イギリスが燃えている。二階建てバスから、店舗から、住居から、炎が上がる。暴徒が街を徘徊し、建物を破壊する。店の商品を略奪する。国内総生産(GDP)が世界第6位で、来年には五輪の開催をひかえる「先進国」でいったい何が起きているのか。

きっかけは、ロンドンで黒人男性が警察に射殺された事件だった。ずさんな捜査をおこなった警察に対する反発。それが若者たちによる暴動のスイッチとなった。しかし、その事件はあくまでもスイッチであり、暴動の原因は別のところにある可能性が高い。つまり、どんなスイッチであれ、それが押されれば暴動が発生していたことが予想される。

では、暴動の原因は何なのだろう。アラブ地域で起きたデモや集会で若者たちが望んだのは、体制の変化という前向きなものであった。一方、イギリスで起きている暴動は、不満が溜まった若者たちの感情が爆発した結果であるように思え、アラブ地域で見られたような前向きな姿勢は感じられない。

2011年8月10日付のロイター通信によると、ふたつの要素が暴動に拍車をかけたのだという。一つ目の要素は「ソーシャルメディアの普及」で、「即座に仲間を呼び組織的な暴動が行われた」とのこと。おもに「ブラックベリー」というスマートフォンの匿名メッセージ機能が活用され、「若者たちの暴徒化をあおった」と記事は分析している。

二つ目の要素は、イギリスの「経済的変化」。財政を再建するために政府が打ちだした緊縮財政策では、「青少年支援事業など『必要がない』とされた公共サービスへの予算が大幅にカットされた」という。イギリスの失業率は4月の時点で7.7%となっており、若者を取りまく雇用情勢は厳しさを増している。ちなみに、この数字は「超就職氷河期」といわれる日本のものを上回っている(日本の失業率は6月の時点で4.6%)。

他方、世論調査の結果からいうと、暴動の原因が政府の緊縮財政策にあると考えているイギリス国民は8%しかおらず、失業問題に原因を求める国民も5%程度であると、8月11日付のAFP通信が伝えている。世論調査は、「大衆紙サン(Sun)と世論調査会社YouGovが8~9日に2534人を対象に実施した」。この調査では、「42%が犯罪行為の蔓延、26%が不良グループの台頭」を暴動の理由にあげている。

この調査結果には素直にうなずけない。「犯罪行為が蔓延」も「不良グループが台頭」も、何らかの原因があるからそうなるのであって、若者がもともと犯罪を行うわけでもないし、不良になるわけでもなかろう。若者を悪者にすることによって、意図的にその原因から目を背けているように感じるのは筆者だけであろうか。だからといって、ロイターが分析するような「経済的変化」のみが暴動の原因になったとは思えないが……。

時代には空気のようなものがある。その空気は、吸いこむ世代によって違うものだったりもする。イギリスで進行中の若者による暴動を見聞きする私が、まっさきに想起したのは、「『丸山眞男』をひっぱたきたい--31歳フリーター、希望は戦争」(「論座」、2007年1月号)という赤木智弘さんの論考であった。

抗いようのない時代の流れ。特定の世代が社会から取り残されていく。このままでは、やってられない。閉塞感に満ちるこの社会を変え、ほかの世代と自分らの世代とが平等に幸せを享受するためには、戦争でも起きて、世の中が「ガラガラポン」されるのがよいのではないか……。そういう赤木さんの、当時の思いが込められた論考である。

赤木さんのように、時代の空気や流れを踏まえた上で、他人に対して自分が置かれた立場を客観的に説明するのは至難の業である。イギリスの若者たちだって、説明したいことは山ほどあろう。だが、説明という困難な手段をとる前に手軽な「行動」に出てしまい、感情が爆発し、暴徒化してしまったのが実状であるようにも見える。

赤木さんの思いとイギリスの若者たちの思いが同じだと言いたいわけではない。しかし、置かれた立場は似ているように思えてならない。言いかえれば、取りまく社会の「状況」は異なるが、置かれた「立場」は似ているということだ。では、「暴動鎮圧に武力を行使しても効果的ではない」(AFP)といわれるなかで、暴動を鎮めるにはどうすればいいのか。

暴動を繰りかえし、「悪者」のレッテルを貼られつつあるイギリスの若者たちが、今、いったい何を考えているのか。少なくとも、それがわからなければ解決の糸口は見えてこないように思える。イギリスの政府が、そして「若者よりも上の世代」の人びとが、若者とどのように向きあっていくのか。その点に注目しながら、事態の推移を見守っていきたい。

(谷川 茂)