「俺様は謎に包まれし天才イケメンバーチャルライバー漆黒の捕食者Darkness Eater》、即ちD.E.という。」

 出だしからブッこんだ文章かと思われそうだが、この文章は今回紹介するバーチャルタレント、鈴木勝が最初期のころに概要欄に書いていた自己紹介文だ。

 「バーチャル世界を生きる、永遠に13歳の少年(中学二年生)。普通を嫌い、配信をきっかけに格好良いを極めようとするも空回りしがち。」(公式サイトより)である彼。そのビジュアルとも相まって中二病なの? と疑うかたもいるかと思うが、社築曰く「しゃべるだけでオチになる、全てを終わらせる者」と評するような、カッコいいカワイイが同居するバーチャルタレントである。

【動画】女装衣装を導入して女性キャラとして配信を行ない、ファンを驚かせる鈴木勝

 その少年性溢れるビジュアルと声色から、同僚であるライバーやファンからは「ショタ」と呼ばれ、いじられキャラとして扱われることも多いわけだが、女装衣装を導入して女性キャラとして配信を行なったり、にじさんじ所属ライバーでは初めて水着衣装(女性用)を導入するなど、にじさんじ内でも少年と少女を行き来する数少ないライバーでもある。

 また、演劇部元部長と語るように、にじさんじ内で催される声劇にも多数出演してきており、その演技力を買われ、コミックヴァルキリーとのコラボ企画では声優として抜擢されるほど。

 演劇を経験してきたこともあってかキャラクター/創作への造詣深さは活動初期から一貫しており、その最たる例がデビュー配信から進めていたストーリー配信「鈴木勝になる物語」だ。「2434system」をキーにしたストーリーを、出雲霞卯月コウ・黛灰らと共につくりあげた。冒頭で書いた『漆黒の捕食者Darkness Eater》』という二つ名は、このストーリー配信で出てくる単語でもある。

 今年4月に新しいデフォルト衣装へと変更する際には、「これまでの通常衣装は『漆黒の捕食者』としてのイメージが強くなりすぎてしまった。ワックスをつけてコートを着るこの衣装を気軽に着て配信ができない。『漆黒の捕食者』としての自分が、自分の中で大きくなり過ぎた」とも語り、「これからの自分」へと進化するための節目となる配信となった。

 VTuberという存在を通して描いた自身の物語、ひいては「キャラクター」という架空性や拡張性をもフルに活かし、多彩な衣装と演技でリスナーを驚かせ続けてくれる。その気になれば、彼は性別・年齢を飛び越えて自身を表現することもできそうなほどだ。

 そんなカッコいいカワイイを共存させつづける彼なのだが、どうしても「カワイイ」の声が大きくなってしまいがちだ。その理由は彼のゲーム配信にある。幼少期にはテレビゲームを禁止されていたため、有名タイトルですらプレイするのは配信活動を開始してからで、ヘビーなゲーマーが比較的多いにじさんじ内において、全くゲーム経験のない彼のナチュラルな反応や捉え方は初心者らしくみえ、なによりゲーム中の反応がウブな少年に見えてくる。

 『LITTLE NIGHTMARES-リトルナイトメア-』やChilla’s Art制作のホラーゲームではひっきりなしに驚き、アイマスシリーズ初体験となった『アイドルマスター シャイニーカラーズ』では三峰結華SSRコミュ『NOT≒EQUAL』などを通してそのキャラ造形・人物描写に心打たれるなど、ジャンルを問わずにプレイして真っすぐに感情を見せてくれる。

 そのなかでも『リングフィットアドベンチャー』を筆頭にしたエクササイズ~フィットネスゲームとの出会いは、その後の配信などに影響を与えることになる。エクササイズ配信として届けるでなく、ホラーゲームの罰ゲームとしても利用した。配信を休む日にも欠かさず筋トレに励む彼にとって、筋トレや体力作り目的にしたこのゲームは最適で、リスナーと一緒に励むための専用ハッシュタグも設けるなど、彼とそのファンをつなぐゲームとして欠かせない存在になった。

 彼の配信で欠かせないものといえば、やはりASMR配信だろう。演劇部で音響効果も担当していたこともあり、「音」へのこだわりは人一倍ある。バイノーラルマイクを使用したASMR配信を率先しており、募集したセリフからつくりあげた脚本をベースにしたオリジナル劇、タイピング音・心音・雨音・花火の音など自ら採音した無声動画、「最高の音を探す」と題し様々な音を鳴らしてみる「夜のおとあそび」シリーズに、王道の睡眠導入系などさまざまなASMR配信を届けてきた。

 その姿勢や内容ともに、どこか求道者じみた色合いも強くなってきており、どこまで道を究めていくのかは気になるところだ。

 にじさんじ内のライバーらで結成されたボーカルグループRain Dropsの一員としての活動をスタートし、同グループの結成・メジャーデビューをきっかけにして上京、より配信活動・アーティスト活動に重きを置くようになった。演劇などでもみせるナイーヴで少年らしい声色が特徴で、一聴して彼とすぐにわかるほどのオリジナリティを感じさせてくれる。

 ここ1年ほどはピアノ弾き語り練習と称した配信も継続中で、楽譜を読み取り、試行錯誤を繰り返しながらもトライする彼の姿を見ることができる。

 VTuberの誰しもが深く語ることを避けてきた「自身の過去」について綴ること、手を付けることのなかったゲームプレイを不特定多数の人に配信を通して見てもらうこと、キャラクター性や架空性を活かして様々な表現を試みるなど、彼は未知への挑戦を試みてきた。それらは誰にでも分かりやすいポップな内容だけではなかったかもしれないが、そのチャレンジ精神は衰えることがなく、今後の彼を支えていくはずだ。(草野虹)

鈴木勝(C)ANYCOLOR, Inc.