米国のメジャーリーグ(MLB)で活躍する大谷翔平選手が日米で野球ファンの注目を一身に集めている。
歴代のレジェンドと呼ばれる偉大な選手の記録に並び、また更新し続けているからである。
9月に入り、特に注目と期待が集まっているのがホームラン競争とベーブ・ルースと並ぶ「二桁勝利・二桁本塁打」である。
大谷は二刀流での出場を希望し、球団名も「天使たち」のエンゼルス(ア・リーグ)を選んだ。
投打ともに好成績をあげ、またホームラン部門では前半にトップになってしまい、ホームラン・ダービーにも出場した。
そのために、ファンばかりでなく国民的期待までが膨らんでしまい、ホームランでも1位にならなければ大谷ではないかのような雰囲気になってしまった。
こうして、いつの間にか大谷はホームラン競争にリストアップされ、他の2人(V・ゲレロJr〈ブルージェイズ〉、S・ペレス〈ロイヤルズ〉)と比較される日が続いている。
また、シーズン後半に入り、投手としての10勝が手に届きそうになると、超有名選手のベーブ・ルースに並ぶ期待を一身に集めている。
しかし、そこには見えざる壁が立ちはだかっているようだ。
敬遠が示す大谷の超人ぶり
9月22日は「3番・DH(指名打者)」で出場し、2盗に成功しながらも、勢い余ってベースを離れてしまいアウトになる。
また、5対5の延長戦、1死満塁で、3塁からサヨナラ勝ちへ果敢に突っ込んだがライトへの飛球が浅く、ホームベースからわずかに3塁寄りの好返球で経路を塞がれ、大谷はいったん捕手をかわしたがベースを踏めず行き過ぎ刺された。
この日は第1、2打席が四球、第3打席は1ゴロ、0-3から5点あげた直後の7回2死2塁では申告敬遠となる。
第5打席も敬遠、第6打席は三振。結局この日は4四球(2打数無安打)で、大谷にとって4四球はメジャー初とのことである。
翌9月23日は「2番・DH」で出場し3四球、続く24日も「2番・DH」で2申告敬遠を加えた4四球となる。
3連戦で11四球は2016年のハーパー(前年MVP)以来で、メジャー最多タイ記録とのことである。
また、3試合連続3四球以上は2003年のB・ボンズ(メジャー最多通算762本塁打記録保持者)が記録して以来18年ぶりとも。
「スポーツニッポン」紙は〝深刻″「敬遠」と記述し、大谷が直面している状況に同情した表現をしている。
ア・リーグでホームラン競争している3人の今シーズンの申告敬遠はゲレロ7とペレス4であるのに対し、大谷は17で、リーグ1位である。
9月だけの四球(括弧内は申告敬遠の内数)はゲレロ11(0)、ペレス6(1)に対し、大谷は19(6)で、如何に大谷が警戒され、敬遠されているかが分かる。
それでも次々に歴史を塗り替える
大谷の9月26日時点の通算成績は、打率0.258、本塁打45、打点98、三振183、四死94、盗塁24である。
シーズン後半に入ってからは、ベーブ・ルース*1との対比で二桁勝利が期待されているが、9月10日の登板では、44号ホームランを打ったものの、6失点で敗戦投手となり、19日は8回を5安打2失点、10奪三振4四球の好成績も勝利につながらなかった。
26日の登板では7回112球投げて、5安打1失点、10奪三振1四球と好投したが、1-5で敗れ、10勝を懸けた三度目の正直はならなかった。
大谷は9月26日現在、7三塁打も記録しているが、球団によると「45本塁打、20盗塁、6三塁打」は、1979年に殿堂入りした元ジャイアンツのレジェンド打者、ウィリー・メイズが1955年に記録して以来66年ぶり、2人目とのこと。
この日大谷は2打席連続3塁打を放ったが、エンゼルスの選手の2打席連続三塁打は2011年4月26日のアスレチックス戦でピーター・ボアジャスが記録して以来10年ぶり。
*7=ベーブ・ルースはレッドソックスに入団後の4年間は投手か代打のみで野手出場なし。5年目の1918年5月からチームの中心投手になり、登板の合間に一塁や外野で起用される。投手としては20試合に登板し、18試合に完投して13勝7敗。また95試合に出場(登板時含む)して、11本塁打を放つ。ルースの本格的な「二刀流」は、この年と翌19年(9勝、29本塁打)の2年間だけ。1920年にヤンキース移籍した後はほぼ野手に専念し、当時大リーグ歴代最多の通算714本塁打(現在3位)など数々の大記録を残した。
27日付「日刊スポーツ」は以下の記事を配信した。
「10勝目はならなかったエンゼルス大谷翔平投手(27)だが、奪三振数が今季150を超えた。投打でメジャー135年ぶりの大記録、史上5人目となるダブル「150」を達成した」
「打者として307塁打を記録しており、150K-150塁打をマーク。19世紀に実在した投打二刀流の先駆者たちと肩を並べた」
「過去4人はいずれも1880年代の選手ばかり。現行のルールが定まる以前に記録されたもので、近代メジャーと呼ばれる20世紀以降では大谷が史上初の達成者となった」
大谷はMLBではルースの「二桁勝利・二桁本塁打」には届いていないが、日本でプレーしていた2014年「11勝・10本塁打」、16年には「10勝・22本塁打」の2度記録している。
しかし、日米野球の重みの違いか、ほとんど話題にならなかった。
審判の威厳は絶対的?
大谷の所属するエンゼルスが終盤戦で戦っている相手のアストロズは地区優勝目前であり、マリナーズはプレーオフ進出を目指しており、チームにとって大谷は最大の警戒人物である。
四球や申告敬遠で塁に出すと、俊足の大谷には2盗され得点につながる危険性もあるが、ホームランによる確実な1点よりは選択肢としてはまだましという考えであろう。
相手となるチームが策をめぐらすのは至極当然であるが、問題は公平・中立であるべき審判の姿勢である。
投手でもある大谷の選球眼は優れているとされる。その大谷が三振を宣告され、時折頭を傾げたり、バットを放り回転させる仕草をしたりする。
判定に対するクレームであり、スポーツ紙の評などを見ても、「あれは明らかに(ストライク)ゾーンを外れていた」などとある。
元MLB通訳で、現MLB選手会公認代理人の小島一貴氏はFLASHで次のように記している。
投手としても、6月11日のダイヤモンドバックス戦で、ボークの判定に不満気なジェスチャーを取ると、その直後に2度めのボークを取られ失点した。
また、6月30日のヤンキース戦でも、初回の先頭打者へのフルカウントからの投球をボールと判定され、球審に高さなのかコースなのかを尋ねると、その後も厳しい判定が続き、合計4四球で1回を持たずに降板となった。
「それでも、ほかの選手に比べて大谷選手に不利な判定が多い気がするのは、大谷選手びいきゆえの誤解というわけでもないと思う」として、「MLBの審判は伝統的に、判定に不服な態度を表わす選手に厳しいという傾向がある」と審判の伝統と傾向を次のように解き明かす。
私が伊良部秀輝投手の通訳をテキサス・レンジャースで務めていた2002年、こんなことがあった。
レンジャースのショートは、当時MLB最高年俸だったアレックス・ロドリゲス選手。ある試合で、二盗を試みた走者に対してロドリゲス選手がタッチするも、微妙なタイミングでセーフの判定。
アウトを確信していたロドリゲス選手は不満げな態度を示すが、これ自体はよくあることであり、この時点では二塁の塁審は何もしなかった。
しかし3アウトになりベンチに帰ろうとしたロドリゲス選手が、わざとらしく二塁塁審の近くを通った瞬間、退場が宣告されたのだ。これには本人も驚き、監督がベンチを飛び出して抗議したが判定は覆らなかった。
2009年のある試合で、イチロー選手が見逃し三振に倒れた場面でのこと。判定に不服な態度を示したイチロー選手は、ベースを外れた球だったじゃないかと言わんばかりに、土の上にボールが通過した軌道の線を引いた。
実際にリプレイで見るとその通りの軌道だったようだが、その行為を見た球審はすぐさま、イチロー選手に退場を宣告した。
この年まで9年連続で3割を打ち、首位打者2回、盗塁王1回、MVP1回とスーパースターであったイチロー選手でも、判定に不服を示すや否や退場処分が下されるということだ。
小島氏は次のように結んでいる。
「MLB審判の伝統や傾向に対して、日本のファンから不満が出るのも理解できる。・・・ただ、良くも悪くもMLBの審判は、何十年間もこんな感じで今もあまり変わらない」
「だからこそMLB関係者やファンは、こうした審判の伝統、傾向をベースボールの一部として受け入れているように思う」
「その証拠に、前述のロドリゲス選手のケースでは、レンジャースもMLBに対して提訴していないし、エンゼルスも大谷選手に不利な判定が続くことについて、記者会見で多少の不満を述べることはあるが、公式に提訴などはしていない」
郷に入っては郷に従えであり、過去の選手がMLBの伝統と権威に敬意を払い、不利な状況も乗り越えて好成績を残したように、大谷選手も歴史と伝統を乗り越える以外にないようだ。
おわりに
ベーブ・ルースは「二桁勝利・二桁本塁打」の投打で偉業をなし、野手に専念後は当時大リーグ歴代最多714本塁打を記録したレジェンドである。
また打撃部門では本塁打・長打(三塁打など)・盗塁、すなわち打と走で記録を持つウィリー・メイズのようなレジェンドがいる。
大谷はそうしたレジェンドに近づき、また超えようとしている。大谷を二刀流というのはルースとの比較においてであり、その他の記録が見過ごされているのではないだろうか。
ざっくり言って、大谷の魅力は投打と打走の両レジェンドを合体した投打走の「三刀流」(この用語の有無は別にして)にある。
過去にはほとんど例がなく、関係者は記録を引っ張り出すのに苦労している感がある。今後、どんな記録が掘り出されるか、関心がもたれるところである。
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