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(写真:アフロ

北京五輪のテスト大会であるアジアオープンが10月中旬に開催されますが、エントリーに羽生選手の名前はありません。このことから、羽生選手の今季初戦は11月中旬に東京で開催されるNHK杯とみられています」(スポーツ紙記者)

五輪3連覇のかかった北京五輪が4カ月後に迫る羽生結弦(26)。また今季は、本人が前人未到の4回転アクセルを「必ず決める」と強い意志で目標に掲げている大事なシーズンでもある。そんななか、羽生は昨年同様、日本で孤独な練習に明け暮れているようだ。

「コロナ禍で長年の練習拠点のカナダに渡れず、日本で1人で練習を続けてきたのが昨シーズン。コーチや振付師とはリモートでやりとりをしていたといいます。今年は9月に入ってカナダの入国規制が緩和されたので、羽生選手も渡航しようと思えばできるはず。女子の紀平梨花選手(19)はこのタイミングで羽生選手のコーチでもあるブライアン・オーサー氏(59)に師事することを発表し、すでにカナダでの練習をスタートしています。

しかし羽生選手がカナダに渡ったという話は聞こえてきません。初戦も日本ですし、このまま日本で一人で練習をする可能性が高いでしょう」(前出・スポーツ紙記者)

大切なシーズンに“コーチなし状態”。しかし、「さほど心配はいらないだろう」とみるのはあるフィギュア関係者。

「昨季も立派な結果が出ていますからね。優勝した全日本選手権の演技は本当に素晴らしいものでした。“一人でもここまでできるんだ”と見せつけられましたね。本人も、その経験を踏まえて、一人での練習でも成長できると自信を持ったようです」

■金色のペンで書かれた《絶対に勝ってやる》

一人での練習について羽生は次のように話していたことがある。

「原点に返って今まで自分が多くの先生に習ってきたことを考え直しながら練習できる時間にはなっている」(昨年8月の日本テレビのインタビューで)

また昨年末の全日本選手権後には一人で練習する難しさを聞かれ、

「悩み始めると、どうしても負のスパイラルにはまりやすい。そのなかでうまくコントロールするすべだとか、一人だからこそ深く分析したりだとか」

悪戦苦闘しながら孤高に特訓する姿がうかがいしれるが、そんな羽生を支える“存在”があるようだ。それも、人ではなくモノである。

「羽生選手が小学2年生から20年近く、つけ続けている練習日誌があるんです」

前出のフィギュア関係者がそんなふうに教えてくれた。

「4歳から小学校2年生まで羽生選手を教えていた最初のコーチがいるのですが、彼女から練習ノートを書くよう指導されて始めたそうです。“練習や試合の調子、注意されたことなど何でもいいからとにかく書くように”と」

8歳のときから羽生を知る、元専属トレーナーの菊地晃さん(65)もノートを見たことがあるという。

「小学生のときから結弦はいつもノートを手にしていましたね。そのころは“極秘ノート”とか“発明ノート”とか呼んでいて。スケートの技術や練習で気づいたことを書き残していました。『オリンピック金メダルをとる』なんて夢や目標も書いていたと思います」

過去には、日本テレビの取材で羽生のノートの一部が披露されたこともある。A4判のノートに、細かい文字で反省点などがぎっしりと書き込まれたページもあれば、ページいっぱいに金色のペンで《絶対に勝ってやる》と書いたページも……。これについては、

「負けて悔しくて悔しくてしょうがなくて“クソ!”と思って、思い切って書き殴っています」

と、羽生自身が話している。

■ノートは“心の整理整頓”に繋がる

「練習後、試合後はもちろん、寝る前に布団のなかでひらめいたら、わざわざ起きてノートに書いたりすることもあると話していました」(前出・フィギュア関係者)

スポーツライターの折山淑美さんによると、トップアスリートのほとんどが練習日誌などのノートをつけているという。

「どんな練習をしたか、そのときに感じたこと、何がだめで何がいいのか。書き方は人によってさまざまですが、羽生選手のほかには、陸上の山縣亮太選手や、スピードスケート小平奈緒選手のノートの習慣も有名です」

ジュニア選手のための夢をかなえる「スポーツノート」活用術』(メイツ出版)を監修した専修大学スポーツ研究所顧問の佐藤雅幸教授にノートの効用を聞いた。

「たとえば、自分の頭のなかで考えるだけでは、人は思考をなかなか整理できません。そこで“書く作業”をして自分の取り組みや感情をいったんアウトプットしてみる。そうすると客観視ができるので冷静に分析できる。執着や心がとらわれた状態から解き放たれるので“心の整理整頓”にもつながります」

一人で練習する羽生の現状にもノートの存在が助けになっているはずだと佐藤教授は続ける。

「ノートをつけ続けているアスリートは、指導者に依存せずに自分で考えることができるもの。羽生選手もそうです。自分で自分を育てることができるのです。また、悩みが生じたときは過去のノートを見返して“ここの動きはこうだった”“前に悩んだときはこう乗り越えた”と確認することもできるでしょう」

長年、羽生を見守り続けてきた前出の菊地さんも次のように話す。

「小さいころから書きためてきたノートを見れば、自分が何を考え、どのように成長してきたか一目瞭然です。スケートが大好きで、夢中になって滑っていたかつての自分を思い出すこともできるでしょう。それがいまの結弦のモチベーションにもつながっているのではないでしょうか」

コーチは過去の自分ーー。ノートをめくりながら羽生は今日も孤高の練習に励んでいることだろう。