岸田文雄政権が始動したばかりだが、岸田首相の出身派閥「宏池会」のナンバー2である林芳正・前参議院議員(60)が「文藝春秋」(11月号)のインタビューに応じ、早くも次期総裁選への名乗りを上げた。

 林氏は今年7月、11月衆院選で山口3区から鞍替え出馬することを表明。山口3区は二階派の重鎮、河村健夫元官房長官の地盤であることから、二階俊博前幹事長が「売られたケンカは買う」と林陣営を恫喝。すわ全面抗争勃発かと、大注目を集めている。

 だが、渦中の林氏は「(長州の)明治維新の先達を見習い、決断を貫きたいと思います」と涼しい顔。そのうえで、「岸田政権の次」を狙う野心をこう明かした。

林芳正氏の「国家ヴィジョン

「今回は8月16日付で参院議員の辞職願を提出したので、私に(自民党総裁選の)出馬資格はありませんでしたし、同じ宏池会岸田文雄会長が出馬されたので、岸田総裁実現のために奔走しました。今後は身を粉にして岸田政権を支えたいと思っております。

 一方で、常にチャレンジする意欲を持っていなければ、総裁の順番は回ってきません。2012年の総裁選でもそうでしたが、私はチャンスがあれば必ず手を挙げてきました。その姿勢を、これからも明確にしていきたいと思います。

 先輩方を見ていると、どんなに総理総裁にふさわしい能力を持った方でも、総裁選で必ず勝てるとは限らない。『天の時、地の利、人の和』という言葉がありますが、大きなハードルを越えていくためには、タイミングが重要です。ただ、いつチャンスが来てもいいように、準備を怠ってはなりません。そのためにも、日ごろから党内の様々な方と真摯に仕事に取り組んでいきたいと思います」

 では、林政権誕生のあかつきに、どのような政策を打ち出すのか?

 林氏はみずからの国家ヴィジョンを「着実で穏やかな成長こそが最大の安全保障」と語る。

「中国のような覇権主義丸出しの成長路線ではなく、国際社会から共感をもって受け止められる経済成長を志向することです。それが日本の安全保障を盤石にしてくれるはずです」

日本の“敗因”をどう分析する?

 だが、現在の日本は「着実で穏やかな成長」に程遠く、低成長に喘いでいる。現在の日本の“敗因”を、林氏はこう分析する。

「日本が抱える問題が最もよく表れているのが、半導体です。かつて『日の丸半導体』は世界シェアの5割を占めていましたが、現在は1割にまで落ち込みました。ところが皮肉なことに、工場の数ではいまだに世界トップなのです。つまり、合併をせず、小規模で低効率な生産を続けてきたわけです。

 敗因は、連続性を重視しすぎたことです。今日と同じことを明日も明後日も続けていれば、このまま成長し続けていけるだろう。そう考え、思い切ったチャレンジはしてこなかった。その隙に、巨大な投資や合併など非連続的な変革で勝負に出た韓国や台湾に追い抜かれてしまったのです。電池や5Gなど、他の分野においても敗因は同じだと思います。我々は現在フロンティアに立たされていて、これまでのような教科書はありません。次々と新しいものを考え、生み出さないと生き残っていけないのです」

 低成長を脱するために、政府はどうすればよいのだろうか?

「『どの分野が有望か』『どの分野を伸ばしていくべきか』ということは、あくまで民間や市場が決めるべきだと考えています。これまで日本は官が先にお墨付きを与え、そこに資金や人材を投じるという形をとっていましたが、政府が『次はこれだ』と方向性を押しつけるべきではありません。

 むしろ、フロンティアを切り開く異能の人々がなるべく出て来やすい環境を整備することが、政府の仕事です。そして、ひとたび創造的破壊をする開拓者が出てきたら、そうした企業に対して政府が税制優遇などで後押しをしていくべきです。民間企業がリスクをとってでも行動しやすいように環境を整備するのが、新しい時代の産業政策になるでしょう。そこはまさしく政治の役割です」

「保守本流」のあるべき姿

 林氏の出身派閥「宏池会」は、吉田茂元首相の直系の弟子である池田勇人元首相に源を発する「保守本流」の牙城である。林氏は、いまこそ保守本流がその本領を発揮すべき時だと強調する。

「そもそも保守本流の歴史は、常にポピュリストに立ち向かってきた歴史でもあります。岸信介総理が日米安保条約を改定した際、反対運動が巻き起こって国会がデモ隊に包囲される事態となっても、岸総理は真正面から立ち向かい、政権と引換えに改定を成し遂げました。竹下登総理の消費税導入も同様です。その判断が正しかったことは、後世の歴史が証明しています。

 かつて中曽根康弘総理は『政治家は歴史法廷の被告である』との名言を残していますが、政治で重要な視点は時間軸です。現時点で国民から支持されない政策であっても、後世のためには絶対やる必要のある政策もある。しかし小選挙区制導入以降、政策評価の時間軸が短くなってしまった。そこにネットの発展でポピュリズムが着火しやすくなっている。ここにどう立ち向かうかが、我々に与えられた最大の課題です。

 保守は必ずしも『守る』だけではありません。残念なことに、日本固有の伝統の成り立ちや系譜をよく理解していない人ほど、伝統墨守を叫んだりする。私たちは、変えるべきところは変えていかないと、守るべきものも守れない。それが保守のあるべき考え方と思います」

 林芳正・前参議院議員へのインタビュー全文は「文藝春秋11月号(10月8日発売)に掲載される。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2021年11月号)

林芳正氏