世の中のコンプライアンスの高まりにより、漫画も掲載後に「不適切な内容があったため謝罪とともに修正」みたいな案件が増えてきたが、実はその1万倍ぐらいは掲載前に「この表現は不適切とツッコまれる恐れがあるので変えてくれ」と編集サイドに言われて修正が入っているのである。

つまり、皆さんが目にしているのはそんな校正や法務部の目をかい潜ってきた選ばれし不適切な表現なので、逆に心して見てほしい。

また、作家がSNSをやるのが当たり前になったことで、昔よりも内情や揉め事が読者に可視化されるようになった。

しかし、作家の全てが何かあったらすぐSNSで暴露するとは思わないでほしい。すぐSNSに書く作家と思われたら他社との仕事にも影響が出るため、今でも黙っている作家の方が圧倒的に多いと思う。

逆にいえば、それでも暴露する作家は「お前を殺して俺も死ぬ」という覚醒ver.のび太のような悲壮な決意があるということだ。

たまに暴露をわざわざ漫画にして行う作家もいるが、漫画家というのは絵を描くのが好きでタダでも喜んで描く人ではなく、逆にタダでは死んでも描きたくないからプロになったと思った方がいい。

そんな人間が、誰に頼まれたわけでもなくタダで漫画を描いて公表するというのは、それだけ黙ってはおれぬということである。
SNS上のトレパク指摘の「危うさ」

定期的に荒れる漫画業界だが、その中でも度々話題になるのが「トレパク問題」である。トレパクとは誰かの作品を写して描き、それを自分の作品のようにして発表することだ。

先日もあからさまなトレパクがあったようで、パクられ元が抗議し、パクリ先がそれを認め、謝罪するという事件があったようだ。

もちろんパクリはよくないのだが、描いている側としてはトレパク騒動は結構ヒヤヒヤする話題である。何故なら世の中の作品というのは大体、見本という名の資料を見て書かれているからだ、むしろちゃんとした漫画ほど資料を見て書かれている。ちなみに私はほとんど見ない。

背景はもちろん、ポーズ集やファッション誌を参考にして描いている人は多いと思う。だが世の中には「手本を見て描くのはズル」と考える人がいるため、それすら「トレパク」と言って騒がれ炎上し、パクリ作家と呼ばれるようになったら大変なことになってしまう。

昔、浦沢直樹氏がお題のキャラを見ずに描くというイベントをやっていたが、あしたのジョーなどをそっくりに描く一方で、「セーラームーン」は「ツインテールの浦沢女子」であり、あまり似ていなかった。

つまり、どれだけ絵が上手い人でも、よく知らないものをいきなり見ずに描くというのは不可能なのだ。

もし資料を見るのも禁止となったら、漫画の背景などは全部、「日本をあまり知らない監督が撮ったハリウッド映画に出てくる日本」みたいになるし、漫画は上手いがファッションセンスが死んでいる作家の場合、キャラの服装が絶望的にダサくなってしまう。

要するに漫画全体のクオリティが下がってしまうので、「資料を見て描く」というのは必ずしもパクりではないと思っていただけると幸いだ。

○岩下の新生姜のパッケージ一新、理由は…

そうは言っても意図的にパクっているものがあるのも確かであり、中には本物との誤認を狙ったものすらあり、そういったパクリはもちろん漫画業界だけの話ではない。

先日「岩下の新生姜」で知られる岩下食品が、岩下の新生姜のパッケージを一新することを発表した。

だが、新装開店ではなく、岩下の新生姜のパッケージを真似た類似品が多く出回り、消費者が間違って買う被害が相次いだから、という極めてネガティブな理由からである。

何故、パクられた方が変えなければいけないのか。痴漢を逮捕するのではなく被害者が自衛を求められたり、パクられたキャラの方が名前と顔を変えなければいけなくなったりしたような理不尽である。

おそらく、これは類似商品が1個や2個ではないからではないかと思われる。

昔、私は全国の名産を食べるという食レポエッセイを書いていたのだが、それでわかったのは「食業界は割と裁判沙汰が多い」ということだ。

何をそんなにバチバチにやりあっているかというと、もちろん権利問題である。信玄餅に「信玄餅」と「桔梗信玄餅」があるのもやりあった結果だ。

しかし、中には「類似品があまりにも多すぎる」という商品もある。萩の月などは「これは控えめに言って萩の月では?」という商品が50種類ぐらいあるらしい。

なんでそんなことになったかというと、菓子のパッケージや商品名は商標登録で守れるが、「菓子そのものの特徴」を製造元が権利として押さえるのはハードルが高いからだと思われる。

何せあの「たけのこの里」ですら、数年越しの再挑戦でようやく立体商標を登録できそうというのがつい最近ニュースになったぐらいだ。萩の月に関していえば、形という点では極めて分が悪いだろう。

それに、もし全てのジェネリック萩の月相手にやりあおうとしたら。コストと時間が膨大なことになる。そうなったら、放置、もしくは「こっちが変える」をやるしかなくなってしまうのだ。

パクっている側がやめるべきなのは当然なのだが、元々確信犯的にパクり商品を出すところがやめろと言われたぐらいでやめるとは思えない。

やめるとしたら、そのパクリ商品が売れず、作っても意味がなくなったときだけである。

買う側も「紛らわしいから何とかしろ」とメーカー側に要望するだけではなく、今自分が買おうとしているのは本当に岩下の新生姜か、珍生姜とかではないか、二度見することも大事である。
カレー沢薫

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