亡き父親役を演じ、2クール連続での実写ドラマ出演を果たした。

また、NETFLIXオリジナルアニメ極主夫道」で主人公・龍の声優を務めた津田健次郎は、おまけシリーズであり実写ミニドラマの「極工夫道」に主演し、アニメを軸にしたミニドラマという新しいスピンオフの形に挑戦した。

これらは一例であるが、実写ドラマに声優が出演するのは珍しいことではなくなっている。テレビドラマは“時代の写し鏡”であり、アニメコンテンツの成熟にともなう現在の声優ブームにおける自然な流れといえるだろう。

■バラエティへの活躍にも注目

声優が活躍するフィールドはドラマ作品だけでなく、バラエティ番組にも広がっている。例えばABEMAでは2018年から、2名の声優が日替わりでMCを務める生配信トークバラエティ「声優と夜あそび」が放送中だ。3シーズンにわたり継続されており、ABEMAの中でも人気番組となっている。

地上波でも「お願い!ランキング」(テレビ朝日系)では、ベテラン声優の対談企画「声優コレクション」や、芸人が書いたドラマシナリオを声優が演じる「声優×芸人」コーナーなどで、継続的に声優をゲストとして起用。「痛快TV スカッとジャパン」(フジテレビ系)も、声優が「イケボ」で演じる「神ボイススカッと」という顔出し再現ドラマコーナーを定期的に放映している。

このほかにも、「しゃべくり007」「踊る!さんま御殿!!」(日本テレビ系)、「ニンゲン観察バラエティ モニタリング」(TBS系)、「ネプリーグ」(フジテレビ系)など、人気地上波バラエティ番組へのゲスト出演も増加している印象だ。

また、「お願い!ランキング」や「声優パーク建設計画VR部」(テレビ朝日系列)では、派生コンテンツを同局のYouTubeチャンネル「動画、はじめてみました」で公開。毎度、数十万回再生される人気動画となっており、人気声優が持つコンテンツパワーの強さがうかがえる。

■YouTubeや″企業案件”、CM出演も…インフルエンサーとしてポテンシャルを発揮

昨今では自身のYouTubeチャンネルを持つ声優も増えており、インフルエンサーとしてのポテンシャルも注目されつつある。

鬼滅の刃」で主役の竈門炭治郎を演じた花江夏樹は、チャンネル登録者数200万人を突破。ゲーム実況を中心とした動画を定期的に更新し、小野賢章江口拓也をゲストに迎えた「声優が全力で『声優になろう!』をやるとこうなる」は490万回以上の再生を記録している。さらにサスペンスアクションゲーム「LOST JUDGMENT(ロストジャッジメント):裁かれざる記憶」やスマホオンラインRPG「ラグナロク オリジン」など、ゲーム作品の企業案件動画も請け負い、インフルエンサーとしての役割も果たす。

「銀魂」で主人公・坂田銀時役を務めた杉田智和の「杉田智和・株式会社AGRS」チャンネルは、登録者数74万人。生配信を中心にゲーム実況フリートーク料理動画など幅広く発信している。杉田も花江同様、企業案件にチャレンジ。「アジルスとドデカイディッパーKYO【杉田智和AGRSチャンネル】」と題した「おやつカンパニー」に関するクイズに挑戦する動画や、ハンティングアクションゲーム「モンスターハンターライズ」の先行プレイ動画などをアップロードしている。

その他、中村悠一梶裕貴白井悠介らも30~50万人台のチャンネル登録者数を誇る個人チャンネルを保有。本業の声優としてだけでなく、YouTuberとしても高い影響力を持つ声優が珍しくなくなってきた。

また、個人チャンネルだけでなく「SUUMO(スーモ)」のWEB動画に木村昴が起用されたり、マンナンライフ「クラッシュタイプの蒟蒻畑」に梶裕貴鬼滅の刃竈門禰豆子役の鬼頭明里が出演する事例もあり、WEBプロモーションというフィールドでも顔出しで声優を起用する事例が増加している印象だ。

■″ファンの熱量”と、場数を踏んだ人気声優の”安定感”が重宝

このように、声優がテレビドラマやバラエティ番組、YouTubeチャンネル、企業のプロモーションなどに登場する機会は、確実に増えている。

その理由として、ひとつには「鬼滅の刃」を筆頭とするアニメ作品の大ヒットにより、声優という存在が馴染み深いものになり、認知度が向上したことが考えられる。小中学生の将来なりたい職業ランキング(2021年4月、ニフティ調べ)でも3位にランクインしており、声優は一般的に憧れの存在になっていることがうかがえる。声優は、ニコニコチャンネルなど配信系WEB番組への出演機会も多く、人気声優になるほどレギュラーラジオやトークイベントなどでも場数を踏んでおり、フリートークの安定感が評価されている面もあるだろう。

また起用側の視点で考えると、声優の出演情報は熱量の高いファンによりSNSで拡散されやすい傾向にある。番組や商品の効率的な情報拡散と新規層開拓につながり、起用メリットが多いのも事実だ。

以前から、音楽活動を行う声優は多かったが、最近はさらに顔出しでの演技や、マルチタレント的に活動する事例も増えてきた。

しかしながら、声優の本質は「演じる」ことであり、現在の声優ブームの中、ひとくくりに声優として紹介されることに疑問を感じている“役者肌”の表現者もいる。また、声優が声の演技以外のフィールドへ進出することに違和感を覚えるファンもいるかもしれない。だが、人気・実力ともに持ち合わせる声優たちの活躍の場が増えることが、エンタメ業界全体の盛り上がりに貢献しているのは間違いない。現在は実写映像で活躍するのは一部の人気声優・ベテラン声優が中心だが、本記事で挙げた以外にもボーダーレスに活躍するスター声優が生まれるか注目していきたい。

※岩崎大昇の「崎」の正式表記は「立つさき」

写真左から「ボイスII 110緊急指令室」に出演した梶裕貴、「泣くな研修医」に出演した木村昴、同じく「ボイスII」に出演した関智一、「半沢直樹」に出演した宮野真守