『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、自民党の総裁選中に起きた新たな安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」の結成から、今後の日米関係について分析する。

(この記事は、10月4日発売の『週刊プレイボーイ42号』に掲載されたものです)

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自民党の総裁選が終わった。だが、その過程で浮上しなかった大切な争点がある。今後のアメリカとの向き合い方だ。

日本の安全保障政策においては、日米同盟が最重要で、永続的なものという大前提がある。だが、一方のアメリカは、日本と同じくらい日米関係を大切なものと見なしているのだろうか? 

実際、そんな疑念を生じさせるようなことが総裁選中に起きている。アメリカインド太平洋地域の安定と対中封じ込め戦略の一環として、イギリスオーストラリアとの3ヵ国で新たな安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を結成した。

その具体例がオーストラリアに巡回駐留する米軍の規模拡大と、原子力潜水艦8隻の供与決定だ。原潜は潜航距離に優れる。中国が軍事拠点化を進める南シナ海などでその8隻が海中深く活動すれば、強力な対中抑止力となるのは確実だ。

とはいえ、原潜供与は異例のこと。原潜の燃料となる濃縮ウランは純度が高く、そのまま核兵器に転用可能とされる。それだけに、原潜を配備する国連常任理事国インド核保有国6ヵ国は核技術の流出を恐れ、他国への原潜供与を控えてきた。

ところが、アメリカは非核国のオーストラリアに8隻もの原潜供与に踏み切った。この暴挙に対して、潜水艦取引を横取りされたフランスのみならず、EU全体がアメリカを強く批判した。

西側諸国、あるいは欧米という言い回しがあるが、欧州とアメリカは一枚岩ではなく、独仏を中心とする大陸ヨーロッパの国と、英米やオーストラリアなど、アングロサクソン諸国に分かれている。

注目すべきは大陸ヨーロッパ諸国のアメリカに対する向き合い方だ。対米従属一辺倒の日本と違い、対米協調を掲げながらも独自外交にこだわってきた。典型はフランスで、ド・ゴール政権以来の自立路線は知られたところだ。また、ドイツも対ロシア政策などでアメリカとは一線を画す。アメリカに協力するが、言うべきことは言うという姿勢で一貫している。

日本もこうした大陸ヨーロッパ諸国の外交術に学ぶ必要がある。日本はアメリカと一体となり、アジアにおける対中包囲網の先兵役を担わされる。アジア諸国の多くが米中2大国のはざまでその距離の取り方を模索するなか、その突出したアメリカへの奉公ぶりは異様ともいえる。

日本は、日米豪印4ヵ国の協力の枠組み「クアッド」を重視するが、よく見れば豪印は旧英連邦の国だ。昨年は、機密情報を共有する枠組み「ファイブ・アイズ」に日本が入るという議論があったが、これもアメリカのほか、英加豪とニュージーランドという英連邦諸国の枠組みだ。

そんな世界に無邪気に飛び込む日本は、中国封じ込めの先頭に立ち、米中戦争の際には真っ先に巻き込まれる立場を自ら選んでいる。その一方で、尖閣(せんかく)問題などで日中が衝突したときにアメリカ助けてくれるのか? 米中が劇的に和解して日本が置き去りにされることはないのか?という不安はぬぐえない。

オーストラリア巡回駐留米軍拡大と原潜供与というニュースは、アメリカの日本離れを示唆するという見方もある。日本も独仏など大陸ヨーロッパ諸国のように、したたかな独自外交を行なう時期だという警鐘ではないのか。来る衆院選ではぜひ重要な争点にしてほしい。

古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

「日本も大陸ヨーロッパ諸国の外交術に学ぶ必要がある」と語る古賀茂明氏