今季のF1は全22戦の日程が確保された。新型コロナウイルス禍で中国GP、カナダGP、オーストラリアGP、シンガポールGP、日本GPの4戦が中止となったものの、代替グランプリが組まれ、11月21日決勝の第20戦としてカタールGPが初開催されることが新たに決まった。これでアラブ圏ではバーレーンGP、アブダビGP(アラブ首長国連邦)、新規開催のサウジアラビアGPを含めて4カ国で行われることになった。

F1カタールGPのロゴが躍るロサイルインターナショナルサーキットの公式サイト

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 カタールGPの開催先はオートバイモトGP世界選手権も行われるロサイルインターナショナルサーキットで、2023年から10年間のF1開催契約が結ばれたことも発表された。F1運営会社・フォーミュラ1グループのステファノ・ドメニカリ最高経営責任者(CEO)は「全チーム、F1、国際自動車連盟による多大な尽力もあり、今季は全22戦のレースカレンダーをお届けできることになった」とコメントした。

 今後はF1が本格的に中東シフトになる可能性がある。F1運営会社自体も現在は米大手メディアグループのリバティ・メディアの傘下にあるが、サウジアラビアへの保有株売却を検討していると欧州メディアが伝えている。実現すれば、英国の投資ファンド、CVCキャピタルパートナーズとかつてのフィクサー的存在だったバーニー・エクレストン氏から2017年に44億ドル(約4900億円)で買収してわずか4年近くで興行権を「転売」することにもなる。

 リバティ・メディアが経営から離れたい理由についてはF1運営への興味が薄れてきたことが挙げられる。アメリカンフットボールNFLなどのように大規模なスポーツビジネスとして活況を呈すと考えてきたが、新型コロナで大打撃を受けたこともあり、思惑は大外れ。決勝のスタート時刻をそれまでより1時間遅くしたほか、スプリント予選レースを試験的に導入するなどしたが、思っていたような反響は見られなかった。計画通りに実現に近づけたのは来年から米フロリダ州でマイアミGPが初開催されるのが決まったことくらいだ。

モトGPが開催されているカタールのロサイルインターナショナルサーキット(ホンダ提供)


 さらに自動車業界も近い将来に向けてガソリン車、ディーゼル車を廃して世界的に電気自動車(EV)に移行する傾向にあり、ガソリンエンジンを主体に活動してきたF1も岐路に立たされている。実際にパワーユニットレッドブルアルファタウリに供給していたホンダ二酸化炭素の排出量を抑制させる概念「カーボンニュートラル」の実現にシフトすべく、今季でF1活動を終了する。

 中東はオイルマネーで発展した地域でもある。EV化に伴い、石油需要は2030年ごろには減少に転じるとのデータもあり、同時に原油価格が下落傾向となる恐れはある。このままでは中東諸国にとっては大きな打撃になってしまうのだ。

 すでにモータースポーツ界では電気モーターで駆動する車両によるフォーミュラE世界選手権が存在しており、F1が電気モーターとガソリンエンジンを組み合わせた現行のハイブリッド方式を継続していく可能性はある。そうなるとF1と中東が将来の命運をともにする共存の関係になってもおかしくはない。

 特にサウジアラビアでは近年、モータースポーツの誘致に積極的で今年2月にフォーミュラEの公式戦が初開催され、世界一過酷なラリーと呼ばれるダカールラリーもアフリカ、南米を経て現在はサウジアラビアを舞台としている。おそらくリバティ・メディアもF1の売り時を見定めているに違いない。

[文/中日スポーツ・鶴田真也]

トーチュウF1エクスプレス(http://f1express.cnc.ne.jp/)



米リバティ・メディアがわずか4年でF1事業の売却を検討か 大きく外れたその思惑とは